まほろばモドキ
昼休憩の時もマネージャーに休みはない。まず疲れている選手たちのために食事を用意しなければいけない。お膳立てをし、食事をよそう。全ての選手が揃ったのを確認して漸くマネージャーたちの食事も準備する。人の為に尽くすという行為に慣れていない由貴にとって、食事をよそう度に礼を言われることはなんだか気恥ずかしかった。
監督の合図で食事は開始する。皆がっついて食べており、喉に詰まらせる人は多々いた(主に一二年生)。
テーブルは学校別に分けられているが、男子高校生がそんな素直に席に座って大人しく食事を摂るわけがなく時々立ち歩いたり盛り上がったりとうるさい。由貴はすみに座っているため被害は少ないが騒音だけは免れない。やれやれと溜息をついて箸を置く。この合宿に参加してから溜息の数が格段に増えているが、改善のしようがないことは理解していた。
「あれ?影山さんあんまり食べてないね」
クラスメイトの山口に指摘される。「食欲ないの?大丈夫?」眉を下げている顔に「お腹空いてないだけだから」と無難に答える。
「そっか…でもちゃんと食べないと熱中症になっちゃうかもよ」
「そうだヨ由貴チャン」
突然にょきっと黒尾が湧いて出たため山口の肩がびくりと震えた。またコイツかと由貴は溜息をつきそうになったが堪える。流石にクラスメイトの前で悪態をついて印象を下げたくない。これまでできるだけ目立たないように静かに生きてきたのだから、これからの為にもこのキャラは演じ続けていたい。
「由貴チャン細いんだからもうちょい食べてたほうが良いと思うよ」
「……お世辞でもどうも」
「いやいやお世辞じゃないって。ていうか食べとかないと本当にぶっ倒れるよ」
今日めちゃくちゃ暑いしと呟く彼に同意するも、彼の言う通りにするのは癪だった。
「お、何だ何だ?黒尾ォ由貴が何か面白いことでもしてんの?」
「いや違うから。幼稚園児の木兎クンと違って由貴チャンはおしとやかに食べてます」
「ハァ!?誰が幼稚園児だよ!!」
「木兎さん以外に誰がいるんですか」
赤葦の冷静な発言に木兎は何だとォォ!と子供のように騒ぐ。
「…?影山さん、食欲ない?」
まだ食事が残っているトレイを見て赤葦が眉をひそめる。「無理して食べる必要もないけどサラダくらいは食べておいたほうが良いよ」適切な回答に由貴は思わず黙る。
「あと食べられるなら味噌汁も摂ったほうが良い。この気温じゃ塩分とかすぐなくなるから」
「……分かりました」
「ちょっと待って由貴チャン。俺と赤葦とじゃ何でそんな対応に差があんの?」
隣で黒尾が木兎のように喚くが無視しておく。そのまま箸を取れば黒尾が不貞腐れたように唇を尖らせた。全然可愛くない。我慢していた溜息が口の端から漏れ出た。
「そういう顔やめてもらえませんか」
「可愛すぎて?」
「キモイんで」
「ちょっ……聞いたかお前ら!今由貴チャンの口から“キモイ”って言葉が出たぞ!?」
「黒尾さん、それよりもキモイって言われたことに注目したほうが良いですよ」
聞いてねえなこいつ、と由貴と赤葦は顔を歪める。面白がっている黒尾たちは「キモイだって!」「黒尾キモイってよ!」「オメーのほうがキモイよ!」と遊んでいる。愉快なものだ。
「…馬鹿だな」
「俺もそう思う」
独り言を赤葦に拾われたがまあ良いかと訂正するのはやめた。だって事実だから。
ふと前に視線を傾ければ山口が引き攣った笑みでこちらを見ていた。何だろうと首をかしげれば彼の口がひくひくと動く。
「なんていうか……影山さんって結構毒舌なんだね」
印象操作、失敗したな。すぐさま悟った。