ガキじゃあるまいし分かるだろ?
どれだけ悩もうが立ち止ろうが、時間というものは非情にも規則正しく流れるわけで。気持ちはいまいち乗り切れないまま三日目を迎えた。今日も由貴は黒尾をあしらいながら黙々とマネ業を務めている。流れる黒髪が艶やかだとか、そういえば一度だけ見たスパイクフォームは指先まで美しかったなだなんて、赤葦はアップを取りながらぼんやりと考える。邪念を持っていれば試合に負けてしまうだろうと己を窘めても中々払拭することができなかった。
「あかーし、今日調子悪いのか?」
木兎が気を遣って訪ねてくる。まさか彼にばれているとは思わないだろう。驚けばバカにすんなよ!という風に頬を膨らませてきた。百八十越えの大男がそんなことをしたって可愛くない。
「…木兎さん、その仕草はちょっと…」
「なっ何だよ!ちょっと可愛げある感じにしてみたかっただけだし!」
「全然ないです」
「ないんかい!」
相変わらず元気そうで羨ましい。その元気さを少しは分けてもらいたいものだ。
「悩み事か?」
「…そうだと言ったらアドバイスでもいただけるんですか」
「無理だな!!」
何に悩んでいるかも訊かずに、即断る木兎。まあそうだろうなと予想していたので別に驚きはしない。
「だってお前、頑なに好きじゃねえって否定してんのにどうやってアドバイスすんだよ」
しかしこの言葉にはびっくりした。少なくともボトルを落としてしまうくらいには動揺した。
「木兎さんは何で俺が影山さんを、その…好意的に見てると思うんですか?」
「だーかーらー!見てたら分かるっつーの!!」
「…俺、そんな分かりやすい態度出してるとは思えないんスけど」
「そうだろうな!でもなんか分かるんだよ。ぶりっこしてるしよ」
(ぶ、ぶりっこ…)非常に聞き捨てならない。交友関係を円滑に進める為にその行為はある程度必要だが、まさか自分が恋愛事においてそれを発動させるとは思うまい。無自覚の辺りが余計に怖い。そう、赤葦自身そんなつもりで接していたわけではないのだ。だからこそ木兎の発言に首をかしげざるを得ない。
「そもそもよォ、お前ドリンクが空だからって自分で作りに行ったことなんてないだろ」
「……いつの話してるんスか、それ」
「分かってるくせに訊くな!とーにーかーくー!変な意地張ってる暇があんならコクれよ!」
「無理です!!」
そんな…そんな簡単に一歩踏み出して良いわけがないと、赤葦は感じていた。理由は分からないが、とにかくそんな自分の不埒な想いを彼女に押し付けるわけにはいかないと思っているのである。(…って、あれ…)ここまで考えて気づいた。完全に、彼女に対して想いがある前提で話を進めていると。
「でもよォ、もうすぐ帰っちまうんだぞ」
「………」
「宮城かぁ…遠いなぁ…俺ももっとあいつと遊びてーのに…あいつ何で宮城に住んでんだよ」
彼女を想うと、心臓が痛くなる。泣きたくなるほど切なくなる。でも話していると、胸が暖かくなる。そしてふとした瞬間に、何故か喪失感に苛まれる。
これが恋というのならば世の女子たちはなんて情緒不安定な生き方をしているんだと衝撃を受ける。創作物によくある“甘酸っぱい恋”ではないではないか。こんなにつらくて悲しくて、こんなにも暖かいものが恋である筈がない。だからきっと彼女に抱くこの感情は“好き”ではないのだ。
――だったら、これは一体何なんだろう。
「…俺も木兎さんもガキってことなんですかね」
「おーそうだなぁ……って俺先輩なんだけど!?」