好き好き大好き

「テツヤ君、起きて」

心地よい眠りを遮ったその声は本当に優しくて。
もっと聴いていたいと思いそのまま目を閉じていると僕の肩が揺さぶられた。

「...おはようございます」

そうされてしまうとさすがにもう寝たフリを続ける事も出来ず、渋々目を開けると優しく微笑む彼女と目が合った。
とても幸せな朝だと思う、のだけれど...

「...朝から刺激が強すぎます」

結局昨日はそのまま彼女の家に泊まってしまった。
両親の留守を利用して、あまり褒められたことではないけれどどうしても名残り惜しくて別れる事ができなかった。

「テツヤ君も何も着てないのに」

昨日彼女の身体を殆ど全部見たとはいえまだ慣れたわけではない。
何も身に付けていない彼女はそう言って甘えるように僕に抱き付いた。
温かくて柔らかくて...このまま触れ合っているとまた昂ってしまいそうで幸せなのだけれど。

「僕が本当に我慢強くないということ、よく分かったでしょう?」

僕だってまだこうしていたかったけれどそういうわけにもいかないから。
学校に行く前に一度帰って準備をしないといけないから。
僕の親には友達の家に泊まるって連絡を入れたのだけれどそれを言った時妙な間があったからもしかしたら僕が嘘を付いたということがバレているのかもしれない。
それに気付きながらもそのまま彼女の家に泊まったのはそれだけ僕も心に余裕が無かったからだと思う。

「多分私の方が我慢出来ないよ」

彼女はそう言って頬に唇を押し当てた。
そんな彼女が可愛くてついつい僕も抱きしめ返してしまった。

「好きだよ、テツヤ君」

彼女は僕の顔の色んな場所にキスをして、...嬉しいけれど本格的にまずいと思い彼女を優しく引き剥がしベッドに寝かせ僕の方から一度だけ唇にキスをした。

「...遅刻してしまっては困りますので、そろそろ帰ります。またすぐ後で会えますから...」

彼女は頷いて僕の手を取りその手にキスをした。
もう本当に、嘘みたいに甘い時間だ。

「またシてね」

「...はい、勿論...」

結局最後まで煽られた後服を着替え家に帰った。
朝一度帰ると伝えてあったので母は朝食を用意しておいてくれていた。
父は僕の顔を見るなりなんとも言い難い顔をしたのを見てこれはきっとバレているのだと確信した。

「名前ちゃんは今度いつ来てくれるの?」

そんな中祖母が口にした言葉に僕と父は飲んでいたお茶を吹き出しそうになってしまった。
そんな僕達を見て母は気まずそうに顔を逸らしたので多分皆気付いているんだと思う。

「...また時間が出来れば、...次は多分大会が終わってからになると思います。言い忘れていましたが彼女がおばあちゃんの作った大学芋がとても美味しかったからまた食べたいって言っていましたよ」

祖母にそう伝えると嬉しそうに笑って、それを聞いていた母は何か好きなお菓子がないか聞いておいてねと言った。
取り敢えず叱られる雰囲気では無いことに安心した。
いや、別に叱られても仕方のないことをしたのだから寧ろ叱られて当然なのだけれど、でもそのせいで今後彼女との付き合いに支障が出てるようなことがあったは困るから。
これからもずっと彼女といられるように少なくとも高校生の間は今後はこういうことはもうしないようにしなければと改めて心に誓った。











「おはよう、テツヤ君」

「おはようございます」

僕が学校に行き着替えて体育館に入ると既に彼女は来ていて朝練の準備を初めていた。
僕の顔をみると駆け寄ってきてくれた彼女に一瞬で心が満たされた。

「今日湿度高くて暑いから、水分しっかりめにとってね」

「はい、ありがとうございます」

もうカントクと先輩達も数人いるから抱きしめることは出来ないのが残念だけど、今日はお昼も約束してるからまた後ですればいいと自分に言い聞かせた。
やっぱり彼女に負けていないと思う、今の僕は。

「あ、黒子君!ちょっと来て!」

彼女と話をしているとカントクから呼び出しがかかった。
彼女に失礼しますと言ってカントクの元に向かうと次の試合のことで何か話があるらしく僕の前でノートをパラパラとめくった。
でもふと何かに気付いたようでぴたりと動きを止め僕の顔を見るとカントクの頬が赤く染まった。

「...カントク?」

一体どうしたのかと思い声を掛けるとカントクは他の人には聞こえないくらい小さな声で囁いた。

「...黒子君、さっきまで名前といたんでしょ」

「え...ど、どうして...」

彼女が話したから知っていたという反応ではない、ではなぜカントクにバレてしまったのかが分からず困惑しているとカントクはため息を付いて彼女にちらりと視線を向けた。

「...黒子君からすっごいあの子の匂いするから」

「に、匂い、です...か?」

体臭がそんなに簡単に移ったりするものなのだろうかと疑問を抱きつつ自分の二の腕の匂いを嗅いでみて気が付いた。
カントクが言っていることの意味を。
これはきっと彼女の家で浴びたシャワーが原因だ。
普段より甘い、女の子っぽい香りが、確かにそれは彼女から香るものと同じだった。

