その日は二人とも非番だった。珍しく休みが重なったリヴァイとユキは、久しぶりに街に赴くことにした。紅茶の茶葉や彼女の趣味の為の食材を見に、市場へと足を向けた。ユキはどちらかといえば紅茶よりもコーヒーのほうが好きらしいが、こんな食糧難でコーヒー豆が手に入るわけがない。リヴァイはいつも彼女に気づかれない程度に豆をこっそり探すが、結局いつも手には茶葉が収まっていた。だからリヴァイは大抵、自分にできる最大の気遣いと丁寧さで、ユキの為に紅茶を注いでいた。
「あ、トマト」
帰ったらこの茶葉で紅茶を淹れてやろうと考えていたら、急にユキが立ち止まった。彼女の視線を追えばそこには真っ赤なトマトがたくさん置かれていた。
「見るのか」
「ん、ちょっと待ってて」
膝に手を置き、真剣な表情でトマトを見つめるユキ。それは見慣れた光景だった。ユキは大体一二回くらい、食材のいくらかを時間をかけて吟味する。なんでも同じ種類の野菜であっても個体によって旨味が違うらしい。料理に造詣が深くないリヴァイには違いが分からなかった。ただ彼女の素材の味を生かした料理は誰が作ったものよりも美味しいから、彼女の目に狂いはない。それだけは知っていた。
(…………)
張り詰めた横顔のユキは、今日の夕飯のことを考えているのだろう。
ただの女の子として夕飯のことを考えるユキを、リヴァイはいつもとても好ましく思っていた。そういえば、彼女は地下で生活していた頃はよくこの表情を見せていた。兵士としてのユキを否定するつもりはないがそれでもやはり、あの頃の家にいてくれた彼女を、リヴァイは時折思い出す。
(縛りつけるつもりはねぇ、が………)
かつての仲間二人の、あんな最期を目の当たりにして―――ユキがあんなことになったら、と、想像しないわけがない。
「決めた。これとこれと、これにする」
「そうか」
「! リヴァイ、お金は私が………」
「今日は俺が払う」
有無を言わさず代金を払えば、ユキは驚いた顔をしていた。「…ありがとう」「お前の飯が食いたくなっただけだ」許されるのならいつも食材費を払ってやりたい。
「トマトスープに、パンと……」
楽しそうに料理の構想を練るユキを眺め、歩幅を合わせた。ユキは若干歩くのが遅いから宿舎までの帰路が伸びる。
「なあ」
夕陽が、もうじき沈む。
「もう少し、寄り道して行かねぇか」
そう言えばユキは優しい微笑を浮かべる。たったそれだけで、リヴァイは幸せを感じることができた。


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