Innocence


恋う


 ふっと意識が覚醒して目を開くと、まだ太陽が登りきっていないのか辺りは薄暗かった。肌寒さを感じてむき出しになっていた肩を布団に納めようと掛け布団を手繰り寄せていると、自身の身体に残る昨夜の情交の跡が目に入り頬が熱くなる。それを隠すかのように慌てて肩まで布団を掛けて隣で眠っている彼──利吉さんの顔をじいっと見つめる。
 どこもかしこも綺麗に整った顔立ちに、さらりと溢れる猫毛の髪。今は閉じられている瞳も、開けば鋭く、それでいていつも優しく、柔らかくわたしを見守ってくれていることを知っている。「さくらさん」と呼んでくれる穏やかで落ち着いた声も、温かくて大きい安心する手のひらも、彼を構成する全てのものが愛おしい。
「…………すき」
 胸の内に溢れた愛しさは、堪えきれなかったのかぽつりと音になって溢れ落ちた。その瞬間ぱちり、と開いた彼と目が合う。彼の瞳にはきょとんとした顔のわたしが映っていた。
「寝てる私だけじゃなくて起きてる私にも言ってくれませんか」
 そう言う利吉さんの瞳は楽しそうに細められている。
「り、利吉さん起きて……!?いまの、絶対聞こえてましたよね……!?」
 そう告げてみるも、利吉さんは変わらずにこにこと笑ったままだ。
さあさあ言ってください、とでも言いたげに笑う利吉さんにじわじわと追い詰められていく。改めて起きている利吉さんに恋い慕う気持ちを告げることへの恥ずかしさのあまり、わたしは意味もなくうろうろと視線を彷徨わせてしまう。
 視線を何往復かさせた後、覚悟を決めてほんの少しだけ空いていた隙間を埋めるように利吉さんの胸元へと擦り寄った。そして、まるで秘め事を伝えるかのように彼の整った顔にそっと口を寄せ、小さな声で囁くようにゆっくりと言の葉を紡いだ。
「……すき、です。お慕いしております。利吉さんのことを、誰よりも」
 数瞬、時が止まったかのように利吉さんの動きが止まった。わたしは恥ずかしさに耐えきれずそっと目を伏せたが、その瞬間上から「なっ……!」と声が聞こえて反射的に顔を上げた。見上げた利吉さんの瞳は見開かれ、頬はじんわりと赤く染まり、やがて耳の先までもが真っ赤に染まりきってしまった。
 その反応に驚いていると、利吉さんの大きくて温かな手のひらにぐっと抱き寄せられた。まるで抱き締められているかのように彼の胸元へぴったりとくっつく。触れ合った肌と肌が心地いい。
まだ赤みの残る頬の彼は照れ隠しからか、じとりとした視線を投げかけた。
「貴女はたまに直球すぎます」
「そう……でしょうか……?」
「そうですよ」
「いや、ですか……?」
「まさか。嬉しいですよ」
 先程の表情から一転、ふっと目元を細めた利吉さんはわたしの額に優しく唇を落として口を開いた。
「私も、さくらさんが好きです。貴女だけをお慕いしております。この世の誰よりも、何よりも」

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