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あ、卵焼きの匂い。

俺はくんっと鼻を鳴らした。

卵焼きと白米が炊けた香り。
香ばしくて、暖かい香り。
実家を思い出す。
料理なんてほぼしない母がたまに作る、母親の香り。
嫌な匂いだな。

「みけちゃーん、もう9時過ぎてるよ!」
「…」

俺は寝起きのぼんやりした頭で、卵焼きを焼く小白をじっと見た。

———-

「くそっ!あの、顔だけ野郎…っ!」

俺は腰をさすりながら街を歩く。
この前のお仕置きに抗議したら、更に酷い仕打ちにあった。
何が「前を当分使いたくなくなるまで使わせてあげる」だ。
前にも後ろも同時にって…もう俺の身体はボロボロだぞ!

「本当に別れたい…」
「お、噂の彼女か?」

ぶつくさいいながら道を歩いていると呑気な声に呼び止められた。
振り向くと、ニヤニヤとこちらをみている派手な男がいた。
俺の幼馴染である、環(たまき)だ。
友達にこの俺がぽっとでのαにいいようにされているなんて言えないので、小白の事は勝手に彼女顔しちゃってる面倒な女だと話している。

「たまー。偶然だな。今日バイトは?」
「うん、休み!それよりさ、ミケ〜、どうしたの?またあのヤバい女?」

環は俺の肩に腕を絡め、含み笑いで聞いてくる。
他人事なら、そりゃ面白い事案だよな…。

「まーな。あのイカれ女、俺をめちゃくちゃ管理して、意にそぐわないと、お仕置きとか言って……いわゆるメンヘラだな、あの女。うん。」
「え⁈お、お仕置き?エッチなやつ⁈ねぇ、どんな事してもらえるの⁈」

俺のお仕置き発言に何を想像したのか、環は興奮気味に問いただしてくる。
呑気な奴だ。
小白のはむしろ拷問だぞ。
しかも小白の憂さ晴らしも兼ねてるから、全力でぐちゃぐちゃにされる。
恐怖と劣等感と屈辱感と…兎に角色々やばいぞ。

「はぁ…。もっと違う女の子と遊びたい。」
「て、なるじゃん?」
「は?なに?」

俺のぼやきを環が食い気味に拾う。
そして悪い笑顔で顔を覗きこんできた。
その手には、キャバ嬢の名刺があった。

「あー、けど、俺、マーキングされてるらしいし…」
「はいはい、マキハラも想定内。」
「マキハラ?人?誰?」
「マーキングハラスメント!本当、みけちゃんってばお馬鹿。」
「…。」

ブツブツ言いながら環は鞄を漁った。
そしてニヤリと笑いながら香水瓶を取り出した。

「マーキング消し用!」

————
「やーん。たまちゃん、みけちゃん、ありがとう♡」
「いいの♡ほら、あいちゃんが恋しがっていた、みけちゃん♡」

環は満面の笑みで俺をあいちゃんの方へ押し出した。

環に連れられて来たのはキャバクラだった。
俺を気に入っていたあいちゃん(かつてのパトロン)が、俺が最近顔を見せないので環に割引券を握らせたらしい。

「みけちゃ〜ん!おひさ♡」
「あいちゃん!」

あいちゃんは俺を見るなり抱きついて来た。
不可抗力で、俺はあいちゃんのたわわなパイに顔を埋めることになり思わず笑ってしまう。
あー、やっぱり女の子最高。
柔らかくていい匂いするし。この温もり、ずっと包まれていたい。

「今日団体さん入ってて、ヘルプとかで少しバタバタするかもだけど、私はみけちゃんを優先するからね♡」
「え?団体さん?」

あいちゃんにホールドされたままひょっこり顔を覗かすと、奥の方に団体客が見えた。
キラキラした雰囲気の団体だった。
業界人?

「あーっ!小白さんじゃん⁈」
「えっっ⁈」

環が大声を出す。
いや、まさか…。
いやいやいやいや!
超絶、異次元レベルで俺ラブな小白が。
こんなところで女の子と遊んでるわけ…

「そん……わーーーーーっ‼︎こ、小白‼︎」
「…」

まじもんじゃないか!
探すまでもない。
小白、じっと座った目でこちらを見ていた。
圧が凄いため、サーチ開始からコンマ0秒で視界にカットインしてくる。
俺は慌ててあいちゃんの腕の中からすり抜けた。

「ぁ…えと…環!俺を無理矢理連れてきて、俺は…どっ…俺は…ムリヤリ、デ…っ」

あぁ〜‼︎元から容量の少ない頭がテンパっ…テンっ
やっっば…次っ、次は何されるか…考えるだけで恐ろしい。

「小白さぁんっ!混ぜてくださいよ〜‼︎」

環っ!

