「あ、の…………」
混乱してるんだろうなぁ、だなんて他人事のように黒尾は考える。由貴の背後には壁、顔の横には黒尾の腕。俗に言う壁ドンというやつだが、果たして由貴がその名称を知っているのか分からなかった。ましてやこの状況が意味することも、きっと彼女は理解していないのだろう。
「……分かってねえよなぁ」
「何が…ですか」
「由貴チャンさ、俺のこと何も分かってねえんだろーなーって」
眉をひそめる彼女の表情が答えを表していた。何も言わない辺り、少なくとも黒尾の様子がいつもと違うことは察しているらしい。賢い子は嫌いじゃないよと頭を撫でれば、由貴は小さく肩を竦めた。ああやだな、とても可愛い。
「由貴チャンは赤葦のこと好き?」
「は?」
「…まあ好きだろうがなかろうがどっちでも良いんだけどさ、今後の参考までに」
できれば好きじゃないほうが嬉しいんだけどなァ…と言って彼女の白い喉を人差し指でなぞれば、由貴の体は硬直した。顔に走る緊迫。それだけで黒尾の中の加虐心が疼く。更に頬に指を滑らせてみれば由貴は拳を握った。「ちょっと。暴力反対」からから笑って言ってみたが、由貴の緊張は解れなかった。
「…離れてください」
「嫌だよ」
まだ何も告げていないのに。
「あのさ由貴チャン」
彼女の黒曜石の瞳に、僅かに畏怖が入る。やめてくれよそんな顔。願っても由貴は笑ってはくれない。
止まらなかった。壊してでも、黒尾は想いを告げたかった。壊さなければ、今度は黒尾が壊れる番だったからだ。
「俺、由貴チャンのこと好き」
驚愕の色に変わる由貴の顔。彼女の薄桃色の唇が何かを紡ごうと開かれる。しかし黒尾はそれを無視して由貴の腰を引き寄せた。
「ごめん」その言葉を飲み込んで、黒尾は由貴の唇に噛みついた。


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