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ぐじゅ、ぐじゅっ、じゅっ
「ハァッハァッハァッっうっ〜っ!」
「手を止めるなよ。俺はお前のイッてる時の中が好きなんだよ。ずっとますかいてろ。」
「うっ…っ、」
俺は首輪に繋がる短いリードに繋がれ、体を立てることも逃げる事も出来ずに崩れかけた四つん這いでひたすらしたくもない自慰を続ける。
その間も、俺の後ろの男、須藤(すどう)は好き勝手に腰を打ち付けてくる。
全身が痺れ、閉じているか空いているかも分からない口からよだれが垂れた。
「ははっ、最高だ…っ、なぁ?…っ」
「っ、〜っ、あっ、はぁっ〜っ!」
「は、い、だろ?」
「っ、はい゛っっ!」
「あはははははは‼︎土岐(とき)は可愛いなぁー!」
須藤は狂った様に笑う。
須藤はαで、俺はΩ。
バースの性的にも、酷く興奮する状況だろう。
しかしこれは行き過ぎだ。
人を繋ぐなんて…。
須藤との行為は毎度毎度暴力的で享楽的で、気が狂いそうになる。
好んでこいつとやりたくはない。
「おら、もっとイケよ。」
「ぅっ、うっ〜っ、うぅ…っ」
イケって…。
もう自分がどんな状態なのか脳が処理できない。
大体俺の恋愛対象は女だ。
「うぁっ、〜っ」
黒目が天を向く。
ヤバい。落ちそうだ。
落ちたらもっと酷い目に遭う。
「おい〜、なに怠けてる。」
「ひっ、やめっ、〜っ」
俺の手が止まるのを目ざとく見つけ、須藤は耳元で脅しをかけてくる。
深くぐりぐりと直腸をえぐり、身悶える俺の前髪を無理矢理引き上げる。
「ぅ゛っ、〜っ、や、やりっやりまずっ〜〜っ!やるっ、からっ…っ!」
俺は気合いで意識を戻し、再び手を動かす。
気持ちいいっ気持ちいいっっ!
いやっ、いきたくないっ
これ以上はっ、辛いっ
頭の中で色々な感情が飛び交うが、頭が回らない。
思考が支離滅裂だ。
「はぁ〜、いいぞ。いい…」
「ゔっ…っ〜〜っ、」
「あー、良い子だ。はぁ、」
「ふっ〜〜っっ」
須藤が上から俺の横顔にキスをして、ガブガブと肩を噛む。
Ωの俺は反射的に項を守ろうと縮こまるが、リードが張り首が締まるだけで逃げ場はない。
ガチャガチャと金属が引き攣るがなり、その音が情けない。
「ぁ゛」
「最高だ…っーっ」
どろりと腹の奥に出された感覚があり、俺は意識を手放した。
——-
次の日コーヒーの香りで目が覚めた。
見ると、サイドテーブルにコーヒーとクロワッサンのっていた。
布団も綺麗に整えられ、俺の体も綺麗になっている。
「…」
スマホを見ると、須藤から連絡が入っていた。
今日の戻りは16時あたりか。
「…マメだな…。」
俺はボヤいてコーヒーを一飲む。
須藤は端正な顔立ちに似合わず、その立場はヤクザの若頭。
そんな男が妙にマメな事をするのが不思議だ。
今の俺は須藤のペット?性奴?娯楽品?そんなとこだろうに。
「いたっ」
身を捻った拍子に、背中に激痛が走る。
触ると背中にガーゼが貼られ貼られていた。
そこで思い出す。
昨日も沢山背中を噛まれた。
「…」
首元にも包帯が巻かれている。
身体中、節々が痛む。
「う゛」
その痛みが引き金だった。
ダメだ。
境界線を超えた。
もう少し、もう少しだけ。と踏ん張ってきたが、もうダメだ。
こんな所には居られない。
もういたくない。
自分を見失なう。
頭がおかしくなる。
それしか考えられなかった。
食欲も一気に消え失せる。
俺はベットから出ると、適当な服を着て須藤のマンションを出た。
そのままふらふらと大通りに出て少し歩くとタクシーを捕まえた。
「はぁっはぁっ…っ、う゛、いって…」
くそ。
歩く振動すら体に響き、痛い。
俺は悪態をつき、路地裏の今となっては珍しい電話ボックスに入った。
そして震える指である番号を押す。
片時もこの番号を忘れなかった。
かけたくて、でもかけることは許されない番号だ。
『はい。』
電話口に、初老の男が出る。
久しぶりに聴いたその声に、俺は安堵し崩れ落ちそうになった。
———
「土岐くんどうしたの?」
電話口の男はすぐに来てくれた。
指定場所の路地裏で蹲る俺に、缶コーヒーを渡してくれた。
「…警視正」
「…」
相手は俺の言葉に息を呑む。
何故なら俺は潜入操作中だからだ。
本当の俺は、警察庁刑事局犯罪組織対策三課に所属する警察官だ。
「すみません…もう…無理です。俺を警察に戻して下さい。」
「土岐くん…」
情けない。
正義の為にここまで頑張ってきたのに、途中で投げ出すなんて。
警視正の顔も直視できず項垂れた。
そんな俺の肩に、警視正の手が置かれる。
「そうか。」
「…すみません…」
「謝らなくていいよ。」
警視正はにっこりと笑った。
「だってそれは無理だからね。」
「…ぇ」
「土岐くん、上手く須藤をたらしかんでいる様じゃないか。」
「…っ」
俺は一瞬でその意味を理解して、赤くなった。
知られたくはなかった。
でも、そこまで知っているならやめさせて欲しい。
「それが、もう限界です。…っ、なぜ、そこまでご存じで…なぜ、ダメなのですか?」
「…」
真っ直ぐに警視正を見据えるが、相手は何も言わない。
「我々は国生会と手を結んだ。」
「…ぇ、な」
国生会は須藤の派閥と対立する組織だ。
いやそれよりも、警察が反社会と手を組む…?
