昇らない明日
それから―――。
花が芽吹き、太陽が照り、葉が落ち、雪が解けた。彼がいない時を過ごした。無色な日々を平坦にこなした。
再会は、突然だった。
暮れ六つの寒空の下。雑踏の中で由貴は見つけた。唯一“家族”と認めている存在を。彼は“前”の時より身長が伸びていて、高校生か大学生くらいに見えた。ランドセルを背負っている自分がひどく子供に思えたが、声をかけないという選択はなかった。
足の速い彼に追いつくのは苦労した。人だかりを押し退け、息を乱して彼の服の裾を掴んだ。間近で見た彼はやはり大きかったが、“前”の鋭い瞳は何も変わっていなかった。
期待した。
「――何だお前」
期待、していた。
何でそんな目で見るの。何で他人なの。何で名前を呼んでくれないの。
何で、思い出してくれないの。
「? おい…」
「すみません」
彼の服の裾から、手を離す。
「人違いでした」
ああ思い出した。“ユキ”はとっくの昔に死んでいたんだった。
今更、そのことを思い出した。
それからどうやって帰ったか覚えていない。体の芯は冷えていて、頭もぼんやりしていて、手もかじかんでいた。体も心も彼に告げられた事実を受け入れられなかった。
もうなにもかもどうでもよかった。早く終わらせよう。今度こそ全て忘れて、早く楽になろう。
「ばっ…ばかじゃねーのお前!!いきなり何しようとしてたんだよ!!」
だがそれは血の繋がった兄に止められた。これまで心の余裕がなくて、つまらなくて、相手にしていなかった兄が、あまりにも必死な目で訴えていた。
頼むからもう放っておいてくれ。お前だっていつかは忘れてしまうのに。誰も覚えていてくれないくせに。私はとっくに死んでいるのに。――思えば思うほど、涙は止まらない。
しかし、不意に由貴は既視感を覚えた。
そういえば兄のこの目をどこかで見たことがある。どこでだろう。兄と出会ったのは今回が初めての筈だ。なのに何故、見覚えがあるのか。
(――!)由貴は右掌に視線を落とした。
『生きろッ!!!』
鼓膜の内側で、あいつの声が蘇った。
何で。
「…こんな…………」
「え?」
「こんなの……いらない……」
痣となった傷は時を経ても主張し続けていた。爪を立てても消えてくれない。声も、昨日聞いたかのように瑞々しく耳に残っていた。
由貴は兄の目を見る。やはり、あの時のあいつとそっくりだった。