今日は遊馬君が居残り勉強をさせられている為一人だった小鳥ちゃんを誘ってお茶をしにきていた。
折角の機会なので璃緒ちゃんも呼んで3人で女子会のようなものをしていた。
可愛い後輩二人といるのはとても癒される。
小鳥ちゃんのする話の殆どは遊馬君の話だ。
璃緒ちゃんの話も殆どが凌牙君の話。
二人が一番大切に思っている人の話だった。
私は基本的に聞き手に回っていた。
関係性は違えど大切な人の話をする二人の表情は幸せそうに見え可愛らしくて癒された。
「ガキの癖に色気付いてて笑えるな」
その日心地よい天候であった為テラス席に座っていた事が仇となった。
その楽しい時間をぶち壊すような言葉が後ろから聞こえた。
その言葉は璃緒ちゃんでも小鳥ちゃんでもなく私に向けられて言われた言葉だという事を理解している。
そしてそんな言葉を吐いた相手は確認するまでもなく分かっている、IVだ。
その嫌味は小鳥ちゃんがつい先程私に訊ねた、私が今日告白されたという噂話の真偽について向けられたものだった。
彼を不快にさせた理屈は分からなくもない。
だからと言ってそもそも歳が2つしか違わない同じく未成年の彼になぜそのような嫌味を言われなければいけないのだ、と苛立つ感情の方が勝ってしまった。
私が告白した訳でもないのになぜこのような言われよう、あまりに理不尽ではないだろうか?そう考えてしまう。
普段であれば聞き流せるような彼の幼稚は言葉にどうしようもなく胃がムカムカする。
おそらくそれは日頃彼に対して抱いていた鬱憤や蓄積された小さな不満がたまたまその日の私に導火線に火をつけ爆発してしまったのだろう。
彼の子供染みたからかいが心底面倒くさくなって大きくため息をついてしまう。
そんな私に小鳥ちゃんと璃緒ちゃんは目を丸くした。
「····名前、さん、あの···」
そういった態度を人前で、ましてや可愛い後輩の前でとらない私のそんな態度に戸惑いを隠しきれずに小鳥ちゃんが不安げに私の名を呼んだ。
璃緒ちゃんも同じように動揺しているのが目に見えて分かる。
ああ、しまった、彼女達にこんな顔をさせるつもり等なかったのに。
そう反省して慌てて二人に笑顔を向ける。
巻き込んでしまって申し訳ないが二人には少しだけ私のストレス発散に付き合って貰おう、そう考え二人に声をかけた。
「ねぇ、私の異性の好みの話してもいい?」
「え?ええ、それは興味深いですけれど···」
完全にIVの存在を無視した私の態度に璃緒ちゃんは戸惑いがちにちらりとIVを見た。
小鳥ちゃんも同じようにIVを気にしている。
私はそれに気付かないフリをして気にせずに言葉を続ける。
「私はね、紳士的な人が好き。
好きな人に素直になれなくて大人げなくからかうような幼稚な男あり得ない、嫌い、全然嬉しくない。
私はひたすら私を愛でて私を慈しむ言葉をくれて真っ直ぐに私を愛してくれる人がいい、じゃなきゃ絶対に好きにならないし一緒になんていたくない。」
一呼吸でそう言い終えた私に璃緒ちゃんも小鳥ちゃんもひきつった笑顔を私に向けている。
二人とも私がそれを彼に対する嫌味として言っている事を理解しているのだ。
私は二人に笑顔を向けた後立ち上がって振り返りIVの方を見た。
先程私を馬鹿にした表情をしていたIVはもういない。
あからさまに私の言葉にショックを受けた顔をしている。
「こういう女もいるのよIV。
貴方も好きな女の子には私にするみたいな事しない方がきっと上手くいくわよ。
ああ、でも貴方はとても女性に人気があるみたいだから余計なお世話だったかしらね?」
わざとらしい笑顔を彼に向けそれだけ言ってすぐにIVから視線をそらして座った。
私の可愛い後輩二人はなんとも言えない顔をしている。
大人げない所を見せたと少し反省した。
「そろそろ暗くなるし今日は帰りましょうか。
二人共今日はありがとう、楽しかったわ」
せめてものお詫びにその日は私がご馳走した。
会計を終え店を出て二人が帰っていくのを見届けてから私も帰ろうと身体を翻した瞬間何者かに腕を掴まれそのまま路地裏へと引き摺りこまれた。
私はすぐに犯人が分かり再び大きくため息をついた。
「····私の話聞いていなかったの?IV」
IVは私に力いっぱい抱きついて肩に顔を埋めている。
「痛い、離れて」
そう伝えるもIVは嫌だと顔を左右に振って私から離れようとしない。
そこ姿はまるで幼児がぐずっているようだと思った。
私の肩が冷たくなっていくのに気付いて仕方なく私は彼の頭を子供にするように撫でてやった。
「貴方子供じゃないんでしょう?
