6
後ろ手に鍵を閉めながらニコニコと笑顔で話す殿村がいた。
また暗がりで…。毎度こいつはホラーか。
「なんでいるんだよ!」
「そりゃ、金曜日だから?それより、碧くんもうご飯食べた?」
「はぁ⁈そんな事より、お前、勝手に入るなよ!」
「…ふーん。」
「な、なんだよ!まだ居座るなら…」
「碧くん」
弱い犬ほどよく吠える。それを体現するが如く喚く碧を、殿村が静かな声で制した。
「今日はとっても元気だね?」
「べ、別に…。」
「碧くん、俺に嘘ついたでしょ。」
「はぁ?嘘ってなに?意味が分からん。」
殿村は答えない。
それよりも、自分を陥れたのはそっちだろう!
碧が反撃をしようした時には、殿村は次の言葉を放っていた。
「彼女居たんだ?」
「…は?え、何?」
だから何だ。それより、どうやってそんな事知ったんだ?
あぁ、また矢野か。
そう思うと、カッと頭に血が上った。
「だから何だよ!もう、お前には関係ないだろ!」
「へぇ?関係ないの?」
殿村が片眉を上げる。馬鹿にした様に笑っていて、それが酷く勘に触った。
「関係ないだろ!…っ」
不意に殿村が屈み、碧と目線を合わせた。
「コンペ終わったら、俺には用無しだもんね?」
瞳は笑っていない。冷たい笑顔が、月明かりの中で眼前に浮かぶ。
その迫力に、碧は言葉を飲み込んだ。
「それはそうと、嘘ついてたらどうなるんだっけ?」
「…っ」
殿村は綺麗に微笑んで小首を傾げた。
『監禁して、犯す。ずっと、永遠に、エンドレスで犯すから。』
前に殿村が言っていた言葉が頭の中で響く。
碧は顔を青くしてごくりと生唾をのんだ。いやいや、でも仕事あるし?そもそもそんなの犯罪だし?そんな事…無理だし?
色々と自分の中で言い訳をするが、こちらを見据える殿村の目が座っている。笑顔なのに冷えきっている。
『出来るかどうやじゃなくて、やるんだよ。』
「っ‼︎」
咄嗟に体が逃げを打とうした。しかしそんな碧の髪を掴み、殿村が強引に引き戻した。
倒れた碧の前髪を再び掴み、乱暴に顔を寄せてくる。
殿村はいつの間にか無表情で、射抜くようにこちらを睨んでいた。これまでの笑顔とのギャップが凄まじい。
「ふざけんじゃねーぞ。毎度逃げて、その場しのぎの嘘ばっかじゃねーか。」
こ、怖い。
酷く険のある物言いだった。仕事で見せるよりも、いつ何時よりも、もっと冷たい目がこちらを鋭く睨む。
「今までの罰はぬるかった?」
「…。」
背筋に冷たい汗が伝う。
「碧、口開けろ。」
「え、なん、ふっ」
開けろと言う割には強引な手つきで頭を押さえ込みキスをされた。そしてそのまま床に押し倒される。
そしてキスが終わると、昔された口枷をまた付けられる。荒い手つきが痛い。
「もう碧くんは話すのやめようか。」
「ふっ、」
怒りを隠さない声色でそう告げられ、殿村の手が体をすべる。碧はその感覚にびくりと身を竦めた。
「どうせ、碧くんの言葉に本物はないんだよね。」
見上げた殿村は、何処か寂しそうだった。
———
「…。」
目を覚ますと、右手が重い。手枷がつけられていた。そしてその枷に繋がる鎖はベッドに繋がれていた。
本当監禁された。
金曜日から文字通り三日三晩されて。
月曜日、殿村は碧をベッドに繋いだまま出社したようだ。
泣きはらした目が重い。
普通はここで逃げる策を考えるべきなんだろうが、連日連夜酷使された体が軋み少し動くだけでも辛い。
幸い口枷は外されている。
ガクガクと震える手を伸ばし、サイドボードに置かれたペッドボトルの水を飲んだ。
「…つっ……。」
動くと後ろに刺すような痛みが走る。
今までも酷かった気はしたが、今回のはその比ではなく酷かった。
「はぁ…」
力なく、またベットに倒れ込む。
思えば、金曜日からろくに寝れてない。
数分もたたずに、碧は再び意識を手放した。
———-
ガチャン
そして次は、ドアが開く音で目を覚ました。
