「どういうつもりなんですか」
夜、廊下にある自販機のところで赤葦は黒尾に問いかけた。何が、と淡々と問い返す黒尾に、赤葦の中で不快感が募る。彼はそんな赤葦など気にも留めずに小銭を自販機に投入した。小銭を飲み込んだ機械音が、暗闇を震わせた。
「自主練の時のことですよ」
「ああ、由貴チャンとの連絡交換のことね」
その言葉にどきっとする。あんまりにもあっさり言ってのける黒尾を、赤葦は羨ましく思った。
「別にお前には関係ねーだろ」
こちらに視線を一切向けず、ペットボトルの蓋を開ける黒尾の声音は冷たかった。怒っているのだろう。少し意外だった。
「…俺からすれば、あん時のお前の行動のほうが『どういうつもりなんですか』なんだけど」
ぎろりと睨んでくる彼の眼光は迫力があった。つい体を固くすれば、黒尾は目元を和らげた。それから盛大に溜息をついてミネラルウォーターを飲む。怒っているんじゃないのか?何でそんな理性的になれる?掴めない彼の態度に赤葦は困惑した。
「何か心境の変化でもあったのか?」
極めて冷静な声に赤葦は困ってしまった。うんともすんとも言えない。
「………お前が何にそんなビビってんのか知らねーけどよ、残り三日だぞ」
「!」
「あと言っとくけど、由貴チャンの連絡先教えてって頼んできてもお前には絶対教えてやんねーから」
知りたきゃ自分で訊け、と素っ気なく言った彼は赤葦の横を通り過ぎた。
「好きじゃ…ないんです」
やっと絞り出して紡いだ声は情けなくも震えていた。
黒尾が立ち止る。振り向く気配がしたが、赤葦の体は動かなかった。
「限りなく好きに似ている……“何か”なんです…」
自分でも何を言っているのかよく分からない。だが、今の心情を言葉で説明するにはそれが精一杯だった。別に現国が苦手ではないのだが、どうしてだか彼女に対する想いを言葉にすることができない。
苦しい。
「……そうか」
黒尾はそれを馬鹿にするわけでも、嘲笑するわけでもなく、ただそう答えた。


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