俺は先程よりもさらに混乱した。
「だから、正直、土岐くんはかなり都合がよい。想像以上の働きだ。その調子で、あの須藤を完璧に飼い慣らしてくれ。」
警視正が嫌らしく身体を撫でた。
頭は動かないのに、ゾワリと肌がくりたつ。
「そんなのもう…もう、無理です…」
「無理と言われても、こちらも無理だ。」
縋るように言うもの、ピシャリと跳ね除けられた。
「それに、君はもうやるしかないだろ。君のデータは警視庁から、もっと言えば世の中から完璧に消えている。」
「…」
そうだ。
だから俺は自由に逃げ出せない。
潜入捜査をする際に俺の情報は全て消されている。
「戻してください…。お願いします。俺を、戻して下さい。」
「だから無理だ。」
「警視正…」
「…そうだな。それなら、須藤と番にでもなるといい。そこまで君が須藤を掌握出来たら、君を『保護』する。」
「そんな…」
今迄尊敬していた警視正の冷たい態度に、絶望し膝をついた。
しかも『保護』って…。
どこまでいっても、須藤を良いように扱うための餌として使われるようだ。
「君の役割を忘れるな。」
最後に念を押すかの如く囁き、警視正はその場を去っていった。
今まで信じていたものが全て嘘だったようだ。
俺は動くこともできず、その場で項垂れた。
—————-
「土岐ぃ、随分帰りが遅いな…。」
「ぁ」
『ごめんなさい。須藤さんに早く会いたかったです。』
『須藤さんの酒の氷買いに行ってました。喜んでもらえると思って。』
『須藤さんに迎えてもらえるの、嬉しいです。』
今までの習性で、須藤が喜ぶセリフが頭の中を駆け巡る。
「いえ…別に…」
「…」
しかしそれらが口から出なかった。
曖昧な返事の俺に、須藤が僅かにピクリと眉を上げる。
「…飯。食べるぞ。」
『用意してくれたんですか⁈嬉しい』
頭に媚びるセリフが浮かぶのが馬鹿馬鹿しい。
俺は心ここに在らずで、ふらふらと部屋に入った。
夕食中、夕食後、風呂に入った後、俺はずっと須藤に適当な返事をしてしまった。
任務を全うしないと。
しかし、全うしてなんになる?
辛い。
でも、俺の犠牲で正義が守られるならば。
正義?
私腹を肥やす奴らのどこに正義がある?
あぁ、でも。
俺だけでも正義を、
正義?正義、正義正義正義正義…
正義、なのか?
いや、何も考えるな。
考えずにやるんだ。
それは、ただの思考停止ではないか?
