ほんの少し開いたカーテンの隙間から朝日の光が差し込んで僕はその眩しさで目を覚ました。
まだ少し冷たい空気の中彼女のぬくもりが、ふんわりと布団の中に篭って僕に温かさを感じさせていた。
腕の中で眠る彼女を見下ろして僕は静かに息を吐く。
そして昨日の夜のことを何度も反芻していた。
彼女の髪を優しく撫でながら昨日の夢のような時間が現実だったのだと実感して胸の奥がきゅうっと苦しくなる。
でもそれは今まで経験したことがない程幸福に満ちた苦しさだった。
自分がこんなに誰かに執着するようになんて、以前の僕は想像もしなかった。
全ては彼女に出会ってから。
彼女の寝息ひとつ、まつげの震えひとつさえ愛しく感じて仕方がない。
__そんな彼女を僕以外の他の誰にも絶対に触れさせたくないと、本気で思っている。
昨夜彼女が僕を受け入れ包み込むように愛してくれた瞬間の柔らかな表情や小さく漏れる声。
そんな包容力に溢れた彼女がそれでも爪先まで緊張しているというのは明らかだった。
全部、全部記憶の奥底にまで焼き付いている。
それを思い出すだけで喉の奥が熱くなる。
腕の中の彼女が少し身を捩らせて無意識だと思うけれど、僕の胸元に顔を寄せた。
それだけのことで僕の胸が満たされていく。
そして同時に“もう絶対に手離したくない”
そんな独占欲がどろどろと湧き上がってきて思わず彼女を抱きしめる腕に力が入る。
自分でも少し怖いくらい、そのくらい彼女に執着している。
元々彼女への気持ちが軽いものであったわけではない。
それでも昨日までの僕であれば先に目を覚ましたならば起き上がり彼女の為に朝食の支度を初めていた筈だ。
彼女に喜んでほしくて。
でも今日は違う、そんな気になれない。
「...名前さん、まだ寝ていてもいいですよ。僕がずっと見てますから」
今は僕が彼女を見ていたいという気持ちが彼女を喜ばせたいという気持ちより勝っていた。
そんな愛しい寝顔の彼女の髪にキスを落とす。
おそらく彼女がが目を覚ましたとしてもすぐには離してあげられないだろう。
「ずっとこうしていたいです」
勿論彼女と話をするのも好き、彼女の目を見つめられることも幸福だけれど。
こうして無防備な彼女を抱きしめて過ごす時間も好きだ。
抱きしめれば抱きしめる程彼女に対する愛情が、独占欲が増していくのを肌で感じる。
でもそんなことを考えていれば彼女を抱きしめる腕にも力が入る。
やがて彼女は目を覚まし、ゆっくりと瞼を開けた。
そして僕を認識すると寝ぼけた声で「おはよう」と呟いた。
その瞬間僕は挨拶を返すよりも先に___
「...好きです」
彼女への想いが言葉になって自然にこぼれてしまう。
まだ頭が起きていない彼女はきょとんとした顔をしていたけれどそんなのお構いなしに僕は彼女を強く抱きしめる。
「本当に、もう離しませんから」
声に出して囁いた言葉は普段より少し低くなっていた。
昨日までは君が笑ってくれるなら何でもいい、そう思っていた。
だけど今の僕はその笑顔が他の誰かのものになるなんて絶対に嫌だと思っている。
笑顔だけじゃない、これからは彼女のすべてを独り占めにして生きていしたい。
そんなことは無理だと分かってはいるのだけれど。
彼女には彼女の人生があるから。
それでも僕は朝日が差し込むベッドの中で強く望んだ。
黒子テツヤは君を腕の中でぎゅっと抱きしめ直した。
でもそんなことをしていれば当然彼女は目を覚ましてしまった。
目頭に一瞬皺が寄り、ゆっくりと開かれた瞳はやがて僕を視界に入れた。
まだ頭が起きていないのだろう、ぼんやりとこちらを見つめてゆっくりと2度、3度とまばたきをした。
そんな無防備な姿をこんなに近くで見られることがこんなに幸せだなんて、昨日までの僕は知らなかった。
でもそのまだ眠たそうな君の目が、頬がほんのりと朱く染まり恥ずかしそうに僕から視線を逸らした。
きっと彼女もまた昨日の夜のことを思い出しているのだろう。
本当に、どうしようもないくらい胸が熱くなる。
彼女が顔を背けて身体を捻り、僕の腕の中から抜け出した。
僕の視界に映るのは君の後ろ姿。
背を向けられたのは少し淋しい。
でもそんな反応すら愛おしい。
「...見過ぎだよ...」
聞き取れるかどうかってくらい小さな声。
その小さな訴えに僕の頬が緩んだ。
___本当に、どうしようもないくらい好きだ。
独り占めにしたい、誰にも渡したくない。
彼女への気持ちが膨れ上がる度にその思いが強くなっていく。
「名前さんが可愛いから見てしまうんです。...昨日の貴方、本当に綺麗でした」
こんな風に言えば彼女は照れると分かっている。
それでも口にしてしまう、そんな僕は彼女の目に意地の悪い男に映ってしまうのだろうか。
それでも君が照れる顔をもっと見てみたいと思ってしまう。
でも本当に泣かせてしまうようなことはしたくない、それも本心だ。
「...テツヤ君のばか...」
不安も不満も彼女の全てを受け止めたい。
でもその代わりに君の体温も声も心も、全て僕だけのものにしたい。
今の僕はどうしようもなく欲張りだ。
そっと腕を回して彼女を後ろから抱きしめ直した。
「名前さんが全部可愛いからいけないんですよ。ずっと見ていたいと思うくらい貴方が好きなんです。...だから僕から逃げないでください」
もう君が恥ずかしがっても離れる気はない。
絶対に手放さない。
昨夜、確かに身体も心も全て“僕だけの人”になってくれたから。
だから彼女が背を向けていてもぎゅっと包み込んで腕の中に閉じ込める。
そうしていればこの世界のすべてから君を守ることができる気がする、なんて、そんなことを考えた。
朝の日差しの中で、静かに、でも確かな意思を込めて___
「大好きです」
君が好きだと何度でも口にします。
end