炎の君











「名前!」

「名前ちゃん!」




あのまま炎の君に抱き上げられ藤の家紋の家に戻れば、玄関でうろうろとしていた冨岡さんとおばあさんがハッとして駆け寄ってきた
冨岡さんはわたしを抱き上げている人を見ると驚愕に目を見開き、おばあさんは瞳に涙を溜めてわたしの手を握る


「ごめんなさい、おばあさん…お醤油ダメにしちゃった」


苦笑いしてそう零せば、ついにその瞳からぽろぽろと涙がこぼれてしまい、痛む腕を無理やり動かして慌てて袖でそっと拭った



「あなたが無事なら、お醤油なんてどうでもいいのよ」

「…おばあさん……」

「また、失ってしまうのかと……」


そう言って悲痛な表情でわたしの手を握る手に力をこめる彼女に、あぁ、娘さんとわたしを重ねてしまったんだな、と察する

眉尻を下げてへらりと笑うと、その手をぎゅっと握り返す


「大丈夫ですよ、おばあさん。わたしは、絶対に死にません。死ぬわけには、いかないんです」

「名前ちゃん……」




「さぁ、2人とも!無事を喜ぶのは一旦置いておいて、まずは少女の怪我を手当てをせねば!」



おばあさんと見つめあっていると、炎の君がそう言って家の中へと促す


「まぁ!怪我をしていたのね!すぐにお医者様をお呼びするわ」


そこでわたしの怪我に気がついたのか、おばあさんが慌ててわたしから離れてすぐさまどこかへ掛けて行った
それを呆然と見ていれば、無言で近づいてきた冨岡さんに無言で頭を撫でられる


「無事でよかった。気がついてやれなくてすまない」


そう言う彼は相変わらず真顔だけれど、どこか悲痛な表情をしているような気がして、彼の頬を指先で撫でる


「ただいま、冨岡さん」


へらりと笑ってそう言えば、彼は一瞬目を見開いたあと、少し表情を緩めた


「おかえり、名前」















「いたたた…」


お医者さんに診てもらったのはいいものの、消毒すっごく痛かった…
腕に包帯を巻かれながら涙目になっていれば、襖の向こうからわたしの名前を呼ぶ冨岡さんの声が聞こえたと同時に襖が開けられた


瞬間、彼が固まり、また閉まる



「んんっ、治療が済んだら隣の部屋へ来るように」

「あ、はい。わかりました」


治療のため片方脱いでいた着物に袖を通して、袂を整えるとお医者さんにお礼を言って立ち上がる



さて、行きますか














「名前です、入ってもよろしいでしょうか」

「あぁ」


襖の前で声をかけてから開ければ、冨岡さんと炎の君が並んで座っていた
促されるまま彼らの前に座ると、また前のごとく咳払いの多い冨岡さんが口を開く



「ん゛んっ…では名前。何があったのか話してもらおう」

「あ、はい」


そんなに長い話でもないけれど、おばあさんに買い物を頼まれてからの経緯を事細かに話す
途中炎の君が出てきたあたりでは彼が補足しながら話してくれて、冨岡さんはなるほど、と頷いた


「では煉獄の協力もあり今回の任務は終わりだ」

「よもや、よもやだな!」


腕を組んで楽しげに笑う彼に、あのぅ、と手を挙げる



「なんだ!少女」

「わたしは名字名前と申します。助けてもらっておいて名前をお聞きしていなかったと思いまして」


ずっと炎の君と呼ぶわけにもいかまい
彼に名前を尋ねれば、ニカッと眩しく笑う


「煉獄杏寿郎だ。君の勇気と強さに俺は感動した!俺の継子にならないか?」

「継子…?」

「まて、煉獄。彼女はまだ鬼殺隊員ではない」

「なにっ!?」


あんな身のこなしでか!?と大きく口を開けて驚く煉獄さんに、冨岡さんがため息を吐く
体の動きを褒めてくれたことが嬉しくて、締まりのない口元を手で揉んでいれば、煉獄さんがずいっと近づいて顔を覗き込んでくる


「では最終選抜までどこの育手のもとへやるつもりだ?」

「名前は鬼舞辻無惨に狙われている。産屋敷へ行きお館様へ相談するつもりだ」

「なにっ!??」


先程より更に目と口を開いて驚く煉獄さんは、わたしの頬を両手で覆うと目が合うように顔を上げさせた


「あの男が狙うなど…何者だ少女は」

「…ただの負けず嫌いの女の子ですよ」


帰ることを、生きることを諦めたくないだけの、力のない人間だ
目を逸らして自嘲するように笑うと、彼は無言でわたしの顔を見つめたあとその手を離した


「そうか…では産屋敷へは共に行こう!」

「煉獄、任務はないのか」

「終わっている!産屋敷へ滞在することになるのであれば任務のない間は俺が剣を教えよう!」

「!!いいんですか?!」


鬼と闘う彼の動き、早すぎて見えなかった
きっと凄く強いひとだ
そんな人が鍛えてくれるというのが嬉しくて、顔を輝かせれば、冨岡さんに頭を撫でられる


「任務のない時は、俺も手を貸そう」

「冨岡さんも…お二人共、ありがとうございます!」


是非よろしくお願いします!
と勢いよく頭を下げれば勢い余って畳に額を打ち付けてしまったけれど、それも気にならないくらい嬉しかった


(これで、少しでも強くなれる…!)


ぐっと拳を握って喜ぶわたしに、冨岡さんと煉獄さんは顔を見合わせ、わたしの髪の毛を同時にぐしゃぐしゃにした









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