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穏やかな風が森の木々を揺らしては、ついでとばかりに野花の香りを誘ってくる。隙間から宝石のような光を落とす木漏れ日は、踊る様に形を変えてキラキラとその輝きを増し幻想的な光景をつくり上げていた。小鳥のさえずりがどこからか聞こえてくる朝の森は、いつだって澄んだ空気に満ちている。


「どう白雪、見つかった?」
「んー、まだ見つからないな……アリスは?」
「残念ながら私も。隈なく探してはいるんだけど……」


じっと凝らしていた目を一度閉じて、ぐっと体を伸ばす。隣でその様子を見ていた白雪もくすりと小さく笑うと同じように体をほぐした。さわさわと優しい風が再び吹いて、私達が被っているフードを緩やかに靡かせ通り過ぎる。


「風が気持ちいいね……さて、休憩終わり! 残りの薬草探しちゃおう」
「え、今休憩入ったばかりじゃない……? さすが白雪……」
「ふふ、アリスだってこういう作業は嫌いじゃないでしょう?」
「私は、きっと白雪に影響されたんだと思うよ」


ちらりと視線を横に投げると同じタイミングで同じことをした白雪と目が合って、ぷっとこれまた同じタイミングで吹き出して笑う。見慣れた緑の瞳が柔らかく細められ、彼女の鮮やかな赤といい、両者共に森に映える色で心底綺麗だといつも思う。ひとしきり笑い合うとどちらともなく歩み出し、薬草探しが再開された。


「お店の時間もあるし、早く探さないと」
「お客さん困らせるといけないもんね」
「うーん、帰りの時間も計算に入れるとそろそろ危ないかな……」
「そうだね……って、白雪あれ!」
「あっ!」


ぱたぱたと見つけた花ーーのそばに生えている薬草に駆け寄る。知識のない者が見ればただの草にしか見えないそれも、私達にとっては必要不可欠な大切な存在で、今まさに欲していた対象だった。じっと二人で見つめて探していた薬草であると確認すると、それを採取して鞄に詰め込みほっと息をつく。


「なんとか見つけたね……確かこれで全部だったよね?」
「うん、間に合ってよかった。ありがとう、アリス」
「お互い様だよ。こちらこそありがとう、白雪」


二人で笑い合っていると鐘の音が響いてハッと現実に引き戻される。お店の開店時間が迫っている証拠であるその音に、私達は慌てて来た道を引き返して行った。
prologue