ぐるぐると思考が行ったり来たりとする。
そんな時だった。
「土岐」
ぼんやりとソファに座る俺に、須藤が腕を絡めてきた。
俺は反射的にその手を払ってしまった。
流石にこれはまずい。
「ぁ、…っ、す、須藤さん」
「…ふっ、なんだ?」
しかし俺の予想に反して、須藤は笑っていた。
この上なく上機嫌な様子は逆に不気味で、俺はさらに混乱する。
「どうしんたんだ?」
「…ぁ」
笑顔の須藤が迫ってくる。
…怖…
「言ってみろよ。」
「っ」
遂には戸惑う俺をソファに押し倒して、須藤は俺の顔を覗き込んでいた。
半円を描く唇が、三日月の目が、恐怖だ。
「ほら、」
須藤は俺の顎をすくう。
「なんだ?」
あぁ、違うか。
怒っているとか、そうじゃない。
須藤にとって俺は家畜みたいなものだ。
主人に手をあげて戸惑う様を、愉しんでいるんだ。
こいつはこうやって人の恐怖や焦りを愉しむんだ。
そう理解すると、唐突に心が冷めて怒りが湧いてくる。
こんな須藤にも、家畜同然と思われている自分にも。
「土岐?」
「…退けてください。嫌です。」
また須藤はピタリと止まるが、先ほどと違い今度は能面の様な無表情だった。
パンッ
「っ!」
その後は頬が焼ける様に熱くなる。
いや、違う。殴られた。
頬を平手打ちされた。
頭の回転には自信があったのに、感情が揺さぶれ過ぎて情報を処理できない。
ただほほが焼け付くように熱かった。
「とーきぃー」
「…ぃっ‼︎」
俺の呻き声を無視して、須藤は強引に俺を引き上げた。
「はぁーっ。間違えんなよ。」
「…っ、」
須藤は俺をベットの上へ放り投げた。
衝撃で息が詰まる。
「心ここに在らずな返事も、ぶっきらぼうな態度も、子生意気な反応もいいさ」
「なにを…ゔっ」
身の危険を感じで起きあがろうとした俺の腹の上に須藤が足を置く。
内臓が圧迫され、俺はうめいた。
「可愛いいからな。」
「やっ、やめ…っ」
何をするつもりだ?
冷や汗がこめかみを伝い、俺は本気の抵抗に出る。
しかし体勢的に須藤が圧倒的に有利だ。
片足と片手であっさりと去なされる。
須藤は手際よく、俺の首輪にリードを繋ぐ。
「潜入捜査だなんだって、俺をチョロチョロ嗅ぎ回るのもな。」
「!」
俺は自分のリードを掴み、一瞬ピクリと反応してしまった。
「全部可愛いいよ。だけど俺を拒否するのは許さねぇ」
須藤が唸る。
誤魔化しはもう効かないだろう。
こんな馬鹿な格好で殺されるのなんてたまったもんじゃない。
「…須藤……」
いつもの媚を売った感じから打って変わり、俺は須藤を睨む。
須藤は意外そうな顔をしたが、次の瞬間には俺を上から見下ろしニッと笑った。
「ふっ、はははは!これは、思わぬ収穫だ!やっと俺にも本性を表したな!」
「…」
高笑いの須藤を睨みながらも、俺は次にどうするかを必死で考えた。
逃げなければ、このままここで殺される。
警察だとバレているから、最悪機密情報を漏せと要求されるかもしれない。
「ふっ、っ!」
「っと、」
体を捻り俺の上の須藤がバランスを崩すや否や、足を振り上げた。
しかしその足を難なく掴まれる。
「はははははっ!」
「ぁ゛っっ‼︎」
そして足首を捻り上げられ、身体を横向きに折り曲げられる。
足の筋が無理に捻って曲げられ、俺は息を詰めた。
「今日はこうやって、横からハメて欲しいってか?」
「っ」
須藤はこの上なく楽しそうだ。
俺の耳元でいやらしく囁き、動けない俺の身体に手を這わす。
言葉と一緒にぐりっと押し付けられた奴のものはすでに臨戦体制だった。
こんなっ、状況でよくやる気になるな
さすが、腐った性根の気狂いだ
あぁ、くそ。
死ぬ間際まで、俺は弄ばれるのか。
「やめろ!死ねっ」
「はははは!さっきまでの死人みたいなツラはどうした?」
「正体が分かったなら、さっさと殺せ!俺は最初からお前となんてやりたくなかったんだ!」
「そうかそうか、あはははは!そうだな!愉快だったよ!本心では嫌悪する俺に必死に媚を売って抱かれるお前は。」
「黙れっ!」
須藤は嫌がる俺の顔を掴み、正面を向かせた。
目が爛々と輝いている。
「なぁ、嫌いなやつに自分から足を開いて、どんな気分だった?」
「…五月蝿い…」
須藤は片手で俺を押さえ込み、もう片方の手で俺の身体をまさぐる。
「いっぱいやってやっだろ?」
「さ、触るなっ!」
グニグニと、尻を揉まれる。
「あははは!これじゃあ、凌辱じゃないか…さぁ、どんな気分だ?」
「やめろ!」
須藤の目がニッと不気味に三日月を描き、遂に俺の服に手をかける。
「離せっ!」
がむしゃらに暴れて、リードがピンと貼る。
俺の手が空を切っている間に、須藤は強引に俺の服を剥ぎ取った。
ビリッやら、バリッやら、服が裂ける音が聞こえるがそれどころではない。
「五月蝿いのはそっちだろ」
「うっ」
おざなりに粘着質なものが振りかけて解かされ、ずっと質量があるものが押し込まれる。
「ぅ゛ぁっっぁっあ゛」
「はははははは!土岐ぃ、やっぱりお前の方が五月蝿いな!あっはははははは!」
「うっ、やめろ…ぁっ」
こんな状況なのに!