俺がフリーズしている間に、環が小白にゴロニャンと擦り寄ってしまった。
で、でも…、小白はきっと俺たちを追い返すはずだ。
だって小白曰く俺は小白の彼女だし?
女の子と触れ合うのはNGだろ。
後は帰ってなんとか誤魔化せば、大丈夫だ。

「…どうして二人はこんなところいるの?」
「悩めるみけの話を聞く会なんすよ!」
「悩める?」

ぇ、うそ。

「そうなんすよ!みけ、なんか変な女に、押しかけ彼女されてるみたいで。」

馬鹿!
変な女って、ご本人だよ!
目の前にいるのが、ご本人だよ!

「変な…女…」

うっ…
小白は片眉をあげ、考えるように顎に手を当てた。
やっっっっば…

「ぁ、あー…でも、考えたらそんなに変でもないかも……」
「えー⁈みけちゃん!何、急に⁈最近口を開けば悪口ばっかで、さっきも散々別れたいってー「たまっ!」」

俺は慌てて環に駆け寄り、口を塞いだ。

「ねぇ、それっ!超プライベートな話っ!やめろよ!」
「大丈夫大丈夫!みけちゃんは、あいがまた癒してあげるから♡前みたいに♡」
「あ…♡あいちゃん…っ」

騒ぐ俺をあいちゃんが抱きしめて黙らせる。
黙らせ方が、たまらん。

「……ふーん……」
「っ」

一瞬気を抜いたらまた悪寒がして、目を向けると小白がさらに冷たい目でこちらを見ていた。

「でも、今日はこれで…「田代(たしろ)さん。」」
「どうしたの、小白くん。」

帰ろうと思ったのに、小白は俺の言葉を遮って主賓席に座るイケメンに話しかけた。

「彼ら俺の友達なんです。」
「そうなの?凄い偶然!」
「そうですよね。送別会なのに申し訳ありませんが、折角なのでご一緒させて頂けないでしょうか?」
「勿論!いいよいいよ‼︎」

どうやら今日は、小白のモデル仕事の先輩の送別会だったらしい。
俺は引っ張られ、小白の隣に座らされる。

しかし…どういうことだ?
小白と俺の関係は公になっていない。
小白だって、俺にここから帰って欲しいはずなのに。
ていうかこのメンツ、皆須く顔が良くてお洒落でキラキラしている。こんな奴らとキャバとかただの拷問だろ。刺身のツマになった気分。
環も楽しくないだろうと思って隣りを見るが、何故か不思議と馴染んで楽しんでいた。
そっか。思えば環はそんな奴だ。

戸惑う俺をよそに、ワイワイと場は盛り上がる。

「…」
「…」

小白と俺だけがぽっかりと周囲から切り出されたようにシンッと気まずい。
なんか言えよ!

「……みけちゃん、香水つけてる?」

そんな中、ふと小白がグラスの水滴を触りながら俺に話しかける。

「は?なに?香水?」

あ、まずい。
小白にはフォロー入れないとなのに、不意打ち過ぎて怪訝な顔しちゃった。

「わっ、ちょっ、な、…っ⁈」

小白は戸惑う俺を強引に引き寄せ、くんっと鼻を鳴らした。
吐息が首筋にあたり、ぞわりと肌が栗立つ。

「ぁっっ、」

あと小白の匂い嗅ぐと、反射で身体がムズムズする。

「おかしいなぁ…」

ソワソワが止まらない俺を他所に、小白は考える様に目を細めていた。

「あー、小白さん、みけ、例のヤバい女にマーキングまでされてて、その匂い消し付けてるんですよ。」
「…ふーん。」

そゆこと!
環は俺の不幸をただ面白がっているからな。
笑いながら小白に説明している。

「その他はどんなこと言ってるの。その人について。俺も聞いてあげるよ?」

小白は俺に向かって挑戦的に微笑んだ。

一応、俺も小白が好きな体でいる。
小白の機嫌を損ねてバンドを抜けられたら、俺まで追い出されるからだ。
だから俺が小白のことを『やばい女』とか呼んで嫌がっているなんて、小白にしたら寝耳に水だ。
だから俺はここに座らされて、今から尋問を受けるんだ…。
…多分。

「……」
「もうないの?」
「…………」
「ないの?」
「…ぇっ!あ、……う「いいや!もっと山ほどありますよ!」」

小白が詰め寄って俺が目線を泳がせていると、環が割って入ってきた。

「もーっ!みけってば、小白さんイケメンだからって変な見栄張ってんの⁈」

イケメンていうか、こいつがその人だからだよ!

