「軽率だった!!!」
「木兎さん軽率って言葉知ってるんですかすごいですね」
「お前………なんか最近俺に冷たくね?」
「そんなことありませんよ」
とは言うものの、赤葦の言動はいつもより素っ気ないし冷ややかだ。木兎は心寂しさを感じながらボールをポンポンと上げる。
「で、何が軽率だったんですか?」
一応話に付き合ってくれるあたり、まだなけなしの優しさくらいはあるらしい。
「……前の自主練の時に由貴にこれから付き合えよって言ったのに結局その翌日に帰っちまっただろ?」
「そうですね」
「あの日に二週間後の合宿も来いよって言い忘れててよー。あいつのことだから絶対来ないぜ」
あまりこちらを好いている様子はなかったから、できることなら参加したくないと彼女は思うに違いない。「あーあー!おもしろそーな奴だと思ったんだけどなぁ」溜息をついて赤葦のほうを向く。彼はぼうっとしてボールを見つめていた。あかーし?と呼べば我に返ってこちらを向いた。
「どうしたんだよ」
「いえ……………彼女、来ないんですか?」
「あ?うーん、俺の予想ではな!」
ほんとのところどうなのかは知らん!と言えば何故そんな堂々と、と呆れられた。
「じゃあお前は由貴が次の合宿に来ると思ってんのか?」
「、知りませんよそんなこと…」
赤葦は由貴の話題になると複雑そうな顔をする。最初の頃由貴に避けられていたからかと思ったがどうにも違うらしい。思えば彼女と出会ってから赤葦は物思いに耽ることが多くなったし、本人は気づいていないようだが前回の合同練習の際、彼の目は由貴を追っていた。(もしかして…)木兎の中である可能性が芽生える。
「赤葦…お前………」
「はい?」
「好きなの?由貴のこと」
「…………………………………はぁ?」
今までで一番冷徹な視線を貰った。あまりの鋭さと冷たさに木兎の背中が粟立つ。何言ってんだコイツ、と表情が物語っている赤葦を見るのは初めてであった。
「い、いやだってお前、由貴のこと妙に気にしてるみたいだし」
「………ああ、まあ………気になりますよ、彼女のことは」
じゃあやっぱ好きなんじゃん、と口走りそうになったが赤葦の射るような眼差しに慌てて口を閉ざす。すると暫しして彼はゆらゆらと視線を彷徨わせながら「でも木兎さんが言ったみたいな、そういうことじゃなくて…」とたどたどしく呟いた。
「彼女、誰だと思います?」
「は?」
今度は木兎が何言ってんだコイツ、という顔をする番だった。
「いや誰って影山由貴だろ?」
「まあそうなんですけど…………なんか、違和感あるというか」
「お前何言ってんの?」
思っていることが口から飛び出してしまった。絶対零度の怒りを食らうか!?と身構えたが思いの外赤葦は気にしていないようだった。
「不思議な人ですよね」
「あー、そうだよなぁ。ちょっと変わってる。てかお前とあいつって知り合いじゃなかったのか?」
黒尾の疑問は結局のところうやむやなままで終わらせていた。もしかしたら赤葦が何かしら思い出したのではないかと思って訊いてみたが、彼の表情は動かなかった。
「初対面ですよ、彼女とは」
「ふーん…じゃあ由貴の勘違いか」
「はい……………その筈です」
そう呟く赤葦は、無表情の筈なのにどうしてか苦しそうに見えた。


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