おれには解らない
――――後日、学校を終えた夕暮れ。ニヤついた月島に一睨み利かせてから影山は成り行きで妹と共に帰路についていた。じりじりと町に融けてゆく夕陽を何気なく見ながら、そういえば彼女がおかしくなった日もこういう奇妙な沈黙が流れてたよなだなんて、ぼんやり考える。あの日の出来事は両親にさえ告げておらず、妹も一言も口に出さないからあれは夢だったのではないかとふと思ってしまう。
「なあ」
自分の右掌を眺めて、影山は口を開く。
「どうだった」
合宿、と小さく呟けば妹は別にと返してきた。茜色に照らされた横顔は憂いているように見える。場の雰囲気故かそれとも疲れているだけなのか、影山には察せられない。
「黒尾さんどうだった?」
「うざかった」
まさかの即答に思わず笑ってしまった。「どのへんが?」「全部」あの人は一体何をやらかしたんだと思ったが、まあ彼女の性格を考えれば黒尾は苦手なタイプだろうと思い直した。彼は人をからかうのが好きそうだし。
「二週間後の、合宿さ」
「……………うん」
「来てくれるか?」
「…さあ………」
妹の視線が下がる。同時にぬるい風が沈黙の間を駆け抜け、彼女の朱色に滲んだ黒髪を掠めた。
蝉の鳴き声。ばらつく足音。子供の声。車の排気音。信号。迫る薄暮。霞む境界線。隠れるトワイライト。
「あのさ」
彼女の声が、響く。
「次の合宿も、参加する学校は変わらないの?」
「? ああ、その筈だけど」
影山の答えに彼女は「…そう」と小さく呟いて足の爪先を見た。
「何だよ」
「いや……何でもない」
朱色に滲む髪が揺れる。前髪の間から覗く瞳は漆黒に濡れていて、何故か悲しそうに見えた。
「行くよ」
顔が上がる。髪だけでなく瞳の中にも朱色が混ざって、美しいものになる。そこで影山は、自分の妹が端正な顔立ちをしていることに今更気づいた。
「合宿、手伝いに行く」
「おー。………さんきゅ」
妙に主張が激しい心臓に落ち着けと命令するものの、それは言うことをきかなかった。気恥ずかしくなり視線を夕陽に逸らせばもう地平線に融けて消えかかっていた。次いで遠くからやって来る紺色は、妹の髪色によく似ていた。