馴染んだ須藤のものは、相変わらずの快楽を与えてくる。
身体から熱が這い上がってきて身悶える。
「はぁっ、変態はどっちだ。こんな状況でもぎゅうぎゅうに締め付けて。」
「うっ、うぅ…」
「ははは、今度は顔が真っ赤で悩ましげだな⁈あぁ⁈今日は情緒不安定か⁈」
「もう…ぁっ、やめてくれ…っふっ、」
「上司に直談判でもして突っぱねられたのか?」
「っ」
「はははは!今繋がってんだぞ!そんな締め付けたら、分かりやす過ぎるだろ!」
「……っ須藤っ、テメェ…!」
「はは、それか、番になれとでも言われたか?」
「…っ」
「おら、答えろよ!」
「お前となんてっ、死んでもならねぇっ!ぁ゛っ!」
「だから、俺を拒否するのは許さねえっつってるだろ。」
仕置きというように、ガツンと強く打ち付けられた。
「ほら、また媚びてみろよ。俺の楽しませ方は心得ているだろ?」
「…やらねぇ…ぅっ、ぁっ」
「はぁ〜、喘ぎながら、逞しいなっ、」
「ふっ、…っ、んっ、とまれっ…っ」
ジタバタと暴れるが、足を絡め取られ逆に逃げ道を塞がれる。
「…っ」
そうこうしていると、俺の膝が須藤の脇腹に当たる。
須藤の眉がより、不快げに俺を見下ろした。
「手間がかかる奴だよ」
「なっ⁈」
須藤はどこからか注射器を取り出し、迷うことなくそれを俺の首に刺した。
俺はびくりと身をすくめ、動きを止めた。
「ほら、媚びろ」
「…殺すなら殺せ…」
「はははははは、殺すわけないだろ。」
「…んっぁ…っ」
須藤は嫌味に笑って腰を揺すった。
「Ωが、簡単に死ねると思うなよ」
「…ぁっ、とまっ…っ」
「意識がなくなっても犯して犯して犯しまくってやる。お前が許してくださいと泣いて縋って、ぐちゃぐちゃになるまでな。最後はお前から進んで、ペラペラとそちら側の秘密を話したがるだろうよ。廃人になっても、死ぬまで可愛がってやる。」
正直、脅しとして効果はてきめんだった。
そんなの嫌過ぎる。
しかし今の状況では、そうなる未来がありありと想像できる。
「その薬…」
たずねるも、須藤は口の端を上げただけだった。
やはり、自白剤的なものか?
もっとやばいものかも。
確かに、ここで意地を張っても分が悪い。
「…す、須藤さん…もっと…ぁ、俺の中、須藤さんの形になるまで…っ、く、くだっ、さい…。」
「ぶっ、あっはははははは!もう入ってるつの!どうしたよ?急にポンコツになったな、土岐ぃ⁈」
くそっ、腹立つ。
嫌々言ったが、須藤は爆笑するだけだ。
笑われると羞恥心が増す。
俺は口をへの字に曲げて顔を赤くした。
「あー、もう終わりか?」
「…」
俺は赤い顔のまま唇を噛んだ。
何を言えば良いんだ。
「ふふ…そんなに唇を噛むなよ。」
須藤が注射針を俺の首筋から抜き、空いた手で唇を触ってきた。
「ほら、またアザになるぞ。」
愛おしげに話しかけ、キスを落としてきた。
今…これが、最後のチャンスだ。
俺は須藤に隠れて注射器に手を伸ばす。
「須藤さん…焦らさないで下さい…須藤さんが欲しいです。」
「土岐…お前は本当に楽しませてくれるな…」
須藤は再びキスをする。
俺は手探りで注射器を探す。
須藤のキスも深くなる。
「んっ」
その時、コツンッと指先に硬いものがあたった。
注射器だ!
