意外なふたり

図書室の窓から射す暖かな午後の陽光の中、今日僕と一緒に当番にあたっていた同じクラスの女の子、名字さんが貸出記録の処理を終えて静かに立ち上がる。
もう図書室も閉める時刻だ、僕も立ち上がり窓の施錠を確認しようかと立ち上がったところで廊下に繋がる引き戸が開かれた。

「青峰君、もう終わるから私帰るんだ。また明日ね」

「おう、俺今日も部活あっから。気をつけて帰れよー」

図書室の扉を開いたのは青峰君だった。
彼の顔を見るなり名字さんが近付いてそう声を掛け、青峰君はそう言って自然な動きで彼女の頭を撫でた。

「(え...)」

その光景をカウンターの中で見ていた僕に青峰君は気が付かないまま行ってしまった。
影の薄さもあるけれど丁度彼女の立っている位置が僕を隠したのも重なったせいもあるだろう。
青峰君はその後すぐに出て行ってしまった。
彼女は扉の中からそんな青峰君の背を暫く見つめたあと静かに扉を閉じて僕の方を振り返った。

「...もしかして、青峰君とお付き合いされているんですか?」

頭に浮かんだ予感を僕は思わず声に出して訊ねてしまった。
彼女は一瞬驚いた顔をした後、照れくさそうにほんのり頬を赤らめてこくりと頷いた。

「あ、うん...えっと、青峰くんと、...今年の春、くらいから...」

「(春...ということは、もう3ヶ月くらいでしょうか)」

名字さんとは一年の時も同じクラスで同じ委員会に所属していた。
だからそれほど積極的に人付き合いをする方ではない僕もそれなりに話をする機会がある女の子だ。
真面目で大人しく、小柄で優しい。
そんな印象を持っている、素敵な女の子だと思う。
でもだからこそ___

「(名字さんが青峰君と?...性格も趣味も...真逆と言えるくらい正反対な2人が...?一体どんな経緯で...というか...大丈夫なのでしょうか?)」

青峰君、僕とは全然違う。
バスケをやっていれば誰もが羨むような才能を持っている、とても魅力的な人。
でもバスケをしていない時は巨乳グラドル写真集を堂々と学校に持ち込み楽しんでしまうような、男としてはある意味健全なのかもしれないけれど倫理的には完全にアウトなチームメイト。
そんな青峰君と名字さんが?
当事者でない僕がそんな事、おかしいとは分かっている。でも___

「(...とてもじゃないですが安心できません)」









それ以来僕は静かに観察モードに入った。

廊下で偶然すれ違いざまに交わされる自然なスキンシップ、同じクラスの女友達の昼食を共にしている時にふらりとやってきてこっそり彼女のお弁当から一つおかずを貰っていく姿を、そして放課後僕達と部活に励む彼の様子を。

「うっわ、今月のグラビアめっちゃアングル攻めてんじゃねぇか...これは保存だな」

部活終わり体育館の床で寝転がってグラビア誌を食い入るように見つめる青峰君の姿、そんなの既に何度も見ているというのに今日は思わずため息をついてしまった。

「...それ、今必要なんですか?」

「うぉあっ!!テツ!?お前どっから出てきた!?」

「...最初からいましたよ」

つい先程まであんなにキラキラとした目でボールを手に駆け回っていた彼はどこに言ってしまったのでしょうか。
まぁ僕達の年齢を考えればそういうことに興味を示すのはなにもおかしなことではないのだろうけれど。
それにしたって彼はあまりにも堂々としすぎているから。

「びっくりさせんなよ!...つーか何だよ、ため息なんてついて」

僕がじっと彼を見つめたところで伝わるわけがない。
彼はただ不思議そうな顔で僕と向き合っていた。

「青峰君、名字さんにちゃんと向き合っていますか?」

「...はぁ?名前?なんだよ、急に」

彼は起き上がって胡座かいて床に一つ転がっていたボールを手に取り指先で回しながら聞き返した。
僕も余計なお世話だということは分かっている。
寧ろらしくないと思う、バスケには関係がない、こんなプライベートなことに首を突っ込むのは。
でもなぜか心配になってしまったからつい。
それだけ僕の中で彼女の印象が良かったのだと思う。
それに気が付いたのは今なのだけれど。

「その...そういう本を読むなとまでは言いません、が青峰君の彼女さんは真面目な方ですし、あまり...こういうのを好きな人が嗜んでいると知ったらショックを受けるかもしれませんし...」

「...うぐっ」

僕の言葉に少し青峰君の表情に影が差した。
気まずそうに頭をぼりぼりとかきながら先程の僕と同じようにため息を一つついた。

「...あー、一応あいつの前では読んでねぇよ。まぁ付き合う前には普通に読んでたから知ってんだろーけどな」

「...そうですか。それは余計な口を挟みました、すみません」

彼はボールを軽くゴールに投げ入れた後、開きっぱなしになっていたグラビア本をぱたんと閉じて鞄の中に突っ込んだ。

「まぁあいつのこと心配してくれたんだろ。ありがとな...じゃあまぁたまにはマジメモードにしとくかな。つまんねーけど」

「...最後の言葉が余計です」

彼は人に寄って態度をコロコロ変えるような器用な人じゃない。
きっと彼女も青峰君を真面目で純粋___いや、ある意味誰よりも純粋な人ではあるのだけれど。
でもまぁそういうことに興味がない人だとは思っていないのだろうけど。

「別にあいつが物足りねぇからコレで補ってるわけじゃねぇよ。ほら、晩飯も美味いけどそれとは別に部活終わりに買い食いするテリヤキバーガーも美味いだろ?」

「...それに女性を当てはめるのは最低ですよ。...まぁ言いたいことは分かりました。青峰君にとってグラビアは僕の読書と同じってことですね」

自分で言っていて少し複雑な気持ちにはなったけれど、でもそこは目を瞑ることにした。

「まぁ前は普通にエロい目的で見てたけどな」

「台無しです、青峰君。...やっぱりもう少し観察させてもらう必要があるようですね」

「はぁ!?観察!?テツ、お前いつからあいつの保護者になったんだよ!?」

僕にも分からない、どうしてこんなに2人のことを気にしてしまうのか。
それなりに親しいとは言っても殆ど図書室でしか喋らないクラスメイトだというのに。

「まぁいいわ。腹減ったからマジバ寄って帰る。テツ、お前も行くだろ?」

「...はい、体育館の鍵返却してきますから外で待っていてください」

「わりぃな、サンキュー!」

「(心配なのは君が相手だからこそなのでしょうね)」

僕はきっと彼女以上に青峰君に幸せになってほしいから、だかららしくない行動をとってしまうのだと思う。

青峰君は僕をここまで導いてくれた光だから。


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