いつもいつもこの瞬間私がどれだけ緊張しているか、彼は知っているのだろうか。
「····し、失礼します」
ドアをコンコンコンと控えめに3回ノックをしてそう声をかける。
中から返事はない、だがそれはいつも通りなことなのでそのまま扉を開ける。
後ろ手で扉を出来るだけ音を立てずに閉め、ベッドに近付く。
この部屋の主は布団から顔だけを出して未だ夢の中だ。
普段とは違う、幼く見える寝顔が見られる事は私の楽しみの一つかもしれない。
だがそれをいつまでも見ているわけにはいかない。
私は仕事でここにいるのだから。
惜しむ気持ちを堪えて可能の限り眠る彼に優しく声をかける。
「トーマス様、お時間ですよ」
そう伝えると一瞬眉間にシワを寄せてゆっくりと目を開けた。
天井に向けられていた美しいその目がゆっくりと動いて私を捉える。
もう何度も経験しているにも関わらずいつもこの瞬間胸が大きく鼓動してしまう。
「おはようございます、トーマス様」
動揺を隠して彼に挨拶をすれば彼は起き上がり欠伸をした。
クローゼットから彼の服を取り出しまだ目が覚めきっていない様子の彼に手渡そうとすれば服を受け取らずにその手は私の手首を取った。
「お前のその目、自覚しているのか?」
「···なんのことでしょうか?」
視線が逸らせない、それは恐怖などではない。
「自覚、してるよな」
「っ···」
トーマス様は私の手を強引に引いた。
そして私の身体はベッドに乗り上げられてしまう。
そして間髪入れずに私の身体の上に覆い被さった彼の目に見つめられた私はまるで石になってしまったように動けなくなってしまったのだ。
「···なぁ、最近ストッキング履かなくなったよな?」
先程捲れあがってしまったスカートの中にトーマス様の手が入る。
遠慮なしに太股に触れられた事で身体がびくりと震えた。
「俺に何度も破かれたもんな?だからこっちにしたんだろ?」
トーマス様はそう言って私の身に付けているガーターベルトに指をかけた。
僅かに露出している肌に触れられたことで更に体温は上昇していく。
彼の言っていることは図星だった。
私はそうされることを受け入れてしまっていた。
「俺はこっちも好きだけどな」
それがただの性的嗜好に過ぎない言葉だということは分かっている。
それでも私はその言葉に、たった2文字の言葉に喜びを感じてしまう。
「前はこんな下着買わなかったよな?」
そして下着に指をかけられる。
ろくに触れられもしていないのに私の中はどくんどくんと脈打ち始めていく。
羞恥心に殺されそうだ。
「なぁ、俺の世話をして、それで得た金で俺に見せる為の下着を買うのって、どういう気分なんだ?」
トーマス様は私が拒むことなどしないと知っている。
そして私の身体からその下着をなんの躊躇もなく脱がせてしまった。
「ああ、まぁ分かっていたが。
やっぱりもう濡れてたな」
下着を広げてトーマス様はそれをじっと見る。
そしてトーマス様は私に見せ付けるようにその下着に舌を這わせた。
「っ、お、おやめください!」
あまりの羞恥心に頭がおかしくなりそうだった。
それでも彼はそんな私を見てニヤリと笑う。
「心配するな、ちゃんとお前自身も舐めてやるから」
そんなことが言いたいわけではないのに、それでも彼が楽しそうにしている姿を見ると何も言い返せなくなってしまう。
いや、彼の言っていることはきっと間違っていないのだ。
私がストッキングをやめガーターベルトとニーハイストッキングを履きはじめたのはまさにそれだった。
下着だって以前はシンプルなものばかりだったのに、この下着を買った時の私は····
なんて、なんて身の丈に見合わない感情だろうか。
「おい、お前今何を考えてる」
「いっ····」
内腿に鋭い痛みが走る、トーマス様がそこに噛み付いたのだ。
「誰がそれを許可した?お前は俺の事だけ見てればいいんだよ」
「っ、い、たっ·····」
トーマス様の事を考えておりましたと言いたい、でも言えない。
ならば何を考えていたのかと聞かれるのは分かっているから。
太股が鈍い痛みを訴える。
その痛みに熱くなってしまうソコが憎い。
汗が止まらない、肌を伝う不快な感覚、それは汗だけではなかったけれど。
「もういつでも入れられそうだな」
「あっ···!」
トーマス様の舌がぬるりと私の中を抉る。
その瞬間追い出されるかのように音を立てて中から溢れた液体がお尻の方まで伝う、なんて不快な感覚だろうか。
「初めて抱いた時は処女だったのに、いつからこんなに悦んで俺を受け入れる器に仕上がったんだろうな?」
下品な音を立ててその液体を飲み込んだトーマス様は楽しそうだ。
顔を見ずとも声が笑っている。
