沖田 短
「なんで隊長はあんなこと言うんでしょうね?」
「あんなこと?」
副長に頼まれたお使いの途中、見廻り中の#name1#の後ろ姿を見かけ声を掛けると、浮かない顔で振り返る。ああ、山崎さんですかと表情を1ミリも変えることなく構わず歩き出す彼女に慌てて駆け寄りどうかしたの?と問いかければ、先ほどの言葉で問い返された。
「副長のことですよ、副長」
「副長がどうかしたの?」
「副長に報告書出しに行ったんですよ、朝。そしたらね、昨日の討ち入りの様子を聞かれたんでいろいろ話してたら急に隊長がスパーンて襖開けて入ってきて」
「いつもいきなりだもんね、あの人」
「すんごい形相で「んなの報告書読みゃわかんでしょう」つって」
「へぇ」
「いつまでくっちゃべってんでィってゲンコツ食らったんです。痛かったぁ…」
「災難だったね」
「討ち入り前にコンビニ寄って立ち読みしてたのバラされると思ったのかなぁ」
腑に落ちないといった顔でとぼとぼ歩く#NAME#。うーんと唸りながら頭のてっぺんをさすっている。おそらくまだゲンコツの痛みが残っているのだろう。歩幅を合わせながら屯所への道を歩く。時間的にもう見回りを引き上げて帰るところだろう。
「副長と関わると碌なことないから近寄るなって言うんですよ。無理じゃないすか、一切関わらないのって。あの人が副長である限りそんなの無理ですよって答えるとめちゃくちゃブチギレるんですよなんだあの上司」
「いや、多分副長のせいじゃないと思うよ」
「どーゆーことですか?」
「この前一番隊の人と喋ってる時も怒られてたでしょ?」
「ああ、そういえばあれはやばかったですね。隊務終えての雑談であんなしこたま怒られると思わなかった」
「#NAME#ちゃんがさ、沖田隊長以外の人と楽しそうにしてるのが面白くないんじゃないかな」
「俺の部下のくせに、ってことですか?それこそやばいですよ」
全く理解できないです、とかなんとかブツブツ文句を言う彼女の背後に黒いオーラを感じ口を噤む。まだ気づいていない#NAME#に目線で合図を送るも、愚痴は止まることは無かった。
「だいたい隊長の始末書も一緒に出してあげてるのに、とんだ恩知らずですよ。副長の下の方が断然ホワイトです。副長補佐募集してないかなー」
ね、山崎さん。と目を合わせて俺の顔色に気づく彼女。と同時に背後にある殺気を感じ取りゆっくり首を回す彼女の肩にガシッと手をかけたのは紛れもない彼女の上司である沖田隊長だった。
「へぇ、拾われた恩を忘れて白昼堂々と飼い主の愚痴ですかィ」
「た、隊長…お疲れ様です」
「見回りご苦労。で、俺がなんだって?」
「な、なん、だったかなぁ、山崎さん」
「俺に振らないで」
ぐんぐん肩に食い込む沖田隊長の手に彼女の顔は苦痛に歪んでいく。おいザキィ、と呼ばれ目線を合わせると、この場を去れとの合図だとすぐに理解した。じゃあ、俺は副長のお使いだからと頭を下げて足速に立ち去る。すれ違いざまに彼女の涙目が「薄情者」と訴えていたが知ったことか。巻き添えは御免だ。
「さあ、邪魔者は消えた。釈明は?」
「何を言っても無駄な気がするんですが」
「俺のことよく理解してるじゃねぇかィ」
「か、飼い主ですもんねあははは。あ痛い痛いもげる!肩もげる!」
肩に食い込む手が離れたと思ったら今度は腕が首に巻きつき、そのまま歩き出した隊長に引きづられる形になった。「まだまだ始末書が残ってるっってーのにいつまでも帰ってこない部下探して連れ戻す、健気な上司に不満かィ」と少し怒りの色が消えた表情でチラリと見下ろされ、目が合う。あーえっと、と言葉に迷っているとすぐに目線は外されてしまった。答えは求めていなかったらしい。
「その始末書ってほとんど隊長のですよね」
「るせェ」
「ちょと独占欲強いのも考えものかなぁ」遠くなる後ろ姿に山崎は呟き、同時にポケットの中で震えた携帯を手に取り画面を見ると「副長」の文字。電話を取るとおい、と低すぎる声にビクッと肩が揺れた。
「俺のお使い放っぽって#NAME#とおサボりこいてるって本当らしいな」
「すいません走って帰ります」
この真選組にホワイトな部署などない。