気になる存在

※ご都合主義で合同体育という定で青峰君と黒子君がいます



今まで体育の授業中女子の事を気にしたことなんてなかった。
そもそも基本的に女子が体育館を使っていたら男子はグランドで、逆もまた然り。
同じ場所で体育をすることが殆どなかったから、という理由もあるけれど1番はそんな事男の僕がするのはあまり褒められたことではないと分かっていたからだ。
勿論下心など持ち合わせていずとも、だ。
でも今日は最近気になる彼女がネットを挟んですぐ近くにいて、しかも女子の体育はバスケだ。
つい気になって視線が向いてしまった。

「っえいっ!!」

__ぽよん。

バスケットボールを投げてそんな音がする筈がない、つまりこれは幻聴だ。
彼女の雰囲気、歪な動きがその幻聴を生んだのだろう。
彼女の放ったパスはふわりと宙を舞い味方に届く前に相手チームの頭上でカーブを描き___

「…あっ、ご、ごめんなさいっ!」

味方の誰にも届かぬまま、床に落ちコロコロと転がった。
速くもなくそれ程離れたところに落ちたわけでもない、それなのに誰も反応出来なかったのはおそらくバスケ経験者がいなかったのと彼女の投げたボールが誰にも予測のつかない軌道を描いたからだろう。
その後すぐに試合は再開したけれど相変わらず彼女のパスは誰にも、彼女自身にも予測出来ない場所に飛んでいった。

彼女の出すパスはどれも“やさしすぎる”のだ。
まるで紙風船でも飛ばしているように。
いや、でもそのわりに彼女は力一杯放っているように見える。
一体あの力はどこに逃げているのだろうか。
そんな彼女を見ていたのは僕だけではなかった。

「ぷっ...ははっ、なんだ今の、投げたか?今の投げたつもりか?」

体育館の端で笑い声が響く。
その声の主は僕のよく知っている、そう、青峰君だ。

「(...やっぱり笑ってますね、青峰君...)」

心の中でため息をついた。

「(結果はともかく彼女が頑張っているのは見れば分かるはずなのに...)」

ちらりと横目で彼に視線を向けると青峰君は笑って彼女を目で追っていた。
彼女が一生懸命ボールを拾いに走っていく姿も、今度こそ届くように腕を振り上げているところも。

そして___

「…っし、もう一回!」

彼女が気合いを入れ直し放ったボールはまたも___

「わはは…また紙風船みたいに飛んでったな」

青峰君はまたそれを見て笑った。

でもちゃんとわかっている。
その笑いがけして彼女をバカにしてるような、そんなものではないということを。

むしろ___

「(...楽しそうですね、凄く...青峰君)」

幸せそうに細められた目、口元は甘く緩んでいて。

「(君のそんな顔、初めて見ました。...それほど名字さんのことが大好きなんですね...)」

静かに目を閉じて自分の中の彼と彼女の情報が更新されるのを感じていた。
きっと僕が思っているよりずっと2人は想いあっているのだろう、と。
それに気付いた。

「(...友人を心配するの、別におかしなことではないですよね?)」

色眼鏡のようなものをかけて彼を見てしまったのもまた事実。
青峰君は勿論彼女のことだって全て知っているわけではない。
全てを知りたいと思っているわけでもない。
再び彼女の手にボールが渡る。
その瞬間相手チームだけではなく味方も気が引き締まったのを空気で感じた。

そして彼女の放ったパスが奇跡的に相手チームのプレイヤーの股を抜けて初めて味方に通った。

「...おぉっ!?今のマジかよ!?」

青峰君が思わずそう声をあげてキラキラとした目を見せた。
彼女から受けたボールはチームメイトの手で見事ゴールを潜った。
そのチームメイトが彼女にハイタッチしようと振り向いたけれど当の彼女は盛大に転んでしまっていてゴールの瞬間を見られなかったようだ。

チームメイトに支えられて立ち上がる彼女もまた嬉しそうに笑っていて、そんな彼女を見て僕もつられて笑った。

「(きっと貴方も青峰君とは違うタイプの光を持った女性なのでしょね)」

彼女のチームは負けてしまったけれどこれはただの体育の授業のバスケの試合にすぎない。

試合が終わると相手チームにいた友人に彼女は揶揄われていた。
多分彼女は運動がそれ程得意ではないのだろう。
でも苦手なものにも一生懸命取り組んで、やっぱり真面目なんだと思う。
因みに僕達の体育はバスケではなくバレーだった。
青峰君は彼女とは真逆で運動神経がいいからバレーだって真面目にやればそれなりに、いや、かなり上手い。

でもやっぱり彼は生粋のバスケ馬鹿だから、殆ど壁際で座り込んでずっと彼女のことを見ていた。
彼女は僕に気の視線に気付きひらひらと小さく手を振ったのでそれに同じように振り返した。

そしてすぐに青峰君にも気付いた彼女は彼に先ほどのプレイを見られていたことに気が付いて照れたように笑って同じように手を振った。
やっぱり僕に対するそれとは違う。

「(...やっぱりもう少しだけこっそり観察を続けようと思います)」

これは2人のことが心配だからとか、そんな理由じゃなくて。
単純に幸せな気持ちになれるから、ただそれだけ。
人間観察は僕の趣味、というよりバスケの技術の為のルーティンのようなもの、だからそう言い訳させてもらうことにしました。

勿論2人の邪魔にはならない程度に、青峰君が暴走しすぎたら友人として注意していこうと思います。


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