「えっとですねー、粘着質過ぎて頭おかしいとか、いいのは顔だけで中身はただの面倒なメンヘラだとか、セックスもしつこ過ぎて気持ちいいってかもやは快楽拷問とかとか?そのくせ、相性良いとか言うけどどんな勘違いwwとか!」
「…へー。セックスまで……。」

もーやめて!
怖くて生きた心地がしない。
俺はビクビクしながら小白の様子を伺う。

「そうだね。」
「「え?」」
「そんなの、ただの勘違いだ。」
「小白…っ!」

絶対にブチ切れ案件だと思ったのに!
小白は目を伏せ、神妙な顔で反省にも似た発言をする。
まさか、改心したのか?
しちゃったのか⁈
そして俺を解放しつつも、バンドを続けてくれちゃったりなんかするのか⁈

「みけちゃん。」
「なに、小白?」

小白は眉尻を下げて俺に話しかける。

「みけちゃんは、どう思う?」

おぉ!
意見を聞かれた!
これは穏便に別れるチャンス!
俺はニヤけそうになるのを堪え、努めて神妙な顔で答えた。

「…そうだな。もう無理にその女と関係を続けることも…」
「ことも?」
「な、ないかなーーっ、なんちゃって…「そうだよ!」」
「⁈」

俺がはやる気持ちを抑えて答えると、小白は食い気味に同意してきた。
ナニコレ⁈奇跡!

「こ、小白もそう思うのか⁈」
「勿論そうだよ!みけちゃん、そんな女とは即刻別れるべきだよ!みけちゃんには本当に愛する恋人がいるんでしょ!」
「うん……うん?」
「だから、悩むんでしょ⁈」

え、幻聴?
な、なに?どゆことー⁈

俺が首を傾げ、その横で環はもっと首を傾げている。
だって…え?
この話のなかには、小白と俺しかいなかったはずだけど。小白の中では、変な女と、俺と、俺が本当に愛する人がいる?
俺と環が頭にクエスションマークを浮かべる中、小白だけがうんうんと強く頷く。
なんだこの謎空間。

「えー、みけちゃん、あいのことはぁー?遊びで終わらせる気?」
「あいちゃん!」

そんなやり取りの中で、小白と俺の間にあいちゃんが割って入ってきた。

「そんなに大変なら、あいが、みけちゃんの面倒見てあげてもいいのに!うちに逃げてくる?」
「え♡」

昔の勢いで思わず食いついてしまった。
あいちゃんは月収7桁の財力をもって、かつては俺のパトロンをしてくれていた。
あいちゃんが衣食住世話してくれて、あいちゃんが好きな服を着て、あいちゃんが好きな髪型にされて、あいちゃんの求める時にアレやコレやする。
ヒモともペットとも言えるが。
でも良いんだ。幸せな生活だった。
なにより良いのは、あいちゃんは多頭飼いだ。小白みたいにしつこい事もない。
自由があるのに、金の心配もない。あの頃は幸せだった。

「みけちゃんが気になるなら、他の子は全部切ってもいいよ。」
「いやいや!そこは、多頭でいいよ!」
「えー、そう?でもΩはみけちゃんだけだから、特別♡いっぱい、可愛がってあげるよ♡」
「い、いっぱい…カワイガル…」

あいちゃんによしよしと頭を撫でられ、俺はニヤけてしまう。
昔も大体こんなふうに、撫でられキスされ…
あー、やっぱ、どちらかと言うと挿れられるより挿れる方が好きかも。
どっちも好きだけど。