なら大人らしくして、甘えないでよ」
切り捨てるようにそう言えばIVは肩を震わせて更に泣き出してしまった。
これは早く制服を洗濯しなければ明日学校に行けない等と呑気な事を考えていた。
昨日の今日で学校をサボれば今日居合わせた小鳥ちゃんと璃緒ちゃんは原因に気付いてしまうだろうし。
本当にめんどくさい、めんどくさいのだ、この男は。
「っ俺が名前の事を、ひっく、好きなの、知ってる、せに···なんで、なんであんなこと、っ、言うんだっ!!」
先に喧嘩を売ってきたのはトーマスの方なのにまるで私を悪者のように言うIVにイラついて舌打ちをしそうになるのを必死で我慢した。
普段の彼からは想像出来ないそのあまりの変わりように彼は二重人格なのではないかとさえ考えはじめた。
「····貴方が余計な事言わなければ私だってあんな事言わないわよ」
IVは泣きじゃくってぐちゃぐちゃな顔をあげて私を見た。
みっともないと顔をしかめながら私のハンカチで彼の顔を乱暴に拭いた。
「だって、俺がいるのに、俺がこんなに名前を好きなのに、名前が告白なんてされるからっ···ひっく···ぅ····」
折角綺麗にしたのに彼はそう言って言葉を言い終える前に再び泣き出してしまった。
そこに私に何か過失はあったのだろうか?
私が浮気したならともかくとして、彼の言っていることは完全に言いがかりではないか。
「そんなに私が信じられないの?
貴方が傷付いたら私を攻撃する事が正当化されるの?
だとしたら本当にそんな人の事好きでいられない」
私の言葉に彼は再びわんわん泣いて私に力いっぱい抱きついた。
先程食べたケーキが逆流しそうだと思った。
「私の事好きだって言うなら私を信用して。
貴方の不安をぶつける為だけの攻撃的な言葉を私にぶつけないで。
私はひたすらに私を愛してくれる人が好き」
先程あの場で言った言葉を再び口にした。
IVはごめんなさいと嫌いにならないでと何度も言いながら泣きじゃくっている。
堂々巡りになってしまっている、これではキリがないと内心ため息をついた。
「IV、····トーマス、キスしてあげるから顔あげて」
彼の本当の名を呼んでそう言えば震わせていた肩がぴたりと止まり再び顔をあげた。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃな不安そうな顔ももう一度拭ってマシになった顔を掴んでそのままキスをした。
数秒間そうしてゆっくりと彼から顔を離せばトーマスは蕩けたような顔をしている。
これでは彼の方が女の子のようではないか。
「····制服洗わなきゃいけないからもう帰らなきゃ、····貴方もうちに来る?」
トーマスは一瞬顔を歪ませるも家に来るかと誘いの言葉をかければ何度も何度も顔を縦に振って私の腕に抱きついた。
本当にこれではどちらが女か分かりゃしない。
お仕置きのつもりでした事が随分面倒なことになってしまった。
自分よりも大きな男にぴったりとくっつかれているせいで歩きにくくて仕方ない。
だがそれを口にすればまた面倒な事になるのは想像に容易い。
「····トーマス、私手が繋ぎたい」
それを考慮してトーマスにそう言えば彼は嬉しそうに笑って私の手を握った。
紳士的な男が好きだとは言ったが素直で可愛い男も好きだ。
だから彼のこういう所はわりと好きだ。
とりあえずイジメすぎたかもしれないと少し反省しつつもそのおかげて少しすっきりして気持ちが和らいだので帰ったらこのどうしようもなく幼くめんどくさい可愛い恋人を可愛がってあげようと考えながら彼の手を引いて自宅への道を歩いた。