「これでも俺はお前のこと可愛くて仕方ないって思ってるの、ちゃんと分かってるか?」
ちゅうっと突起に吸い付きながら中に指を入れられた。
何も知らなかった、トーマス様が刺激しているソコがこんなに快楽を与えてくれるだなんて、全部、全部彼に教えられた。
「今ナカが絞まったのはナニにたいしてだろうな?」
閉めきられたカーテンの隙間から日の光が洩れている。
今日外はは頭が痛くなる程晴れている。
そんな中、薄暗いこの部屋で私達がしていることはなんなのだろうか。
その洩れた光が私達の淫らな行為を責めているように感じられた。
「おい、早く終わらせたければ集中してろ」
入り口にトーマス様のモノが押し付けられた。
彼の言葉でこんな事をしていてはいけないのだという事を思い出した私はとっくに狂わされている。
「っ、トーマス、様···っ」
思い出したように抵抗して彼の胸を押せばその手を取られてベッドに押し付けられた。
そして腰をぐぐっと前押し込まれて私の下腹部が圧迫される。
「····なぁ、名前」
奥まで埋め込まれた所でトーマス様が私の名を呼んだ。
それは少し怯えたような、すがるようなそんな弱さを含んでいるように聞こえた。
そんな彼が続けて口にした言葉に私の頭は真っ白になってしまう。
「俺は来月、18になったらこの家を出る」
「···え·······ど、···な、ん····」
突然の報告に私は上手く言葉を発する事が出来なかった。
そんな事考えた事がなかったのだ。
トーマス様はずっとこの家にいて、いずれはトロン様の後を継いで、いつまでも変わらずここにいる、そんななんの確信もない未来を当たり前のように信じていた。
いつか妻を娶ることになるだろう。
そうなればきっと私のお役目は終わりただの使用人に戻り私はいつかここを出ていく、そう思っていた。
きっと、きっとその時になってやっと私の不相応な恋心に終止符を打てる、そう思っていたのに。
彼はそこまで待ってくれないのだと、突き付けられた現実に視界はぼやけた。
「···なぁ、お前が今泣いてる理由は俺が思っているものなのか?」
私の額にトーマス様の額があてられた。
こんなにも近くにいるのに今の私には彼の顔がよく見えない。
まばたきを一つ、冷たい水が横に流れ落ちて耳にかかった。
それがとても気持ち悪い。
「否定でもなんでもいいから答えろ。
俺はお前の気持ちが知りたい」
初めて彼にベッドに押し付けられた時の事を思い出した。
それはただの暴力としか呼べないものだったと思う。
ただ鬱憤を晴らす為の、そんな独りよがりなものだった。
私の初めてのソレはとても怖いものだった。
一体いつからその感情を忘れたのだろう。
「俺は、俺はお前を連れて行こうと思ってる」
「···な、···ん、ど、どう、して?」
始まりはいつも強引だった。
それでもその行為はいつからか私の快楽を突き詰めるようなものになって、今ではもう、あの頃の事なんて思い出せない程、手放しで求めてしまいたくなっていて。
「トロンに話は付けている、名前、お前が首を縦に振れば俺はお前を連れていける」
どうしてそこに私の意思を訊ねるのだろうか。
所詮私は使用人で、仕事の命とあればそこに私の意思なんて必要ないのに。
「····どうして、どうしてそのような事を、お聞きになるのですか?」
声が震えた。
これは怖くて怯えていたのではない。
ある筈のない希望を、期待してしまっているのだ。
なんて図々しい、それでも私は滲んでよく見えない彼の顔が。
それはまるで愛しいものを見るような表情に見えたのだ。
「使用人としてじゃない、俺はお前を一人の特別な存在として傍に置きたい。
いや、····いてほしいと、望んでいる」
彼が口にした言葉に再び私は彼の顔が見えなくなってしまった。
何度まばたきをしてもそれは湧き水のように溢れては滴り落ちて。
それをトーマス様は目尻に唇を這わせて拭った。
「俺より早く寝てもいい、朝寝坊して二人で慌ててシリアルを掻き込んでもいい。
何もしたくない日は二人で1日ベッドで過ごしたり、ソファーでゆっくり映画を見て、役に立つかはわからねぇが一緒に料理をしたり····
俺が帰った時はおかえりって言ってほしい」
何度も何度も拭われた事でトーマス様の顔はもうはっきりと見える。
いつもより不安な感情を含んだ、自信無さげな、その顔に胸が締め付けられた。
「···それじゃあ、まるで、プロポーズみたい、です、トーマス様」
「みたい、じゃなくてそう受け取ってもらって構わねぇんだけどな」
「あっ···ま、待ってぐださ、っ」
先程から私のナカに入ったままだったモノがゆるゆると私を刺激した。
「ムードも何もないって怒るか?
