『どうしてそんなに必死にやるんですか』
その言葉は、どうしてか由貴の鼓膜に妙に響いた。
二日目の夜。今日も今日とて黒尾たちの自主練習に付き合わされていた由貴。今回も昨夜通りにボール出しをしたりリエーフの介抱をしていたら、なんと月島が自らここへやって来た。どういう風の吹き回しだとばかりに皆で彼を見つめていたら、彼は質問があって来たと述べる。曰く、今やっているバレーはたかが部活で将来履歴書に“部活を頑張った”と書くくらいの価値しかないのに何故そんなに必死になれるのか、ということらしい。
言いたいことは分かる。大抵の人は“あの時頑張ったな、勝てて楽しかったな、負けて悔しかったな”という思い出に昇華される。学生時代にバレーをやって、それを実用的に役に立てている者などほんの一握りだ。大人になれば“頑張りました”という言葉で片づけられ、“今”は過去の楽しかった出来事として記憶の片隅に残るだけじゃないかと月島は考えているのだろう。
後輩のこの質問に彼らはどう返すのだろう。木兎と黒尾に目をやる。
「――“ただの部活”って、なんか人の名前っぽいな」
「おお…!“タダ・ノブカツ君”か!!」
ずっこけたくなった。
「いやちげーよ!“たかが部活”だよ!!」
「!! ぐぁぁ!?そうかぁ人名になんねー!」
「惜しかった!」
勝手に二人で盛り上がる中「…これつっこんだほうが良い?」と月島に訊かれたので「放っておこう。下手に触ると面倒なことになる」とだけ返した。
「あーっ!眼鏡君さー!」
「月島です…」
「月島君さー!バレー楽しい?」
唐突な木兎の質問に月島は怪訝そうにしたが「いえ、特には」とだけ返事をした。
「それはさ、へたくそだからじゃない?」
なんてことを言うんだこの先輩は。月島もそんなド直球に言われると思わなかったようで、体に雷が走っていた。しかし木兎はお構いなしに「俺は三年で全国にも行ってるしお前よりも上手い!断然上手い!」と無遠慮に述べるものだから由貴は当事者でもないのにハラハラしてしまう。
「でもバレーを“楽しい”と思うようになったのは最近だ」
「!」
「“ストレート打ち”が試合で使い物になるようになってから」
木兎は元々クロス打ちを好んで使っていたそうだが、ブロックに徹底的に止められるようになってからは悔しくてストレート打ちを練習したらしい。結果、次の大会で同じブロック相手にボールを全く触らせずストレート打ちを決めた。
彼にもそういう時期があったのか、と由貴は少々びっくりした。
「その一本で“俺の時代キタ!”って思ったくらいだね!!――その瞬間が、“有る”か“無い”かだ」
“将来のこと、次の試合のことなんて一先ずどうでもいい。目の前の試合で勝利を手にした時の快感が全て”。
彼らしい意見だ。由貴は小さく口角を上げる。月島の臍を曲げさせてしまわないかと心配するのは杞憂だったらしい。木兎の持論に黙って耳を傾ける彼を見ていたら、彼も案外素直な性格なんだということが窺えた。
「――もしも、お前に“その瞬間”が訪れたとしたら……それがお前がバレーに“ハマる”瞬間だ」
彼に来るだろうか、“その瞬間”が。いや来るだろう、きっと。由貴はどこか確信していた。
「はいじゃあ質問答えたからブロック跳んでね」
「ハイハイ急いでー」
先程の真面目さなどどこに行ったのか、木兎と黒尾は月島をコートに押し出す。質問に答えてもらった手前、彼は渋々ながらも黙ってされるがままになっていた。
「……木兎さんっていい人ですよね」
始終静観を貫いていた赤葦に述べる。
「………………そう思う?」
「はい。うるさいけど、いい人です」
赤葦は何とも言えない顔をして視線を下げた。「さあ行きましょう赤葦さん。セッターがいないとバレーできないでしょ」由貴は顔を見ずに赤葦を見送った。


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