「本当、可愛い奴だ」
「!」
しかし次の瞬間、その注射器は再び須藤の手の中にあった。
「でも躾は必要そうだ。」
プツッ
「あっ‼︎」
撃たれる感覚と同時に、身体中の熱がカッと上がった。
血流が異常によくなるのを感じ、血管が破裂しそうだ。
俺はそこで意識を手放した。
「ハァッハァッハァッっうっ〜っ!」
「手を止めるなよ。俺はお前のイッてる時の中が好きなんだよ。ずっとますかいてろ。」
「うっ…っ、」
俺は首輪に繋がる短いリードに繋がれ、体を立てることも逃げる事も出来ずに崩れかけた四つん這いでひたすらしたくもない自慰を続ける。
その間も、俺の後ろの男、須藤(すどう)は好き勝手に腰を打ち付けてくる。
全身が痺れ、閉じているか空いているかも分からない口からよだれが垂れた。
「ははっ、最高だ…っ、なぁ?…っ」
「っ、〜っ、あっ、はぁっ〜っ!」
「は、い、だろ?」
「っ、はい゛っっ!」
「あはははははは‼︎土岐(とき)は可愛いなぁー!」
須藤は狂った様に笑う。
須藤はαで、俺はΩ。
バースの性的にも、酷く興奮する状況だろう。
しかしこれは行き過ぎだ。
人を繋ぐなんて…。
須藤との行為は毎度毎度暴力的で享楽的で、気が狂いそうになる。
好んでこいつとやりたくはない。
「おら、もっとイケよ。」
「ぅっ、うっ〜っ、うぅ…っ」
イケって…。
もう自分がどんな状態なのか脳が処理できない。
大体俺の恋愛対象は女だ。
「うぁっ、〜っ」
黒目が天を向く。
ヤバい。落ちそうだ。
落ちたらもっと酷い目に遭う。
「おい〜、なに怠けてる。」
「ひっ、やめっ、〜っ」
俺の手が止まるのを目ざとく見つけ、須藤は耳元で脅しをかけてくる。
深くぐりぐりと直腸をえぐり、身悶える俺の前髪を無理矢理引き上げる。
「ぅ゛っ、〜っ、や、やりっやりまずっ〜〜っ!やるっ、からっ…っ!」
俺は気合いで意識を戻し、再び手を動かす。
気持ちいいっ気持ちいいっっ!
いやっ、いきたくないっ
これ以上はっ、辛いっ
頭の中で色々な感情が飛び交うが、頭が回らない。
思考が支離滅裂だ。
「はぁ〜、いいぞ。いい…」
「ゔっ…っ〜〜っ、」
「あー、良い子だ。はぁ、」
「ふっ〜〜っっ」
須藤が上から俺の横顔にキスをして、ガブガブと肩を噛む。
Ωの俺は反射的に項を守ろうと縮こまるが、リードが張り首が締まるだけで逃げ場はない。
ガチャガチャと金属が引き攣るがなり、その音が情けない。
「ぁ゛」
「最高だ…っーっ」
どろりと腹の奥に出された感覚があり、俺は意識を手放した。
——-
次の日コーヒーの香りで目が覚めた。
見ると、サイドテーブルにコーヒーとクロワッサンのっていた。
布団も綺麗に整えられ、俺の体も綺麗になっている。
「…」
スマホを見ると、須藤から連絡が入っていた。
今日の戻りは16時あたりか。
「…マメだな…。」
俺はボヤいてコーヒーを一飲む。
須藤は端正な顔立ちに似合わず、その立場はヤクザの若頭。
そんな男が妙にマメな事をするのが不思議だ。
今の俺は須藤のペット?性奴?娯楽品?そんなとこだろうに。
「いたっ」
身を捻った拍子に、背中に激痛が走る。
触ると背中にガーゼが貼られ貼られていた。
そこで思い出す。
昨日も沢山背中を噛まれた。
「…」
首元にも包帯が巻かれている。
身体中、節々が痛む。
「う゛」
その痛みが引き金だった。
ダメだ。
境界線を超えた。
もう少し、もう少しだけ。と踏ん張ってきたが、もうダメだ。
こんな所には居られない。
もういたくない。
自分を見失なう。
頭がおかしくなる。
それしか考えられなかった。
食欲も一気に消え失せる。
俺はベットから出ると、適当な服を着て須藤のマンションを出た。
そのままふらふらと大通りに出て少し歩くとタクシーを捕まえた。
「はぁっはぁっ…っ、う゛、いって…」
くそ。
歩く振動すら体に響き、痛い。
俺は悪態をつき、路地裏の今となっては珍しい電話ボックスに入った。
そして震える指である番号を押す。
片時もこの番号を忘れなかった。
かけたくて、でもかけることは許されない番号だ。
『はい。』
電話口に、初老の男が出る。
久しぶりに聴いたその声に、俺は安堵し崩れ落ちそうになった。
———
「土岐くんどうしたの?」
電話口の男はすぐに来てくれた。
指定場所の路地裏で蹲る俺に、缶コーヒーを渡してくれた。
「…警視正」
「…」
相手は俺の言葉に息を呑む。
何故なら俺は潜入操作中だからだ。
本当の俺は、警察庁刑事局犯罪組織対策三課に所属する警察官だ。
「すみません…もう…無理です。俺を警察に戻して下さい。」
「土岐くん…」
情けない。
正義の為にここまで頑張ってきたのに、途中で投げ出すなんて。
警視正の顔も直視できず項垂れた。
そんな俺の肩に、警視正の手が置かれる。
「そうか。」
「…すみません…」
「謝らなくていいよ。」
警視正はにっこりと笑った。
「だってそれは無理だからね。」
「…ぇ」
「土岐くん、上手く須藤をたらしかんでいる様じゃないか。」
「…っ」
俺は一瞬でその意味を理解して、赤くなった。
知られたくはなかった。
でも、そこまで知っているならやめさせて欲しい。
「それが、もう限界です。…っ、なぜ、そこまでご存じで…なぜ、ダメなのですか?」
「…」
真っ直ぐに警視正を見据えるが、相手は何も言わない。
「我々は国生会と手を結んだ。」
「…ぇ、な」
国生会は須藤の派閥と対立する組織だ。
いやそれよりも、警察が反社会と手を組む…?