もう殿村が帰って来たのか?時計を見ると、14時過ぎ。殿村が帰るには早過ぎる。
「…楓くん?」
「先輩!」
来たのは七緒だった。碧の有様を見ると、顔面蒼白で碧に駆け寄ってくる。
「先輩が欠勤なんて、タイミング的にも絶対おかしいって思って…って言うか、何ですかこれ⁈殿村ですよね?そうですよね⁈本当、あいつ、やり過ぎ…。ちょっと、なんとか鎖切れそうなもの探してきます。」
七緒は繋がれた碧を見てその異常さに一瞬狼狽たが、直ぐに何処からか持ってきた工具で鎖を切ってくれた。
「先輩、一旦ここはでましょう。」
「あ、待って、荷物…。」
碧は七緒に引かれて、必要最低限の荷物を簡単に纏めると直ぐに家を出た。
「…はぁ…」
「先輩、今日はうちに泊まります?」
「いや、そこまで迷惑はかけられない。本当にありがとう。あんなとこ見せて、すまん。」
「いえ、そんな…。」
「…。」
「…。」
二人の間に気まずい沈黙が影を落とす。
七緒は碧の様子を慎重に盗み見ていたが、意を決した様に話しかけてきた。
「何となく、事の成り行きは分かります。先輩がコンペが終わったからと離れた事に、殿村が怒ったんですよね。」
「…あぁ。でもそれより、今迄俺が逃げていたから…、殿村ときちんと向かい合ってなかったし、ちゃんと話さず誤魔化し続けいた。それが原因で生まれ続けた小さな歪みが、積もり積もった結果なのかも。」
「そうですね。」
七緒は当たり前、という顔で頷いた。余りにもその頷きが強いので、碧は「え」という顔で七緒を見てしまった。
「先輩って、なんてか…のらりくらり癖ありますよね。」
「…。」
「その癖、ちょっと相手が強引に出ると、すぐびびって流されるちょろQなところありますし。」
「ちょ、ちょろQ…。」
随分ハッキリと…。
七緒の物言いに対して驚は隠せないが、今思い返せば、その性格で七緒にも幾度か迷惑をかけている。
「…でも…こんな…あんな事言っていたオレが言うのも何ですけど…」
七緒は自信満々なトーンから、急に言いにくそうな顔で肩を竦めた。
「殿村の事は…もう少し…ちゃんと考えるべき……かもですね。」
「え?」
正直、我が耳を疑った。
どう言う事だ?七緒が殿村をフォローするような事、今まで一度も言った事はなかった。
「…こんな事言うのも大変不本意ですけど…、俺、あの変人の事…不本意ですけど…多少は、ごく極めて少しだけ、認めてますから。」
「そ…え?どうした急に?」
七緒は話す内容の割に、苦々しげだった。
不本意って、二回も言っているし。
「…マニュアル作った時なんですけど、アイツ、先輩が品質管理部に相談しに席を外した時、やたら怠そうで欠伸ばっかりだったんです。あまりに怠そうな態度に腹が立って、なら帰れって、俺、怒っちゃたんです。」
「そんな事が…」
「はい…。すみません。でも、それでぼやかれて知ったんですけど、あいつ、あの日は大阪への日帰り出張で、朝5時起きで働いていたらしいです。」
「え?そうだったか?でも、全然そんな風には見えなかった。…そっか…。」
碧は思わず歩を止め、その場で立ち尽くした。
自分に気を遣わせないように、平気なふりをしていたのか。
あの日の殿村は凄く疲れていたはずなのに、連絡が取れない自分を案じて遅くまで起きていて、あまつ深夜に仕事の手伝いまでしてくれたのか。
なんだよ。
「だから、殿村の先輩への想いには俺も負けたかなぁって、あの日に思ったんです。…でもやっぱり悔しくて、連絡をブロックしろとか意地悪言ってすみません…。きっと、先輩がこんな目に合ったのは、俺のせいでもあります。本当に、すみませんでした。」
「いや、助けに来てくれたし、全然…。寧ろありがとう。」
七緒は気まずげに下を向いた。
七緒がそんな風に殿村を見ていた事にも驚くが、殿村がそこまで自分の事を思っていてくれていたなんて。
でも矢野と結託していたのではないか?
