この日もイタチは普段通り市夜の許へ来ていた。日常と化していたので市夜は何も言わずにそれを受け入れる。イタチは今日も市夜の隣に座ると、チラと市夜を見やってから小川を眺めた。
ふぅ、と息を吐いて市夜は布を取る。
ここ最近、市夜はよくイタチの前で布を取ることが多い。イタチに対して警戒を解いた故であろう。
「…そういや」
「キュ?」
「あの黒髪野郎、最近えへんな」
「キ…」
「…まあええわ」
そう言ってふい、とイタチから視線を逸らす市夜。そんな姿を見てイタチは市夜の指に鼻先をすり寄せた。慰めのつもりかと、市夜は声を出さずに少し笑った。
「イタチが気ィ遣わんでも」
呟いて市夜は小川に近づいた。「ついて来ィ」とイタチに呼びかける。だが、イタチがかさりと歩き出したその時…。
―――ッシュ!!
「…――!」
「キュッ!?」
遠方から何かが迫って来る気配。市夜は脇差でそれを払い、イタチと布を鷲掴む。攻撃は迫る。市夜は跳躍して太い木の枝に飛び移った。
「…誰や」
「へへっ、お前遠野の妖怪だな!?」
市夜が先程居た場所には五人程見知らぬ妖怪が居る。それぞれ武器を手にしていて、先の言動からしてみても、どうやら彼らは外の妖怪らしい。
「丁度良い!こいつの首をあいつらの屋敷のど真ん前に置いておこうぜ!」
「良いなァ…これから一気に殺るつもりだったがそれが良い」
「へへ、でもその前に楽しもうぜ?」
彼らの言葉を聞き流しながら市夜はイタチを胸元に突っ込んだ。突然の行為にイタチは慌てて襟から頭を出す。しかし一体どうしたのか、イタチは前足で市夜の胸元を触った。
「! このボケ何わいの胸触っとんねん!」
「ピギッ」
ドンッと鈍い音がするとイタチはピクリとも動かなくなった。容赦ない行動に男たちは(うわぁ…)と引く。人間ならば間違いなく動物愛護団体に訴えられていただろう。
イタチの反応が無くなったのを確かめると、市夜は一瞬で敵の許へ向かい、一人を刺し殺した。
「なっ…」
「遠野の分際で!!」
「あんたら勘違いしてるけど、わいは遠野の者やない……ただの余所者や」
それを皮切りに男たちは市夜に飛びかかった。だが実力が雲泥の差だったらしく、決着はすぐさま着いたのであった。
勝者は、言うまでもない。
「なんやったんやこいつら」
「…キュゥ」
市夜の中から脱出したイタチは、死体に近づいて匂いを嗅いでいた。
「そんなモン嗅がんでええやろ」
「キュッ…キュ!」
「あ?」
必死に何かを伝えようとするイタチだが、言語が通じるわけがなく、市夜は怪訝に思っただけで聞く耳を持たなかった。
それにしても奴らは遠野自体を狙っていた。
彼らの言葉からして、皆殺しにするつもりだったのだろう。
「ハッ、遠野も色々恨み買われてんねんな」
吐き捨て、「お前もう帰れ」とイタチに言う。未だに何か伝えたそうな素振りなイタチだったが、市夜はそれに目もくれずにその場を去った。