子供が出来ました

「ん〜どうしようか!」

デュエルアカデミアを卒業して名前はプロデュエリストとしてデビューした。
自身がプロとして生きて行く事を決めたように十代は自身のやるべき事を決め世界へと飛び出していった。
道は別れたが互いを想う気持ちは変わっていなかった。
だからこそ名前は笑顔で十代を見送る事が出来、十代も名前の所に帰ってくると誓い、それぞれ自分が進むべき道を走り始めた。

「まぁそりゃ可能性はゼロではなかったんだけども」

名前は手に持った妊娠検査薬を見てどうしたものかと頭をひねった。
名前は自身のお腹に十代の子を身籠っていたようだ。

(まぁどうしようもくそもないんだけど)

名前にとってその子供を産む事は確定している事だった。
悩んでいるのは自分がプロとしてデビューしたばかりだという事。

(デビューしてそっこう妊娠とかしかも未婚だし炎上するだろうしスポンサーはどうだろう?)

名前は実に現実的な人間だった。
決して不倫や人に言えない相手の子を身籠った訳ではないが、何かにつけて人を悪者に仕立てあげ騒ぎたがるマスコミ達が自分に好意的な動きをしてくれるとは思わなかったからだ。

「でも取り敢えず子供が生まれると暫く働けなくなるだろうしまとまったお金さ必要よね〜
うん、取り敢えず片っ端から大会に出てリーグ戦で賞金を稼ごう!」

名前は現実的である以上に前向きであった。
そしてその解決策として、とにかく当面の生活にかかるであろう金銭を稼ぐ事を決意し、今まで以上にデュエルに力をいれる事を決意した。














「なんですってぇぇええ!!!!」

事の次第を同級生の明日香や翔、万丈目、吹雪に報告するとそれを聞いた明日香が信じられないと言わんばかりに怒りの声をあげた。

「十代はなんて言ってるの!!!???」

「十代にはまだ言ってないよ。次落ち着く場所が決まったら連絡もらうって約束だから!」

あっけらかんと話す名前に明日香の頭が激しく痛みを訴えた。

「名前君、きみは本当にそれでいいのかい?新しい命の誕生というのは実に喜ばしい事だけれどそれは決して君だけの問題じゃないんだよ?」

吹雪は今にも十代を取っ捕まえに飛び出しそうな明日香を宥めつつも名前に諭すようにそう言った。

「うん、でも私は十代と同じだからね。言っても言わなくても同じだと思うしちゃんと次連絡がとれた時には言うよ!」

当たり前のように一人で子を産もうとする名前に怒り狂いそうな明日香を余所に名前は普段通りの笑顔で吹雪にそう答えた。

「同じってどういう意味なんすか?」

それを先程まで黙って聞いていた翔が名前の言葉の意味について訊ねる。

「んーとね、私やっぱり自分のやりたいこと、やるべき事は放り投げたくないんだ!」

いつも通りとても明るい表情でなんでもないことのように名前は言葉を続ける。

「私はプロになる事を夢に見てデュエルアカデミアに入学したの。
そこで大切な仲間達と出会い大切な人と出会った。
そして夢を叶えプロデュエリストとなり大切な人の子供を授かったの。
それを全部なかったことになんてしたくないんだ!」

だからこそ夢だったプロデュエリストとして働いてその稼ぎで愛する我が子を育てたい!そう続けた。

「それでもそれは貴方一人で為すべきことではないわよ!」

明日香は名前にそう訴える。
明日香の意見はごく当たり前の考え方であった。
それでも名前の意思は堅かった。

「一人じゃない。だって私の心に十代がいるんだもの。そしてこの子の母親は私よ」

そう言って愛しそうにお腹に触れる名前は既に母親の顔になっていた。

「というかそもそも十代が死んだ訳でもないんだし今度日本に帰ってくることがあればちゃんとお父さんだよって教えてあげられるんだし大丈夫でしょ!
仮に十代が子供を望まなければ私が一人で育てるしなーんにも問題ないよ!」

