The departures.
ユキは彼と約束をしていた。二人にとって互いは絶対的な存在で、どちらかが欠けては生きていけなかった。だからどちらかが命を落としたら、残されたほうは必ず後を追おうと約束していた。それは他者からすれば歪んだ約束かもしれないが、二人にとってはそれはどんな愛の誓いよりも確固たる契りであり、そのくらい二人は互いを欲していた(しかしながらそんな関係でありながら恋愛関係に発展しなかったのだから、彼らを間近で見ていた者からすれば不思議な関係だったと言えるだろう)。
そしてユキはあの日、その約束を果たそうとしていた。
早く死んでしまおう。早く死んで、“次”で彼に会おう。そう思っていた。だからガス残量も刃の鋭さもどうでもよかったし、地面に落下した衝撃で額から血が出ても気にならなかった。背後の大きな足音に安堵するなんておかしなやつだな。と心の中で笑いながら、ユキは待っていた。これで漸く終われる。長かった戦いが終わるんだと、息をつく。
だが、そうはならなかった。
ドン!と誰かに押された衝撃で青草の上に倒れ込む。(え、)後ろのほうで何かが木にぶつかった音がした。次いで、巨人の荒い息遣い。苦しそうなくぐもった声。(だれ)上体を起こし、揺らぐ視界で辺りを見る。
「…………ぇ…?」
何であいつの右腕が食われているんだ。幹に押し付けられたあいつは、左手のブレードで巨人の顎を突き刺し、なんとか奴の動きを止めていた。
一体何をしているんだ?――ユキの頭は珍しく、働かなかった。しかし彼の右肩から滴る血液が草を濡らした音で、やっと頭が思考し始めた。
“私は部下を巻き添えにしようとしている”その考えに至るのに、時間はかからなかった。
何で、どうしてと、ユキは混乱した。体は硬直したままだった。
「生きろッ!!!」
「―――っ!」
あいつの怒鳴った声を聞くのは初めてだった。ましてや、ユキに向かってだなんて。
あいつの目は悲しそうで、必死そうで、そして“ユキを死なせたくない”と言っていた。ユキ一人を助ける為なら命など惜しくないと、告げていた。
その時ユキを支配したのは、彼との契りでも兵団の命令でもなかった。
あいつと同じように、ユキもまた、あいつを死なせたくなかった。
体は動いた。ユキはブレードの破片を握りしめると、無駄な動き一つなく巨人の目玉にそれを突き刺した。次いで巨人の肩を借りてその背に乗り上げ、項のところにブレードを差し込んだ。ユキを振り下ろそうと巨人が暴れる。離されまいとユキはブレードを固く握った。血が噴き出した。でも、痛くなかった。痛いのはもっと別のところだった。
なんとかもう一文字、項を斬りつけて削ごうとしたが、その前にユキはついに背から振り落とされてしまった。まずい、食われる。先程とは真逆のことを思う。ひやりとしたが、巨人がこちらに向かってくる前にあいつが気力を振り絞って、奴の項を削いだ。
奴もあいつも、倒れる。ユキは慌ててあいつの傍に駆け寄った。血が噴き出し、息も絶え絶えなあいつにユキの胸が痛んだ。
「…ばかやろ…………っ」
滲んだ世界でそう呟けば、あいつが小さく笑った気がした。