一体、何処までが本当の殿村なんだ?
また暗がりで…。毎度こいつはホラーか。
「なんでいるんだよ!」
「そりゃ、金曜日だから?それより、碧くんもうご飯食べた?」
「はぁ⁈そんな事より、お前、勝手に入るなよ!」
「…ふーん。」
「な、なんだよ!まだ居座るなら…」
「碧くん」
弱い犬ほどよく吠える。それを体現するが如く喚く碧を、殿村が静かな声で制した。
「今日はとっても元気だね?」
「べ、別に…。」
「碧くん、俺に嘘ついたでしょ。」
「はぁ?嘘ってなに?意味が分からん。」
殿村は答えない。
それよりも、自分を陥れたのはそっちだろう!
碧が反撃をしようした時には、殿村は次の言葉を放っていた。
「彼女居たんだ?」
「…は?え、何?」
だから何だ。それより、どうやってそんな事知ったんだ?
あぁ、また矢野か。
そう思うと、カッと頭に血が上った。
「だから何だよ!もう、お前には関係ないだろ!」
「へぇ?関係ないの?」
殿村が片眉を上げる。馬鹿にした様に笑っていて、それが酷く勘に触った。
「関係ないだろ!…っ」
不意に殿村が屈み、碧と目線を合わせた。
「コンペ終わったら、俺には用無しだもんね?」
瞳は笑っていない。冷たい笑顔が、月明かりの中で眼前に浮かぶ。
その迫力に、碧は言葉を飲み込んだ。
「それはそうと、嘘ついてたらどうなるんだっけ?」
「…っ」
殿村は綺麗に微笑んで小首を傾げた。
『監禁して、犯す。ずっと、永遠に、エンドレスで犯すから。』
前に殿村が言っていた言葉が頭の中で響く。
碧は顔を青くしてごくりと生唾をのんだ。いやいや、でも仕事あるし?そもそもそんなの犯罪だし?そんな事…無理だし?
色々と自分の中で言い訳をするが、こちらを見据える殿村の目が座っている。笑顔なのに冷えきっている。
『出来るかどうやじゃなくて、やるんだよ。』
「っ‼︎」
咄嗟に体が逃げを打とうした。しかしそんな碧の髪を掴み、殿村が強引に引き戻した。
倒れた碧の前髪を再び掴み、乱暴に顔を寄せてくる。
殿村はいつの間にか無表情で、射抜くようにこちらを睨んでいた。これまでの笑顔とのギャップが凄まじい。
「ふざけんじゃねーぞ。毎度逃げて、その場しのぎの嘘ばっかじゃねーか。」
こ、怖い。
酷く険のある物言いだった。仕事で見せるよりも、いつ何時よりも、もっと冷たい目がこちらを鋭く睨む。
「今までの罰はぬるかった?」
「…。」
背筋に冷たい汗が伝う。
「碧、口開けろ。」
「え、なん、ふっ」
開けろと言う割には強引な手つきで頭を押さえ込みキスをされた。そしてそのまま床に押し倒される。
そしてキスが終わると、昔された口枷をまた付けられる。荒い手つきが痛い。
「もう碧くんは話すのやめようか。」
「ふっ、」
怒りを隠さない声色でそう告げられ、殿村の手が体をすべる。碧はその感覚にびくりと身を竦めた。
「どうせ、碧くんの言葉に本物はないんだよね。」
見上げた殿村は、何処か寂しそうだった。
———
「…。」
目を覚ますと、右手が重い。手枷がつけられていた。そしてその枷に繋がる鎖はベッドに繋がれていた。
本当監禁された。
金曜日から文字通り三日三晩されて。
月曜日、殿村は碧をベッドに繋いだまま出社したようだ。
泣きはらした目が重い。
普通はここで逃げる策を考えるべきなんだろうが、連日連夜酷使された体が軋み少し動くだけでも辛い。
幸い口枷は外されている。
ガクガクと震える手を伸ばし、サイドボードに置かれたペッドボトルの水を飲んだ。
「…つっ……。」
動くと後ろに刺すような痛みが走る。
今までも酷かった気はしたが、今回のはその比ではなく酷かった。
「はぁ…」
力なく、またベットに倒れ込む。
思えば、金曜日からろくに寝れてない。
数分もたたずに、碧は再び意識を手放した。
———-
ガチャン
そして次は、ドアが開く音で目を覚ました。
