68:悩んで迷ってその先に未来がある

精霊とはその存在を認識出来る彼らにとってどんな存在か、きっと私はそれを正確に理解することは出来ないだろう。
私には見えないものだから。
幽霊や妖怪の類いではない、付喪神が1番近いのだろうか?
いずれにせよ彼らは意思を持ち、自分を大切にしてくれるカードの持ち主には敬意を払っている。
そこにある絆は人間同士のそれと大差ないのだろう。
寧ろ友人や家族には言えない事だって精霊には言える、そんな事もあるのだろう。
当たり前に生まれるわけではない存在、そんな精霊を救えなかった彼は今どう感じているのだろうか。

心臓を抉られるような、大好きな世界、大好きな人がいる世界、それが現実になった今私は以前と同じようにこの世界を好きでいられるのだろうか?

「十代がいない」

考え込んでいた私はその言葉にハッと我に返って周りをぐるりと見渡した。
ヨハン君と翔君も同じようにキョロキョロと彼を探して周りを見渡し名前を呼んでいる。

そうだった、と気付いた時にはもう遅かった。
この後どうなるだなんて知っていた筈なのに、いや、知っていたからといって何か出来るわけでもないのに。
それでも知らないフリをするのは違う。
せめて全て見届けたい、そのつもりで着いてきたというのに。

行かなければいけない、走り出そうとした私の手を掴んだのはヨハン君だった。

「少し落ち着け。この状況で更にはぐれるのはまずい。なによりそうなったら十代に顔向け出来ないからな」

一見この場にそぐわない笑顔を浮かべるヨハン君。
きっと私を安心させようとしてくれているのだろう。

「そうッスよ。アニキは名前さんがいないと駄目なんッス!...あれ、じゃあ今ってもしかしてヤバいってことっすかね?」

翔君はそう言って顔を青ざめた。
私は彼らに十代君との事を詳しく話した事はない。
おそらく十代君だってそうだろう。
そういった話を自らする人ではないと思う。
それでも彼らにとって十代君はそんな風に見えているらしい。
なんだか嬉しいような照れ臭いような。

「ごめんなさい、勝手な行動をしてしまって」

2人に頭を下げればはぐれたのは十代の方だから、今はとにかく早く十代を探そう、とヨハン君は言った。
この時本来であればヨハン君と翔君は別々に十代君を探していた気がするが私というイレギュラーがいたからだろうか。
3人一緒に探すことになった。

それにより一つ不安になった。
この後のことだ、きっと私達は十代君と佐藤先生のデュエルに間に合わない、いや、もう終わっているのかもしれない。

状況が変わってしまっている。
私が物語としてこの世界を見ているだけだった頃、彼、十代君が弱音のようなものを吐いたのは殆どなかった。

自暴自棄な事は何度かあった、それは周りをシャットアウトしているようなことばかりで。
相談のような言葉を口にしたのはヨハン君に対してだけだった気がするのだ。

それが悪いわけではない、十代君だって意識して周りに壁を作っていたわけではないと思う。
適当に見せかけてなぜか自己責任の意識が非常に強かったのだ。
自分に譲らないもの、大切なものが明確にある。
だから彼は1人で決められる。

生きていれば自分の考えを否定される場面は沢山あるだろう。
十代君もここに来てから何度もそんな事はあった。
それでも傷付いたのはきっと自分の事で傷付いた人がいる、その結果に対してなのではないだろうか。
デュエルが終わればみな分かり合えてきたのだ。
今の今まで。

「顔色かなり悪いッスけど大丈夫ッスか?」

翔君は私を心配してそう声をかけてくれた。
もしもここで、翔君がいる前で十代君が弱音をはいてくれたならこれから起こる悲劇に何か良い影響を与えてくれるのではないか。

「ありがとう、大丈夫だから、少しでも十代君を見つけましょう?」

あれが完全に彼の意思ではない事は分かっている、邪神経典の力で負の感情が増幅させられたからこそ起こった事だ。
そしてあれはきっと翔君自身の為にも必要な事なのだと思う。

「アニキがいない間はボク達がついてますから安心してくれていいッスよ!」

「...ありがとう」

悲しいすれ違い、それでもそれはちゃんと意味がある。

だから私は。