夏が来る度に貴方を思い出す、そう言ったら貴方はどんな顔をするだうか。
三年間共に過ごした、四季全てを 筈なのにそれでも貴方を一番強く思い出すのは太陽が照りつける暑い夏の日だった。
授業をサボって皆で海で遊んだ事を昨日のことのように思い出す。
「なんか俺過去の人って感じだな」
「あの頃の私も十代もとっくに過去の人でしょう」
十代は部屋のエアコンのスイッチを入れた。
レッド寮にはエアコンなんてものは勿論無かった。
だから雨の日や冬以外部屋の窓はほぼ開けっぱなしだった。
「ほら」
「ありがとう」
十代にアイスの袋を差し出された。
部屋に小さな冷蔵庫は設置されていたが冷凍庫はついていなかった。
一年の頃こっそり大徳寺先生に貰ったアイスを汗だくで食べた事を思い出した。
あの夏はもう来ない。
「大徳寺先生は暑さでへばってない?」
「幽霊だから寒さも暑さも感じないんだにゃ〜、だそうだ」
それはちょっと羨ましいね、と言って十代に貰ったアイスの袋を開けた。
ラムネの入ったソーダアイスは彼のイメージにあっている。
「エアコンの効いた部屋でアイスだなんて大人になったね」
「まぁ言ってる事は子供な気がするけどな。」
十代の言うことももっともだ。
私達が大人になったと感じる瞬間は自由を実感した時だ。
もっともあの学園は生徒の自主性という大人の都合の良い言葉で責任感を植え付けられた面もあるのだけれど。
「こたつに入って食べるアイスとか」
「今やってることと真逆なのになんでそれを幸せだと感じるんだろうね」
十代は少し考えるような素振りをした後自分の中で答えが出たらしくすぐに明るい顔をしてこう言った。
「そりゃあアイスが美味いからだろ!」
「あははっ、そりゃそうだね」
十代らしい答えだった。
こういうカラッとした所が十代の魅力だ。
そして彼に夏を感じさせる所でもある。
「本土はあっちよりジメジメしてるのが残念だね」
あっちとは言わずとも、私達が三年間過ごしデュエルアカデミアのある島の事だ。
冬でも比較的暖冬であったのは助かったがその代わり夏は火傷するのではないだろうかというくらい暑くなった。
「ああ、そうだな。
久しぶりに海にでも行くか?」
十代の手にはもうアイスの棒部分しか残ったいなかった。
そしてそれさえも早々にゴミ箱に投げ捨てられてしまった。
「水着どこにしまったか忘れちゃった」
寧ろもう処分してしまったかもしれない。
随分と子供っぽいデザインだったから。
それに比べて明日香達は大人っぽいものを着ていたもんだから私は恥ずかしくていつも上に黒のTシャツを着ていた。
明日香には似合っているから気にしなくていいとは言われたがそれもなんだか複雑だった。
だが私は明日香のように発育が良いわけでは無かったので言い返すことはしなかった。
「なら新しいの買おうぜ。
あ、なんなら俺が買ってやるよ。
その代わり俺が選んだやつな」
一時は別人としか思えない程変わってしまった十代。
十代は誰もが尊敬するデュエルキングによって本来の自分を取り戻した。
すっかり少年の心を取り戻したと思っていたがそれはやはりただ彼を少年期に巻き戻したわけではないらしい。
「十代も男の子だったんだね」
学生時代の彼ならこんなことは言わなかっただろう。
知らない彼を見て昔を、と言ってもたった三年だが笑えてしまうほど荒々しく過ぎていったあの時を、懐かしんだ。
「今更何言ってんだよ、そんなの当たり前だろ。
名前には俺が女に見えてたのかよ」
十代は意味が分からないという顔でそう言った。
どうやら私の言葉の意味は理解していないようだ。
やはりどこか鈍いところは健在のようだ。
だがそれに安心する自分もいる。
「女の子の十代も可愛いと思うよ」
一度は私達を置き去りに何処かへ行ってしまうのかもしれないと恐怖した。
いや、思い返せば何度かそういう場面はあった。
でも今こうして私の目の前に彼は存在している。
「趣味の悪い奴だな、名前って」
十代は自身の女装姿でも想像したのだろう。
あからさまにうげぇっと嫌そうな顔をした。
私はそれを見て笑った。
「こんな機会めったにないし、それじゃあ十代に水着選んでもらおっかな」
食べ終えたアイスの棒を先程の彼と同じようにゴミ箱に投げ捨てた。
椅子から立ち上がりぐぐっと背伸びをした。
窓の外を見れば陽炎が出来る程外の気温が高い事を理解した。
「絶対眠くなるから電車で行こうと思ってたけど駅まで歩くの想像しただけでゾッとするね」
「まぁ最悪近場で泊まりになってもいいし車出せば良いんじゃね?」
十代の表情は妙に明るい。
どうやら彼は今日は帰るつもりなんて無さそうだ。
「ほーんとえっちになっちゃって」
ストレートな言葉を口にすれば十代は少し動揺しながらもそれを否定しなかった。
「まぁ、俺も男だから下心がまるっきりないってわけじゃねぇけど」
そんな彼が妙に可愛く見えるのは掘れた弱味というやつなのだろうか。
私は一組余分に下着を用意した。
とびきり可愛い、所謂勝負下着、なんてものを鞄に忍ばせた。
「さぁ、十代、行こっか」
“仮に”泊まることになったとしてもホテルであれば大抵のものは揃っている。
化粧ポーチと着替え、財布さえあれば事足りる。
私は5分もかからず支度を終えた。
「ああ!俺が運転してやるよ!」
勿論十代だってそれは同じだ。
私より更に早い、3分で支度を終えていた。
ほんの30分程前につけたエアコンを再び消して私達は家を出た。
さぁ、あの頃のように思う存分全力で遊び倒そうではないか!