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 気がついたら暗い場所にいた。
 最初に感じ取ることができたのはそれだけで、理解不能の状況に慌てて手をバタつかせる。程なくして意外と近くに壁のようなものを発見し、ぺたぺたと触れて(殴って)みるがいかんせん身動きが取りにくい。なんだか温かい水に包まれている気さえする。

 この時点でもう色々おかしいのだが、私も意味のわからない事態にパニックになっていて冷静に分析などしている余裕はなかった。


「(なにこれ、どういう状況……?)」
「うぅ……! う、生まれそう……」
「え、本当ですか!? レイラ様、しっかり!」
「(ええ……??)」


 え、何事。人が壮絶に焦っている横で出産でもするおつもりですか。そもそも、どうして自分は出産現場であろう場所に居合わせているのか。一大事なのはわかるけれども、それはこちらも同じなので誰か一人くらいは助けに来て頂いてもよろしいでしょうかだめですかそうですか。
 きっと、こんなことになっているのは彼女ら(聞き取りづらいがたぶん女性の声だ)のせいではないのだが、遣る瀬ない気持ちをどうにか消化しようとえいえいと壁を蹴ったり殴ったりしていたら、次の瞬間には押しつぶされて狭いところに追いやられていた。ただでさえ狭かったというのに、なんという追い討ちだろうか。しかも、何故だか壁が動いたような……? あまりにも怖すぎる。


「うぅ〜……!!」
「レイラ様、もう少しですよ! 頑張ってください……!」
「おぎゃぁぁーー!!(よくわからないけど、やっと解放された……!)」
「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ」


 先刻からの話題の子はついに生まれたようだった。
 新しい生命の誕生におめでとう、と内心で密かに祝う。正しく他人事であったのは、その時の自分の状況を理解するので手一杯だったからだ。しかし、それも長くは続かなかった。


「──よく頑張ったね」
「ぎゃあー!(えっ?)」


 不意に、持ち上げられる感覚がした。優しげな声が耳を撫で、温かな熱が体を包み込む。
 おかしい、と咄嗟に思った。だって、自分がそれを“されている”と自覚してしまうのはおかしすぎるのだ。沸き上がる嫌な予感に思考が停止し、けれども状況を打開しようとグッと両目に力を入れる。ここがどこで、何が起きているのかを明確に把握するためだった。

 果たして、己の身体は全く言うことを聞いてはくれなかった。瞼が上手く開かず、思考どころか視界さえも閉ざされた私は、この瞬間嫌な予感が的中したと悟る他なかったのだ。
ハローワールド