彼はどうしたのだろうと由貴はずっと不思議に思っていた。昨日と殆ど同じだが、赤葦のほんの些細な変化を由貴の五感は逃さなかったのである。僅かだが彼の態度がよそよそしい。何かしてしまっただろうかと考えてみても、思い当たることはなかった。
「おーい由貴!」
「はい?」
「見てたかー!!俺のすっげースパイク!!」
「ああ済みません、見てませんでした」
「何ィ!?」
黒尾をふっ飛ばしたすげーイイヤツだったのに!と怒る彼をぼんやり眺めていたら、不意に赤葦を目が合った。
――ぷいっ。
「……は?」
「どしたの由貴チャン」
「…いえ…」
何故か思いきり逸らされた。ちょっとこれは解せない行動だ。納得もできない。今日の昼までは普通に接していたというのに。夕方に何かあったのだろうか。
いずれにせよ由貴の心境はあまり良いものではない。
「よーしっ。もういっぺんやるぞ!あかーし!!良いトス頼むぜ!!」
「はい」
ムカつく――由貴の今の気持ちを簡潔に表すなら、その一言が妥当であった。何故なら彼の目は何か言いたそうな感じだったからだ。それを隠して素知らぬふりをする彼は、まさしく“強がっている”ように見える。元来由貴は言いたいことははっきり言うタイプだ。だから、今の赤葦の態度はどうしても由貴の癇に障った。
「影山さん顔怖いんだけど」
「…ああ、それはごめん」
「王様みたいな顔するのやめてよね」
月島は兄のことを“王様”と呼ぶ。兄にそのあだ名がついたのは確か中学時代のいざこざが原因だったような気がするが、今はそんなことどうでもいい。「なんだかんだで双子なんだねぇ」からかい口調でそう述べる月島に、由貴は思わず拳を握る。
どいつもこいつも面倒くさい。
「黒尾さん、私はそろそろ部屋に戻ってもいいですか」
「えーっ」
「そんな声上げても全然可愛くないんで」
「ほんっと辛辣なんだから。んー……じゃあ連絡先教えてくれるなら戻っても良いよ」
「は?」
何でそうなるんだと黒尾を見つめても、黒尾はニコニコ笑みを絶やさずにいる。真意は分からないが仕方がないので由貴はスマホを取り出した。
「ラッキー!由貴チャンの連絡先ゲット」
「じゃあ私はこれで」
「おー。お疲れー」
「お疲れ様でした」
背後で木兎の「何で帰しちまうんだよ!」という抗議が聞こえてきたが無視した。うるさいなぁと後ろを一瞥すれば、赤葦とまた目が合った。今度も逸らされた。


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