ノックが響いた。この家を訪問する者は少ない。誰だろうと疑問を抱きながら戸を開ける。
「やあ、久しぶり」
懐かしい顔がそこにあった。
「お久しぶりです、ハンジさん」
「ごめんねぇ、突然押しかけて。今大丈夫?」
「はい。どうぞ中へ」
「おっじゃまっしまーす」
今日はたまたま片付けをしていて良かった。密かに安堵してハンジを迎え入れる。綺麗な部屋だねー!と呑気に言って無遠慮にキョロキョロ目を動かす彼女に、相変わらずだなと苦笑した。
「紅茶淹れますね」
「うん頼むよ」
そういうふてぶてしいところも変わっていない。漸く大人しく椅子に座ったハンジを一瞥し、湯を沸かす。左手でこなすのも慣れたものだ。
「最近どう?元気?」
「まあまあ元気にやってますよ。兵団は?」
「うーん。こっちもそんな感じ」
「忙しいですか?」
「そりゃもう!相変わらず人員不足だし給料低いし!」
「…大変ですね」
「まあねー。この間なんかお偉いさんが兵団を視察に来てさー。何て言ったと思う?」
「さあ……」
「『随分小さな小屋に住んでいるようで。大変ですなぁ』だってよ!小屋じゃねーよ!!」
「………………ハンジさん」
「まったく……ほんっと失礼なんだから!君もそう思わ、」
「ハンジさん」
目を合わせ、改めて呼べばハンジは口を閉ざした。
「そんなことを言いにわざわざ足を運んだんじゃないんでしょう?」
「…………バレてたか」
困ったように微笑むハンジ。いつから隻眼になっていたのだろう、と思いながら使われていないカップに紅茶を注いだ。
振り向いて、カップを彼女の前に置く。ありがとうと小さく礼を言ってハンジは口をつけた。暫し、無音。カップをソーサーに置いた音が響いたことにより、時が流れ出した。ハンジは胸ポケットから小さな布を取り出す。
「これを君に」
テーブルに置かれたのは、自由の翼のエンブレム。血が付着して色褪せていた。手に取ってみれば、案外小さいものだったんだなと気づく。
「――――どんな、最期だったんですか」
意外にも冷静な己に驚いた。
ハンジはとても静かな声で述べる。
「最期に、人類にとって非常に有益な情報を掴んでくれた。彼女は本当、人類に貢献したとても優秀な兵士だったよ」
嗚呼、知っている。そんなこと。誰よりも近くで見てきたんだから。自由の翼を背負うその背を。知っている。あの勇敢な姿を。
「…そうですか」
左手に雫が溢れた。それが涙であることに暫く気づけなかった。
予想していないわけではなかった。待たなくていいと告げられたあの日から、こうなるのではないかと薄々勘付いていたのだ。
「あの人らしい…ですね」
待たせてさえくれないんだから。あの人は相変わらず隣には立たせてくれない。一人で突っ走って。こっちの気なんて知らないで。
本当に、馬鹿な人なんだから。


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