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・三巻最後の「ハッピーのちょっとお仕事2」のお話。ハッピー視点。
・原作にて明記されてない部分は捏造&想像です。
・時系列は不明ですが、番外編の「羽魚を捕まえろ」よりは後。おそらく「鉄の森編」も終わったくらい。
・本編よりもだいぶノリが軽い。唐突に始まって唐突に終わる。



 あい! オイラは、ナツとルーシィとチームを組んでるハッピーです。
 今回の仕事は『ヤセキノコの採取』。ヤセキノコはダイエット食品として、今女性を中心に注目されてる魔法のキノコなんだ。

 木の根元に生えているキノコを見つめ、ふふと笑みをこぼすと、近くで野ウサギに気を取られていたルーシィが振り返った。彼女が不思議そうに首を傾げる。


「どうしたの、ハッピー?」
「オイラ知ってるよ」
「なにを?」
「ナツが笑いダケみたいな毒キノコを食べちゃうんだ。お約束なんだ」


 自信を持って宣言できる。キノコ探しといえば、どの物語でも必ずと言っていいほどにそういう展開になるのだから。どやっと胸を張ると、ルーシィはくすりと笑いながら「それは困るなあ」とオイラの頭を撫でた。
 さては、信じてないでしょ? 彼女の反応に一瞬だけむっとしつつも、微笑ましげな様子を見れば、どうしても毒気が抜かれてしまう。

 ふと、背を向けていたナツがこちらを向く。その手は収穫したキノコで溢れていて、さらにもしゃもしゃと食べていたものだから、思わずほらね! と指摘したくなった。ルーシィがぎょっと目を見張る。


「なに言ってんだ、ハッピー。さすがにそんなベタなことしねぇよ」
「いい? ルーシィ。これは“フリ”なんだ」
「いや、それより生で食べるのはまずいって……」


 そもそも、毒があったらどうするの! そう言ってルーシィがナツに詰め寄り、膨らむ頬を両手でむぎゅうと挟み込む。
 いつも思うけど、ルーシィは焦ると人との距離を気にしなくなる。普段はギルドの誰よりも穏やかで優しく、グレイの脱ぎ癖にもまだ慣れていないのか、慌てて目を逸らすくらいなのに。

 そんな様子から女の子らしくて可愛いと、着々と妖精の尻尾のアイドル枠としての立場を確立しつつある。もちろん、本人の耳には届いてないけど。
 でも、メンバーのみんなが沸き立つのもしょうがないよね。だって、妖精の尻尾の有名な女性陣といえば、エルザに(今は引退してるけど)ミラ、それからカナ辺りだ。もれなく全員おっかない。だからこそ、ルーシィはより浮いて見えるのだろう。


「早く吐き出して、」
「ん? んんんんん!」
「ホラーー! キターー!」
「え、ナツ!? 飲んだの?? だめって言ったのに……!」


 突然、喉を押さえ苦しみだしたナツに、興奮して飛び跳ねる。ナツのことはもちろん好きだ。これは愛あるいじりであって、それ以上でもそれ以下でもない。
 期待した瞬間をじっと待つ。

──ポコッ。


「びっくりしたぁ」
「ひっ、なにそれ……!!??」


 けれど、訪れたのはナツの頭にキノコが生えるという謎の展開だった。なんだ、笑いダケじゃないのか……。全く、こんなのどうしろっていうんだ。ストレートが来るかと思ったのに、フックをくらった感覚だよ。
 いじけて足元のキノコを適当に引っ掴む。それから、あっと気がついた。ナツを見て戦慄しているルーシィの背を叩く。


「ね、ルーシィ見て。ヤセキノコっぽいやつ」
「え、あ、確かに似てるけど……今それどころじゃ」
「でも、依頼書にはニセモノ注意って書いてあったよね。これ本物かなぁ?」
「間違って持ち帰ったら、妖精の尻尾の名折れだよなァ」
「なんで二人とも動じてないの??」


 ぱくり。徐にヤセキノコ(仮)を一口食べると、ルーシィが「あーっ!?」と仰天した。さっきのナツみたいに両頬をぎゅむっと包まれる。必死な形相でぺってしてって言われたけど、構わず飲み込んだ。
 本物か確かめたかったし、あわよくば面白いことが起きるんじゃないかと思って。


「ん、んんんん!」
「こら、ハッピー!」


──ぽこんっ。

 目の前のルーシィが絶句した。
 頭の違和感に目をやる。案の定、キノコのカサが見えた。「二度目はさむいよっ!」あんまりな仕打ちにその場で崩れ落ちた。ネタが被るなんておいしくないよぉ。悔しくて、ぐずぐずと鼻をすする。ルーシィの震える声がした。


「待って、ハッピーもまずいけど……ナツのキノコ、さっきより成長してない……?」
「う。なんか重いと思ったら……」
「ずるいよ〜!! ナツばっかりおいしいトコ〜〜」


 オイラは地面に蹲った。
 もう、このまま亀になってやる! 尽く期待を裏切られた心の傷は大きいんだからな、キノコどもめ……っ!

 結局、本物のヤセキノコは湖のほとりで群生を見つけました。オイラとナツのキノコも簡単に取れたよ。ルーシィがすっごくほっとしてたのが印象的。なんだかんだ今回で一番面白かったのは、彼女の慌てようだったかもしれないね。ちゃんちゃん。
ヤセキノコを探せ