俺は先程よりもさらに混乱した。
「だから、正直、土岐くんはかなり都合がよい。想像以上の働きだ。その調子で、あの須藤を完璧に飼い慣らしてくれ。」
警視正が嫌らしく身体を撫でた。
頭は動かないのに、ゾワリと肌がくりたつ。
「そんなのもう…もう、無理です…」
「無理と言われても、こちらも無理だ。」
縋るように言うもの、ピシャリと跳ね除けられた。
「それに、君はもうやるしかないだろ。君のデータは警視庁から、もっと言えば世の中から完璧に消えている。」
「…」
そうだ。
だから俺は自由に逃げ出せない。
潜入捜査をする際に俺の情報は全て消されている。
「戻してください…。お願いします。俺を、戻して下さい。」
「だから無理だ。」
「警視正…」
「…そうだな。それなら、須藤と番にでもなるといい。そこまで君が須藤を掌握出来たら、君を『保護』する。」
「そんな…」
今迄尊敬していた警視正の冷たい態度に、絶望し膝をついた。
しかも『保護』って…。
どこまでいっても、須藤を良いように扱うための餌として使われるようだ。
「君の役割を忘れるな。」
最後に念を押すかの如く囁き、警視正はその場を去っていった。
今まで信じていたものが全て嘘だったようだ。
俺は動くこともできず、その場で項垂れた。
—————-
「土岐ぃ、随分帰りが遅いな…。」
「ぁ」
『ごめんなさい。須藤さんに早く会いたかったです。』
『須藤さんの酒の氷買いに行ってました。喜んでもらえると思って。』
『須藤さんに迎えてもらえるの、嬉しいです。』
今までの習性で、須藤が喜ぶセリフが頭の中を駆け巡る。
「いえ…別に…」
「…」
しかしそれらが口から出なかった。
曖昧な返事の俺に、須藤が僅かにピクリと眉を上げる。
「…飯。食べるぞ。」
『用意してくれたんですか⁈嬉しい』
頭に媚びるセリフが浮かぶのが馬鹿馬鹿しい。
俺は心ここに在らずで、ふらふらと部屋に入った。
夕食中、夕食後、風呂に入った後、俺はずっと須藤に適当な返事をしてしまった。
任務を全うしないと。
しかし、全うしてなんになる?
辛い。
でも、俺の犠牲で正義が守られるならば。
正義?
私腹を肥やす奴らのどこに正義がある?
あぁ、でも。
俺だけでも正義を、
正義?正義、正義正義正義正義…
正義、なのか?
いや、何も考えるな。
考えずにやるんだ。
それは、ただの思考停止ではないか?
