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・四巻最後の「ハッピーのちょっとお仕事3」のお話。ハッピー視点。
・原作にて明記されてない部分は捏造&想像です。
・時系列は不明ですが、おそらく「鉄の森編」終了から「ガルナ島編」始まる前のどこか。
・本編よりもだいぶノリが軽い。唐突に始まって唐突に終わる。



 今回、オイラに舞い込んできた仕事は『とあるボロ屋敷のネズミ駆除』だ。
 ルーシィと一緒に依頼書に書かれていた屋敷に来たはいいけど、本当に見た目がボロい。窓ガラスはところどころ割れてるし、外壁には蔦も伸びてる。形はホテルみたいに立派なだけに、なんだかもったいない。


「お化け屋敷みたいだね……。老朽化で崩れないといいけど」


 隣で同じく屋敷を見上げていたルーシィも顔を引きつらせて嘆息した。確かに、夜に訪れていたら今よりずっと雰囲気がホラーに寄っていたはずだ。だって、すでにそれらしい。
 不安げな表情の彼女を励ますように、ぐっとガッツポーズを作る。


「大丈夫! 今回はナツいないし、いつもの“作戦T”はないから! そう簡単に建物は壊れないよ。……たぶん!」
「その『たぶん』が心配だなぁ……」


 苦く笑うルーシィ。でも、励まそうとした気持ちは伝わったのか柔く微笑んで、優しくオイラの頭を撫でてくれる。心地良い感覚にくふくふと口元を緩め、きゅっと目を細める。

 そういえば、オイラはよくルーシィにこうして撫でられているけど、ギルドのメンバーが羨ましそうにこっちを見てることがあるんだよなぁ。主に男が。人間の事情はよくわからないけど、やっぱりルーシィはとても可愛いのだろう。それもすっっっごく。
 じゃなきゃ、ナツの不在(ナツは指名の仕事に行っちゃった)をいいことにルーシィを仕事に誘おうとする輩が大勢現れた件に説明がつかない。まあ、ルーシィは優しいし? 頭もいいし? 珍しい星霊魔法を使うし? 気持ちはわからなくはないけどね?

 え? 言い寄ってきた奴らはどうしたのかって?

 もちろん、オイラとナツで牽制しといたよ。チームメイト以外と仕事に行っちゃいけないルールはないけど、なんか取られたみたいで嫌だからね。


「よーし、がんばるぞー。ルーシィのことはオイラが護るから安心して。ネズミたちと生き埋めになんてさせないよ」
「あ、ありがとう、ハッピー……。でも、その……ネズミ相手にそれで挑むの?」
「あい!」


 それ、とルーシィが指で示した先にある武器──ハエたたきをぶんっと勢いよく振るう。
 オイラの手に馴染む大きさなので、ちょうどよかったのだ。小さなネズミならこれでノックアウトできるはず。自分を鼓舞するように握りしめていると、ルーシィがどこか複雑そうな顔で「無理はしないでね」と眉を下げた。うん、やっぱりハエたたきじゃ心許ないか……。


「それにしても、なんでミラは『ネズミ退治』を推薦したんだろ?」
「うーん、ネズミ捕りには猫ってイメージが強いからかな? 実際、昔はネズミの被害を猫が防いでいたって話もあるし……」


 言いながら、ルーシィがごそごそと鞄から布のようなものを取り出し、オイラの口元にぐるりと巻いた。きゅっと頭の後ろで結び目を作られ、首を傾げる。
「なにこれ?」と生地(手拭いっぽい)に触れてルーシィを窺うと、彼女自身もマスクやら手袋やらを装着していた。なんか大掃除の時の格好って感じ。ルーシィがもごもごとマスクの下で、さも当然とばかりに理由を告げる。


「今回の依頼のネズミは毒ガスを吐くんでしょう? もし、吸っちゃったら大変だし……。そうじゃなくても、野生のネズミはダニとかノミとか感染症とか色々あるから」
「うへぇ〜、毒ガス以外にもあるの? ミラに二人で行ける仕事って言ったのに、結構危ないじゃないか」
「ハッピーに合うサイズの手袋がなかったから、ネズミに触れないように気をつけてね」
「あいさ……」


 お互いに頷き合い、ひっそりと目の前の扉を開けた。来てしまったものは仕方がない。妖精の尻尾の名にかけて、尻尾を巻いて逃げるなんてできないのだ。
 ギィ、と古びたドアの音がして、薄暗い室内に太陽の光が差し込む。直後、視界に映った光景にビシリと体が固まった。ルーシィが「ひっ」と小さく悲鳴を上げ、咄嗟に扉を閉める。


「……なんかいっぱいいた!! 一匹どころじゃないよぅ!」
「思ったより多かった……」


 でも、Gじゃなくてよかった。と、ルーシィが辟易した様子で呟いた。『じー』ってなんだろう。
 まあ、とにかくオイラが頑張らないと! ルーシィは口には出さないけど、たぶんナツがいないことを心細く感じているはずだ。オイラを足手まといとか戦力外とか、そういう風に思う子じゃないとわかっているからこそ、力になってあげたい。


「こうなったらオイラがこのハエたたきで……!」
「いや、数匹ならまだしも、あんなにいたら厳しいと思う。すごい大群だったし、危ないよ……」
「だ、大丈夫!『窮鼠、猫を噛む』って言葉あるでしょ?」
「あるけど、その立場だと噛まれるのはハッピーの方だよ」
「えっ……あれ!? ホントだ! ヤバイ!」


 うう、なんてやりづらい相手なんだネズミどもめ……。
 腕を組み、あれこれと作戦を練ってみる。「アクエリアスの水で一掃するのは?」「アクエリアスは水がないと呼べないの。呼べたとしても、水の勢いって見た目以上にすごいから、ネズミどころか建物ごと壊れちゃうんじゃないかな」「そっかぁ……」こういう話を聞くとルーシィもやっぱり妖精の尻尾の一員なんだなって思う。主に物を壊す観点で。いや、壊す素質があるのは彼女じゃなくて、星霊たちの方だけど。

 作戦会議の結果、ルーシィがマスクなどの装備品と共に買ってきていたラクリマを使ってみるという話にまとまった。
 ラクリマはお店でも売っている簡単な魔法道具だ。その用途は様々だが、今回使うのは匂いに関連する消臭剤やアロマ的なものらしい。数ある中から彼女が選んだのは、ミントやハッカなどの清涼感の強い香りらしい。実はネズミが嫌がる匂いなのだとか。

 あとは超音波も効果的だけど、オイラにも影響があるかもしれないからやめたんだって。ルーシィって物知りだよね。どこからそんな情報を仕入れてるんだろう。
 結局、オイラは何にも役に立ててないなぁ。しゅん、と耳を垂らすと、俯いた視界にすっとルーシィの片手が現れた。手のひらの上には程よい大きさのラクリマが乗っている。


「上の階はハッピーに頼んでもいい? 中に入るとネズミがいるかもしれないから、割れた窓から軽く投げ入れてみて。衝撃を加えると匂いが広がるはずだから」
「! あいさー!」


 頼ってもらえたことも、オイラにできることがあったことも嬉しくて。元気よく返事を返し、その手からラクリマを受け取った。

 その後、ネズミたちは目論み通りに匂いを嫌がり屋敷を捨てて出ていった。しばらくは効果が続くので、すぐに帰ってくることはないだろうとの事。解体するなり修繕するなり、早めに対応すればまた住処になってしまうことはなさそうだ。
 ナツ抜きでも上手くいったことに安堵して、オイラたちは達成感に、ぱんっ! とハイタッチをした。
ネズミを駆除せよ