お前が悪いんだぞ、さっきから何度も何度も俺を締め付けるから、···なぁ、名前。
俺と来るよな?」
「っ、で、でも、あぁんっ!、···私なん、てっ!っただの、使用人なの、にっ」
トーマス様は先程までとは違う、いつもの少し意地悪な笑顔で私を見下ろしている。
「ふっ····お前の事そんな風に見たことなんて一度もねぇよ。
“あの時”は確かにむしゃくしゃしていたがアレがなかったとしてもいつか絶対お前を抱くって初めて会った日から決めていたからなぁ」
トーマス様の気持ちを一つ知る度に彼のモノを締め付けてしまう身体が憎い。
何も隠し事なんてさせてくれない、なんて、なんてみっともない。
それでもその度にトーマス様は嬉しそうな顔をするのだ。
そんな顔を見てしまったらもう少しの羞恥心なんとどうでもよくなってしまう。
「断られたら孕ませてでも拐ってやろうと思ってたが心配なさそうだな」
「あっ···!だ、だめっ、トーマス、さまぁっ····!!」
トーマス様はなんとも恐ろしいことを言っている。
それでもそれに恐怖心を抱かない程に私は彼に好意を持ってしまったのもまた事実で。
「好きだ、名前っ····一生、俺の傍に···」
「っ、トーマスさまぁっ!あ、いっ、っっ好きです···っ、ずっと、お側に····っい、ひゃああぁっっ···!」
痙攣を起こすソコに続けて激しく打ち付けたことでそう時間を開けずにトーマス様は欲を放った。
熱いそれは私の中を満たしていく。
それだけで火傷しそうだ、そう思う程にそれは熱く感じた。
「···二人になったらこんな風じゃなくて、お互い裸になって思う存分肌に触れて、たっぷり時間をかけて愛し合おう、な····」
最後に名残惜しむようなキス。
こんなキスをされるから、ただ強制されていた頃から私はトーマス様を拒めなかったのだ。
これを全て計算でやっていたのだとしたらなんてたちが悪いのだろう。
それでも、そんなことはもうどうでもいい。
私もトーマス様も、互いを愛して病まないのだから。
「トーマス様、お時間ですよ」
「名前、何度言ったら直るんだ。
俺はもうお前の主人じゃねぇから様なんていらねぇ、敬語もやめろ」
トーマス様と暮らし始めて最初に言われた事だった。
それでも数年間の習慣というものはなかやか直らなくて私はなかやかそれが出来ていなかった。
「····気を使っているわけではないんです。
ただ、癖がなかなか抜けなくて····きゃあっ!?」
トーマス様は私の手を取って布団の中に引きずり込んだ。
「名前はちゃんと俺の事呼び捨てで呼ぶまでここから出さねぇ」
私の大好きな表情だ。
出会った頃は見れなかった穏やかなかその表情に頬は緩んだ。
「お仕事に遅れてしまいますよ」
「ったく、逃げようとするところは変わらねぇな」
私を抱き締める、喉が震えている。
今彼はとても楽しそうにしているのだ。
なんという幸福な時間だろうか。
「お前がその気なら帰ってきたらお仕置き、覚悟しとけよ」
そう言って額にキスを一つ。
人が見ればあまりの甘ったるさに胃もたれを起こすかもしれない。
「·····嫌じゃないです、お仕置き」
ついつい本音が溢れてしまった。
私が口にした言葉にトーマス様は一瞬ぴたりと固まって私の顔を覗き込んだ。
「····お前····勃っちまったじゃねぇか····」
確かに私のお腹には彼の硬いモノがあたっていた。
それでも時計を確認する。
「残念ですがもう時間がありません。
お仕置きは夜まで待っていだけますか?」
「名前···お前、良い度胸してやがるな」
トーマス様は私を恨めしそうに睨んだ。
私はトーマス様が大好きなだけなのに、その言葉は心外だ。
「とんでもありません。
トーマス様に沢山お仕置きしてほしいので、お時間があるときにたっぷりと時間をかけてほしいのです」
「〜ああああ!!!今すぐ食らってやりてぇ!!てめぇ、その言葉後悔させてやるからな!?」
トーマス様はがばりと布団を剥いでベッドから降り洗面所に向かった。
私もそれを見送ってからベッドから降りた。
今日は天気が良いから布団を干そうとシーツを剥いだ。
今夜にはまた汚れてしまうけどどうせ長くいるならより綺麗なそこでしたいから。
「いってらっしゃい、トーマス、様」
「いってくる、名前」
自然に行われるようになったそのキスは私達が以前とは違う事を物語っていた。