ぐるぐると思考が行ったり来たりとする。
そんな時だった。
「土岐」
ぼんやりとソファに座る俺に、須藤が腕を絡めてきた。
俺は反射的にその手を払ってしまった。
流石にこれはまずい。
「ぁ、…っ、す、須藤さん」
「…ふっ、なんだ?」
しかし俺の予想に反して、須藤は笑っていた。
この上なく上機嫌な様子は逆に不気味で、俺はさらに混乱する。
「どうしんたんだ?」
「…ぁ」
笑顔の須藤が迫ってくる。
…怖…
「言ってみろよ。」
「っ」
遂には戸惑う俺をソファに押し倒して、須藤は俺の顔を覗き込んでいた。
半円を描く唇が、三日月の目が、恐怖だ。
「ほら、」
須藤は俺の顎をすくう。
「なんだ?」
あぁ、違うか。
怒っているとか、そうじゃない。
須藤にとって俺は家畜みたいなものだ。
主人に手をあげて戸惑う様を、愉しんでいるんだ。
こいつはこうやって人の恐怖や焦りを愉しむんだ。
そう理解すると、唐突に心が冷めて怒りが湧いてくる。
こんな須藤にも、家畜同然と思われている自分にも。
「土岐?」
「…退けてください。嫌です。」
また須藤はピタリと止まるが、先ほどと違い今度は能面の様な無表情だった。
パンッ
「っ!」
その後は頬が焼ける様に熱くなる。
いや、違う。殴られた。
頬を平手打ちされた。
頭の回転には自信があったのに、感情が揺さぶれ過ぎて情報を処理できない。
ただほほが焼け付くように熱かった。
「とーきぃー」
「…ぃっ‼︎」
俺の呻き声を無視して、須藤は強引に俺を引き上げた。
「はぁーっ。間違えんなよ。」
「…っ、」
須藤は俺をベットの上へ放り投げた。
衝撃で息が詰まる。
「心ここに在らずな返事も、ぶっきらぼうな態度も、子生意気な反応もいいさ」
「なにを…ゔっ」
身の危険を感じで起きあがろうとした俺の腹の上に須藤が足を置く。
内臓が圧迫され、俺はうめいた。
「可愛いいからな。」
「やっ、やめ…っ」
何をするつもりだ?
冷や汗がこめかみを伝い、俺は本気の抵抗に出る。
しかし体勢的に須藤が圧倒的に有利だ。
片足と片手であっさりと去なされる。
須藤は手際よく、俺の首輪にリードを繋ぐ。
「潜入捜査だなんだって、俺をチョロチョロ嗅ぎ回るのもな。」
「!」
俺は自分のリードを掴み、一瞬ピクリと反応してしまった。
「全部可愛いいよ。だけど俺を拒否するのは許さねぇ」
須藤が唸る。
誤魔化しはもう効かないだろう。
こんな馬鹿な格好で殺されるのなんてたまったもんじゃない。
「…須藤……」
いつもの媚を売った感じから打って変わり、俺は須藤を睨む。
須藤は意外そうな顔をしたが、次の瞬間には俺を上から見下ろしニッと笑った。
「ふっ、はははは!これは、思わぬ収穫だ!やっと俺にも本性を表したな!」
「…」
高笑いの須藤を睨みながらも、俺は次にどうするかを必死で考えた。
逃げなければ、このままここで殺される。
警察だとバレているから、最悪機密情報を漏せと要求されるかもしれない。
「ふっ、っ!」
「っと、」
体を捻り俺の上の須藤がバランスを崩すや否や、足を振り上げた。
しかしその足を難なく掴まれる。
「はははははっ!」
「ぁ゛っっ‼︎」
そして足首を捻り上げられ、身体を横向きに折り曲げられる。
足の筋が無理に捻って曲げられ、俺は息を詰めた。
「今日はこうやって、横からハメて欲しいってか?」
「っ」
須藤はこの上なく楽しそうだ。
俺の耳元でいやらしく囁き、動けない俺の身体に手を這わす。
言葉と一緒にぐりっと押し付けられた奴のものはすでに臨戦体制だった。
こんなっ、状況でよくやる気になるな
さすが、腐った性根の気狂いだ
あぁ、くそ。
死ぬ間際まで、俺は弄ばれるのか。
「やめろ!死ねっ」
「はははは!さっきまでの死人みたいなツラはどうした?」
「正体が分かったなら、さっさと殺せ!俺は最初からお前となんてやりたくなかったんだ!」
「そうかそうか、あはははは!そうだな!愉快だったよ!本心では嫌悪する俺に必死に媚を売って抱かれるお前は。」
「黙れっ!」
須藤は嫌がる俺の顔を掴み、正面を向かせた。
目が爛々と輝いている。
「なぁ、嫌いなやつに自分から足を開いて、どんな気分だった?」
「…五月蝿い…」
須藤は片手で俺を押さえ込み、もう片方の手で俺の身体をまさぐる。
「いっぱいやってやっだろ?」
「さ、触るなっ!」
グニグニと、尻を揉まれる。
「あははは!これじゃあ、凌辱じゃないか…さぁ、どんな気分だ?」
「やめろ!」
須藤の目がニッと不気味に三日月を描き、遂に俺の服に手をかける。
「離せっ!」
がむしゃらに暴れて、リードがピンと貼る。
俺の手が空を切っている間に、須藤は強引に俺の服を剥ぎ取った。
ビリッやら、バリッやら、服が裂ける音が聞こえるがそれどころではない。
「五月蝿いのはそっちだろ」
「うっ」
おざなりに粘着質なものが振りかけて解かされ、ずっと質量があるものが押し込まれる。
「ぅ゛ぁっっぁっあ゛」
「はははははは!土岐ぃ、やっぱりお前の方が五月蝿いな!あっはははははは!」
「うっ、やめろ…ぁっ」
こんな状況なのに!