そんな事を笑顔で平然と口にする名前に明日香はもう眩暈を起こしそうになっていた。

「いや〜、名前君は本当に凄い女の子だねぇ〜」

吹雪すらも名前の超お気楽な考えに参ったと降参して両手をあげた。

「ま、そういうことなんだけど暫くは妊娠の事も黙っておくからいずれ騒ぎにはなるかもしれないけどまぁ気にしないでね!」

それは名前がもっと気にしなければいけない事ではないのかと3人はため息をついた。
学生時代から名前の底なしの前向きさには心底驚かされていた。




「おい、名前!お前に一つ素晴らしい提案がある」

先程まで会話に入らず口を閉ざしていた万丈目がここで初めて口を挟んだ。

「なになに?なんの話?」

そう聞き返す名前に万丈目はフフンと自信に満ちた表情である提案を投げかける。

「我が万丈目グループはこの度新しい事業を始める為の準備をしている。
今そのプロジェクトの最終段階でその為のモニターの募集をかけようとしていたところだ!
それは医療に携わることだ!
多くの女性は新しい家族の誕生で夢や仕事を諦めざるおえなくなることがある。
その後も復帰することは難しくそれを両立する事は至難の技だ。
だからこそ我が万丈目グループはそんな人々が夢や希望を諦めずに活躍出来るよう、出産前後のサポートを含めた今までにない医療サービスが受けられる病院の設立に手をかけたのだ!
名前!お前はその第1号モデルとなりそれらを宣伝し我が万丈目グループが如何に偉大かという事を世に知らしめろ!」

万丈目の語る壮大なプロジェクトの提案に皆が目をぱちくりとまばたきした。

「えっ、私が万丈目グループ事業の、モデル?」

さすがの名前も突然の提案に驚きそう聞き返した。

「ああ、お前は俺様程ではないがプロになる前から大会で優勝成績を残しそれなりに知名度がありファンもいる。
万丈目グループの素晴らしいプロジェクトの広告塔としての価値は申し分ないだろう。
女性の社会進出を手助けする事を実現した企業として、万丈目グループを運営する兄さん達の株も上がる。
名前、先程お前は当分働かなくてもいいようにと言ったが一度この世界(プロの世界)を知ったお前が本当にその時間に耐えられるのか?
下手をすれば何年もの間、プロとしてそこでしか味わえないスリルや喜びを感じられるデュエルのない生活をおくることに本当に耐えられるのか?」

万丈目グループが企業として得られるメリットを説いた後、万丈目は名前にそう問いかける。
名前は十代や万丈目達と同じくらい、下手をすればそれ以上にデュエルを愛していた。
だからこそ離れていても強い絆で十代と結ばれていて、その子の為に意思を固めていたのだ。

「サービスにかかる費用のことは心配するな。
モデルケースとしてそれらを宣伝として公開させてもらう事を条件に全ての費用は万丈目グループが負担させてもらおう。
妊娠中の期間も医師が体調管理に携わりスケジュールの調整もサポートしてやる。
お前は目の前のデュエルに集中し、なんの不安を持つこともなく子供を産み、その後もプロとして活躍すればいい。
男尊女卑が糾弾される今、プロとして、母親として活躍するお前を世間が応援する気持ちを持てばスポンサーはお前を切るような愚かな真似は出来んだろう。」

不敵な笑みを浮かべ万丈目は名前にそう語った。
名前はそれを聞いて目を輝かせて感謝の言葉を伝える。

「〜〜万丈目〜!かっこよすぎるじゃない!!十代と出会っていなければ万丈目と結婚したいって思うくらいかっこいいよ!!ありがとう!!是非その事業プロジェクトの力を借してもらいたい!」

あまりにもイケメンな万丈目の提案に感動のあまり万丈目の両肩をつかみ前後にぶんぶんと揺らし感謝の気持ちを伝える。

「〜やめんか〜〜!!貴様などが俺様と結婚など来世以降も有り得んわ!貴様のような奴には十代のような男がお似合いだ!」

名前の腕を振りほどき乱れた身なりを整えながら万丈目はそう言った。
名前の言葉を否定した万丈目の言葉は名前にとって本当に優しい言葉だった。
なんて自分は恵まれた人間なのだろうと心の底から自分を心配してくれる仲間達に感謝した。


「名前、私は貴方の親友よ。いつでも貴方の事を考えているし助けたいと思ってる。だから貴方が決めた事をもう否定しないわ。その代わりなんでも言ってほしい。私に出来る事はなんだってするわ」

名前の報告を受け怒り狂っていた明日香も万丈目の提案を聞き、考えを改め名前の意思を尊重し協力することを誓った。

「僕だって勿論そうさ。名前君は明日香の大切な友人、僕にとっては妹も同然だからね。僕に出来ることはなんだって言ってくれたまえ、協力はおしまないよ」

明日香の意見に同調し、吹雪も名前に優しく声をかける。

「僕にとっても名前さんはとても大切な仲間だ!ましてや兄貴の子供を産むんだ!弟分の僕がその子を守る為になにもしないなんてありえないっす!」

翔も自信満々に胸を張り名前に誓った。

「たまには俺様の役に立つんだな」

最後に万丈目の言葉で優しく背中を押された名前はその提案を受け入れる事を決め、後日万丈目グループと正式にその契約を交わした。