ロロロン…

ティロロロロロン…


 愛用しているわけではないが…長年使い続けている古いダイヤル式の電話機が、今日もコロコロとしたベル音を鳴らしている。

ティロロロロロン…

 仕事用の外線電話だ。急患かもしれないだろう。しかし私は立ち上がってあの受話器を持ち上げる…なんて事はしない。外は雨だ。家の裏の、その崖の下…海の波は大きく白く割れて、風と共に雨と巻き上げられていく。遠くで鳴っていた雷も次第にこっちへやってきて、今では窓の向こうに走る稲妻だけが、この電話の呼び出しベルの鳴り響く部屋を、たまの一瞬だけ照らしている。

「電話。」
 電話のベルにしびれを切らしたピノコが、今日も部屋へ顔を出すなりロッキングチェアで体を揺らすブラック・ジャックに催促をした。
「電話なってゆ!」
「放っておけ。」
 興味がないと言わんばかりに、顔の向きさえ変えずにそう応えるブラック・ジャック。
「ンも〜〜!いっちゅもそうなんらからァ!」
 ピノコがプリプリと怒りながら部屋を出て行くタイミングで、電話機は彼の声で代わりに対応をしてくれる。

『現在外出中。診療希望の方は、連絡先、氏名、及び病状…支払い可能な金額の提示をどうぞ。後日当方より、連絡致します。』

ピ───…

 依頼人の声が入るのと同時に鳴った雷で、そこから先は耳に入らなかった。


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