「…っ」

そんな風に呆けていると、ふと視線を感じた。そしてあいちゃんの奥に座る小白を見て俺は息をつめる。
凄い目でこっちをみている。
え?べ、別に…

「ぁー、ちょっと、トイレ!」

結局、その場の空気に耐えれず俺は席を立った。


——
「はぁー。なんだこの世にも奇妙な地獄のキャバクラ…」

俺はトイレに入るなりごちて、顔をバシャバシャと洗った。
あ、タオル忘れた。
いっか。シャツで拭こう。
そう思って顔を上げた時だった。

「…っ、こはっ…っ何⁈」

顔を上げたら小白が背後にいた。
そして俺が小白を認識した瞬間、手を捻り上げられて洗面台に押さえつけらる。

「みけちゃん。浮気はだめでしょ。」
「へ⁈ぁ?………あ!」

もしかして、そういうことか!
変な女=俺の浮気相手
俺が本当に愛する人=小白
小白の頭の中はこうなっているらしい。
自己肯定感に溢れたなんとも都合の良い頭だな。

「みけちゃん…みてちゃんは俺の恋人でしょ。俺の…恋人…俺だけの……、みけちゃんは俺のっ、俺だけのみけちゃん。それなのに…っくそ、だから嫌なんだ、閉じ込めたい…だけど、…っ、でも…あーーーー……閉じ込めたい、全部俺のものにして、分単位で管理して、みけちゃんの性欲も管理して、俺がいない時は、縛って、たくさん気持ちよくなるようにして、帰ってくる俺だけを待つようにして…」
「…」

小白は俺の首筋に鼻を当て、ブツブツと不穏な事を言う。
凄く怖い。え、なにこの人…、頭おかしい。
俺をおかずに、勝手に一人で恐ろしい妄想でおったててる。

「みけちゃん…っみけっ、俺のっ、俺だけのみけちゃんっ、」
「あー……やんの?」

小白は興奮しており、俺の首筋に鼻を当てて俺のズボンのベルトを引き抜く。
俺は素直に小白に従い、小白が脱がせやすいように腰を少し浮かせた。
面倒だけど、ここで小白に付き合って塩らしくしてれば色々有耶無耶に出来そうだし。
俺自身、外でやるのは恥ずかしいとか初心なタイプでもないしな。
キャバのトイレ綺麗だし。

「小白、ぉっと…っ、後が面倒だから、俺にもゴムっ。」
「ふーっ、…っふーっ。」

小白がハァハァ息を乱し、俺の後ろを解かす。
項に小白の興奮した息がかかるのが、微妙にゾクゾクして気分悪い。
というより、なんでこんなに興奮してんのこの人?
他の人αに刺激受けたか?確か、あいちゃんもαだしな。
こういう興奮露わなところ、女の子相手ならいいのに男にされるとなんか嫌だ。
フィジカルで敵わない相手に迫られる恐怖よな。

「あー、もしもし?ない?小白が使う分でラス1?」

無視かよ。
あーぁ、気をつけないと、ズボン汚れたら漏らした人みたくなるじゃん。
大人しく手をつき、小白がガチャガチャとズボンをくつろげる音を聞いてため息をつく。

「そんなのっ、いらないっ」
「は?」

思わず振り返るが、小白からは反応がない。

「ん?ぇ、まじか、ぇ?小白、もしかして、生…っっ!ぁっ、」

生なの?
小白は俺の質問を無視して挿入してきた。
俺はそれだけで軽くイく。
あー、長さヨシッ、太さヨシッ。きもちっ。
じゃ、なくて‼︎

「ちょっ!ぁっ、…っん、俺っ、男だけど、Ωだからっ!」
「だから?」
「だっ…っ、あ、とまっ、ちょっ、きいてってっっ!うっ、」
「ハァッみけちゃんっ、俺だけのっ、俺のなんだっ」
「ぁっ、…っ、くっ、っ!」
「あー、んっ、はぁっ、早くみけちゃんが俺の子を孕めばいいのに。早くっ、出来ろっ、出来ろっんっ、孕め孕め孕め孕め孕め孕め…」
「なっ」

何言ってんの?
小白は呪文の様に孕めと耳元で囁き続けた。
俺にとっては呪詛の言葉だ。
ていうか、小白、まじかこいつ。
今迄小白のヤバさは5段階評価で4位だと思っていたけど、実際はそれ以上だ。

程なくして小白がうっと小さく漏らして、動きを一度止めた。
あぁ、意識したら感じる。
じんわりと、腹の中が温かい。そう言えば、小白は毎回ゴムをつけるそぶりや、使用済みのものを見つけたことはない。

「…小白…」
「…」

俺は青い顔で恐る恐る鏡越しに小白を見る。
小白は相変わらず後ろからがっしりと俺を掴んだまま、鋭い視線を俺に向けた。

「毎回…生で?」
「…」

毎回、中で出してたの?
は?
小白と子どもなんて、絶対に嫌だ。
そもそも、小白がいつか飽きるか改心したら解放されると思っていたのに。
ずっと俺は小白と…?

小白は何も言わなかった。
代わりに不満気に眉を寄せて俺を見つめ返す。

「みけちゃん、帰ったらじーっくりマーキングし直すから。浮気の事も説明してね。」
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