馴染んだ須藤のものは、相変わらずの快楽を与えてくる。
身体から熱が這い上がってきて身悶える。
「はぁっ、変態はどっちだ。こんな状況でもぎゅうぎゅうに締め付けて。」
「うっ、うぅ…」
「ははは、今度は顔が真っ赤で悩ましげだな⁈あぁ⁈今日は情緒不安定か⁈」
「もう…ぁっ、やめてくれ…っふっ、」
「上司に直談判でもして突っぱねられたのか?」
「っ」
「はははは!今繋がってんだぞ!そんな締め付けたら、分かりやす過ぎるだろ!」
「……っ須藤っ、テメェ…!」
「はは、それか、番になれとでも言われたか?」
「…っ」
「おら、答えろよ!」
「お前となんてっ、死んでもならねぇっ!ぁ゛っ!」
「だから、俺を拒否するのは許さねえっつってるだろ。」
仕置きというように、ガツンと強く打ち付けられた。
「ほら、また媚びてみろよ。俺の楽しませ方は心得ているだろ?」
「…やらねぇ…ぅっ、ぁっ」
「はぁ〜、喘ぎながら、逞しいなっ、」
「ふっ、…っ、んっ、とまれっ…っ」
ジタバタと暴れるが、足を絡め取られ逆に逃げ道を塞がれる。
「…っ」
そうこうしていると、俺の膝が須藤の脇腹に当たる。
須藤の眉がより、不快げに俺を見下ろした。
「手間がかかる奴だよ」
「なっ⁈」
須藤はどこからか注射器を取り出し、迷うことなくそれを俺の首に刺した。
俺はびくりと身をすくめ、動きを止めた。
「ほら、媚びろ」
「…殺すなら殺せ…」
「はははははは、殺すわけないだろ。」
「…んっぁ…っ」
須藤は嫌味に笑って腰を揺すった。
「Ωが、簡単に死ねると思うなよ」
「…ぁっ、とまっ…っ」
「意識がなくなっても犯して犯して犯しまくってやる。お前が許してくださいと泣いて縋って、ぐちゃぐちゃになるまでな。最後はお前から進んで、ペラペラとそちら側の秘密を話したがるだろうよ。廃人になっても、死ぬまで可愛がってやる。」
正直、脅しとして効果はてきめんだった。
そんなの嫌過ぎる。
しかし今の状況では、そうなる未来がありありと想像できる。
「その薬…」
たずねるも、須藤は口の端を上げただけだった。
やはり、自白剤的なものか?
もっとやばいものかも。
確かに、ここで意地を張っても分が悪い。
「…す、須藤さん…もっと…ぁ、俺の中、須藤さんの形になるまで…っ、く、くだっ、さい…。」
「ぶっ、あっはははははは!もう入ってるつの!どうしたよ?急にポンコツになったな、土岐ぃ⁈」
くそっ、腹立つ。
嫌々言ったが、須藤は爆笑するだけだ。
笑われると羞恥心が増す。
俺は口をへの字に曲げて顔を赤くした。
「あー、もう終わりか?」
「…」
俺は赤い顔のまま唇を噛んだ。
何を言えば良いんだ。
「ふふ…そんなに唇を噛むなよ。」
須藤が注射針を俺の首筋から抜き、空いた手で唇を触ってきた。
「ほら、またアザになるぞ。」
愛おしげに話しかけ、キスを落としてきた。
今…これが、最後のチャンスだ。
俺は須藤に隠れて注射器に手を伸ばす。
「須藤さん…焦らさないで下さい…須藤さんが欲しいです。」
「土岐…お前は本当に楽しませてくれるな…」
須藤は再びキスをする。
俺は手探りで注射器を探す。
須藤のキスも深くなる。
「んっ」
その時、コツンッと指先に硬いものがあたった。
注射器だ!
「本当、可愛い奴だ」
「!」
しかし次の瞬間、その注射器は再び須藤の手の中にあった。
「でも躾は必要そうだ。」
プツッ
「あっ‼︎」
撃たれる感覚と同時に、身体中の熱がカッと上がった。
血流が異常によくなるのを感じ、血管が破裂しそうだ。
俺はそこで意識を手放した。