「...まぁ私から別に何か言うことはないけどあんまり浮かれ過ぎて練習に身が入らない、なんてことになったらまた逆エビだからね」

なんというか、カントクは言うべきことはハッキリと言うけれど人に対して線引きが出来ているというか...多少変わったところはあるけれどしっかりとした先輩なんだなと改めて思った。
まぁなんというか、比較相手になっている彼女がかなり変わった人だからそれが適当なのかは分からないのだけれど。

「...カントク、ありがとうございます」

「なんのお礼よ。...まぁいいわ、私が黒子君を呼んだのはそんな話じゃなくてね.....」

そしてすぐに本筋に戻ったカントクはやっぱりカントクで、彼女がカントクを好きな理由もなんとなく理解した。











「テツヤ君ごめんね、今日時間無かったからただのおにぎりなんだけど、具に卵焼きとか唐揚げとかおかずになるもの入れてきたから」

「いえ、というかすみません。こんな日まで用意させてしまって...」

うっかりしていた。
今日は購買で何か買うからお昼のことは気にしなくていいと伝え忘れていた。
ああは言っていたものの昨日は身体に負担をかけてしまっただろうし無理はしないでほしかったのに。
僕も大概浮かれていたのだと思う。

「持ってきた方が少しでもテツヤ君と一緒にいられる時間作れるから、だからいいの」

おにぎり一個一個の大きさはかなり小さめで、具の中身が見えるように握られている。
僕に食べられる量がかなり限られているからこその配慮で色んな具が食べられるよう配慮してくれたのだと思う。
それが嬉しくて今日はいつもより沢山食べられた気がする。
本当に彼女は僕の事が好きなんだということが伝わって、二重の意味でお腹がいっぱいになって満たされた。

「名前さん、抱きしめてもいいですか?」

昼食を終えた後彼女にそう訊ねると彼女は嬉しそうに頷いて僕に抱き付いた。
そんな彼女を抱きしめ返して頭を撫でた。
嬉しそうに微笑む彼女は本当に可愛い。

「キスしたいです。してもいいですか?」

「えっ、う、うん!」

驚きながらもすぐに素直に目を閉じて僕のキスに応じる彼女は更に可愛い。

「ギリギリまでくっついていてもいいですか?」

「!勿論...!」

本当に可愛くてて仕方なくて、触れたくなって彼女はのうなじにキスをすると彼女は子犬みたいな奇妙な声を上げた。
昨日の今日だ、そんな声すらいやらしいものに聞こえ腕の中で乱れる彼女の姿を思い出した。

「また可愛い貴方を沢山見せてくださいね」

セーラー服の襟元を少しめくって、そこを強く吸うと
彼女の白い肌に赤い花が咲いた。
その花が愛しくてそこに舌を這わせると彼女はぶるりと震えて僕の制服をぎゅっと握った。

「僕ばっかり幸せで...そのうち何かしっぺ返しをくらいそうで少し怖いです」

彼女の顎を持ち上げ唇に、昨日沢山した深いキスをすれば彼女はくぐもった声を漏らした。
僕だって気持ちよくて仕方ないのだから気持ちはわかるけれどやっぱり刺激が強すぎる。
そんな声を僕以外の誰にも聴かせたくないし蕩け切った顔も見られたくない。
だからこの辺でやめなければ、それが分かっているから渋々彼女から距離を取ると彼女はまた寂しそうに、もの欲しそうな顔で僕を見つめるのだからタチが悪い。

「ずっと一緒にいてくださいね。大人になったら僕のところにお嫁さんに来てください」

彼女は今日1番顔を赤くして何度も首を縦に振った。
そして泣きそうになっている彼女の目じりにキスをした。
泣いている彼女も可愛いのだけれどやっぱり笑っていてほしいから。
僕にとってはお日様みたいなその笑顔で。
夏の暑い日、日傘を差していても僕は貴方の熱で溶けてしまいそうでした。
煩わしい筈の雨の日だって同じ傘の下に貴方がいると心は晴れ晴れとした気持ちになりました。
そんな太陽みたいな貴方を1番輝かせる事が出来るのは僕なんだと、それに気が付いた。
それはもう人には譲りたくないから。

「貴方のことが好きで好きで堪らないです。名前さんのことが大好きです」

「...私幸せすぎて死んじゃうかもしれない」

あの暑い夏の日にあの場所で彼女と出会えたことに心からの感謝を。


end