もう殿村が帰って来たのか?時計を見ると、14時過ぎ。殿村が帰るには早過ぎる。
「…楓くん?」
「先輩!」
来たのは七緒だった。碧の有様を見ると、顔面蒼白で碧に駆け寄ってくる。
「先輩が欠勤なんて、タイミング的にも絶対おかしいって思って…って言うか、何ですかこれ⁈殿村ですよね?そうですよね⁈本当、あいつ、やり過ぎ…。ちょっと、なんとか鎖切れそうなもの探してきます。」
七緒は繋がれた碧を見てその異常さに一瞬狼狽たが、直ぐに何処からか持ってきた工具で鎖を切ってくれた。
「先輩、一旦ここはでましょう。」
「あ、待って、荷物…。」
碧は七緒に引かれて、必要最低限の荷物を簡単に纏めると直ぐに家を出た。
「…はぁ…」
「先輩、今日はうちに泊まります?」
「いや、そこまで迷惑はかけられない。本当にありがとう。あんなとこ見せて、すまん。」
「いえ、そんな…。」
「…。」
「…。」
二人の間に気まずい沈黙が影を落とす。
七緒は碧の様子を慎重に盗み見ていたが、意を決した様に話しかけてきた。
「何となく、事の成り行きは分かります。先輩がコンペが終わったからと離れた事に、殿村が怒ったんですよね。」
「…あぁ。でもそれより、今迄俺が逃げていたから…、殿村ときちんと向かい合ってなかったし、ちゃんと話さず誤魔化し続けいた。それが原因で生まれ続けた小さな歪みが、積もり積もった結果なのかも。」
「そうですね。」
七緒は当たり前、という顔で頷いた。余りにもその頷きが強いので、碧は「え」という顔で七緒を見てしまった。
「先輩って、なんてか…のらりくらり癖ありますよね。」
「…。」
「その癖、ちょっと相手が強引に出ると、すぐびびって流されるちょろQなところありますし。」
「ちょ、ちょろQ…。」
随分ハッキリと…。
七緒の物言いに対して驚は隠せないが、今思い返せば、その性格で七緒にも幾度か迷惑をかけている。
「…でも…こんな…あんな事言っていたオレが言うのも何ですけど…」
七緒は自信満々なトーンから、急に言いにくそうな顔で肩を竦めた。
「殿村の事は…もう少し…ちゃんと考えるべき……かもですね。」
「え?」
正直、我が耳を疑った。
どう言う事だ?七緒が殿村をフォローするような事、今まで一度も言った事はなかった。
「…こんな事言うのも大変不本意ですけど…、俺、あの変人の事…不本意ですけど…多少は、ごく極めて少しだけ、認めてますから。」
「そ…え?どうした急に?」
七緒は話す内容の割に、苦々しげだった。
不本意って、二回も言っているし。
「…マニュアル作った時なんですけど、アイツ、先輩が品質管理部に相談しに席を外した時、やたら怠そうで欠伸ばっかりだったんです。あまりに怠そうな態度に腹が立って、なら帰れって、俺、怒っちゃたんです。」
「そんな事が…」
「はい…。すみません。でも、それでぼやかれて知ったんですけど、あいつ、あの日は大阪への日帰り出張で、朝5時起きで働いていたらしいです。」
「え?そうだったか?でも、全然そんな風には見えなかった。…そっか…。」
碧は思わず歩を止め、その場で立ち尽くした。
自分に気を遣わせないように、平気なふりをしていたのか。
あの日の殿村は凄く疲れていたはずなのに、連絡が取れない自分を案じて遅くまで起きていて、あまつ深夜に仕事の手伝いまでしてくれたのか。
なんだよ。
「だから、殿村の先輩への想いには俺も負けたかなぁって、あの日に思ったんです。…でもやっぱり悔しくて、連絡をブロックしろとか意地悪言ってすみません…。きっと、先輩がこんな目に合ったのは、俺のせいでもあります。本当に、すみませんでした。」
「いや、助けに来てくれたし、全然…。寧ろありがとう。」
七緒は気まずげに下を向いた。
七緒がそんな風に殿村を見ていた事にも驚くが、殿村がそこまで自分の事を思っていてくれていたなんて。
でも矢野と結託していたのではないか?
一体、何処までが本当の殿村なんだ?