全員覚えていたら
「テメェ何で由貴といやがる」
「お久しぶりです兵長。何でと言われましても彼女は今俺の後輩なんで」
「由貴今すぐ帰るぞ」
何でこうなった、と由貴は辟易した。
夏の日差しが容赦なく降り注ぐ某日、影山由貴は赤葦京治と共に備品の買い出しに向かっていた。どうやら備品の数が報告されていた品数と合わなかったらしく、急遽買いに行かなければならない事態になった。そこで抜擢されたのが由貴と地理に明るい赤葦だった。まあ赤葦に関しては自主的に由貴に付き添うと申告してきたが。
そこで何の因果か、東京でリヴァイと再会した。由貴は既に彼とは再会していてこれまでにも何度か会っている。赤葦と彼はおそらく今が初めての再会だろう。それなのにどういうわけか、妙に険悪な雰囲気が出ていた。
「リヴァイ、合宿の手伝いに来てるんだから勝手には帰れないよ。荷物だって宿舎にあるし」
「知るか」
「落ち着いて下さい兵長」
「テメェ、外で兵長はやめろ」
「それもそうですね。あ、俺は赤葦京治といいます。よろしくお願いします」
「今世までお前とよろしくするつもりなんてねえよ」
嫌そうに眉根を寄せるリヴァイ。するとどういうわけか赤葦はそれにしても、とまじまじリヴァイを見上げた。
「随分と大きくなられましたね」
「!?」
唐突な侮辱に由貴は赤葦を二度見した。リヴァイが以前の身長を気にしていたというのは周知の事実であり、間接的にでも触れられると怒るというのは赤葦だって知っていただろう。それなのに彼は直接言いやがった!何をやっているだと呆れつつ、由貴はそっとリヴァイの顔色を見やる。
「…誰に向かってそんな口聞いてんだ、京治よ」
案の定めちゃくちゃ怒っていた。
「あ、赤葦さん…そろそろ戻らないと」
「影山さん、ちょっと待って。俺リヴァイさんに言わなきゃいけないことが…」
いや待ちたくない。誰でも良いからこの場から私を救ってくれ――――と願った瞬間、「あれ!?皆お揃いでどうしたの!?」幸か不幸か第三者の声が響いた。聞き覚えのある中性的な声。
「ハンジ!?」
「やっほー皆久しぶりー。どうしたの?」
「……クソメガネは一回死んでもクソメガネなんだな」
ハンジとは全員一度は再会したことがあるらしく、誰も彼女の登場に驚きはしなかった。「酷いなぁ、折角また会えたっていうのに!」ムッとするハンジに苦笑する。
「それで、三人は道端で何を?」
「いや…私たちはもう帰ろうかと………」
「その前にリヴァイさんに伝えなければならないことがあります」
ハンジの興味津々な視線をものともせず、赤葦は真っ直ぐリヴァイを見据える。何を言うつもりなのだろうか。
「“以前”は明確な立場も、純粋な力量差もありましたので俺は遠慮していました」
何に対してだ?不思議に思い僅かに首をかしげれば、隣にいるハンジが笑った。
「でも今は違います」
赤葦もリヴァイも視線は揺るがない。
「きっとリヴァイさんはご存知だったと思いますが、俺は“以前”から……“今”もずっと、ユキさんをお慕いしています」
――ん?
「リヴァイさんには負けません…今度こそ」
「……………ハッ、上等だ」
――いや何が上等なんだ。誰か私にも分かるように説明してくれ。
助けを求めるようにハンジを見れば、ハンジは「良かったね由貴!」と嬉しそうに言って背中をバンバン叩いてきた。何も良くない。
「影山さん」
いきなり呼ばれ、びくっと肩が跳ねる。
「な、何ですか」
「俺、影山さんのことが好きだから」
“だから、覚悟してね”だなんて笑顔で述べる赤葦。
リヴァイの苛立たしげな視線とハンジの好奇に溢れた視線を貰いながら、由貴はこれからをどう切り抜けようか途方に暮れた。