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後田はいつもニコニコしている。
ニコニコって、擬音が聞こえてきそうな位だ。
そんな風にニコニコして人の輪の中心にいる。
その一方で、誰にも心を開かずに、全てにおいて一線を引いている。…気がする。
親しげに話してきて『いい奴だな』って思わせる。
その一方で、ふとした時の冷たい目に『石ころを見るみたいにこちらを見る』って不安にさせる。
そういう事を会社の友達に話したら、「何言ってんだ。後田が人気で仕事もできるから妬いてるのか?」と笑われた。

そう言うやつだ。

「へ〜。後田の家、こんな感じかぁ。」
「あはは、あんまりジロジロ見るなよ。」

そんな後田の家で仕事でのプレゼン練習することになって、俺は少しだけワクワクしていた。

「…てか、なんで…シューズボックスに鍵ついてるの?」

はい、早速見つけちゃったよ。
後田の家の玄関のシューズボックス。
南京城ついてんだけど。

「なんでってそりゃ、鍵をつけてれば、靴を勝手に出せないでしょ。」
「え?…ぁ、あー、後田いつも高そうな靴履いてるもんな。」
「あはは」

最初から違和感のある家だ。
探りをもっと入れたい。
しかし後田はいつもの調子だ。
ペラペラ、ニコニコ。
いつものパターンだ。
後田と話していると、その瞬間が楽しくて、結局全てがどうでも良くなってくる。
不思議な奴。

「お勧めの靴とかある?」
「やー。俺、浮気症で色々履くからなぁ。てか、なんか飲む?麦茶かコーヒーか、ビール。」
「プレゼンの練習に、ビールぶっこむなよ。…ビールで。」
「あはは。飲むじゃん。」

後田は笑顔でキッチンの冷蔵庫を開ける。
1人用には大きな冷蔵庫だな。
ていうか、部屋自体も広いし部屋数も多そう。
リビングとは別に、奥には部屋があと2つ位はあった気がする。

「しかしこんないい部屋に住んで、女もその浮気症で色々遊んでいるの?」

俺はニタリと笑って後田に話を振った。

「いや。俺、恋人には一途だよ。」
「へー」

意外だ。
後田は飲み物を取り出す手を止め、こちらを真っ直ぐに見据えてくる。何処か雰囲気に緊張感が漂い、真剣味がある。
本当にそうなんだろう。

「じゃ、付き合ってる子がいるのか。」
「いるよ。」
「え⁈本当?あぁ、そっか…その彼女と同棲してるからマンション広いのか!そうだろ!」

なるほどなるほど!
これは思わぬ収穫だ。
後で皆に教えてやろう!

「ふふ、同棲ね……まぁ…そんなところ。」
「今彼女外出てるの?どんな子?会いたい‼︎」
「あはは、興味津々かよ。それならそっちも教えてよ。どうなの最近?」
「やーなんもないない。仕事忙しいし…。」
「だよなー。仕事の量と働き手のバランスおかしいんだよな。」
「それな。」

あ、話をそらされた?

「転職する奴も結構いるよなー。」
「ていうか、山田さんも辞めたしな。後田、嬉しかっただろ?」
「え?」

山田さんとは後田の先輩だ。
後輩には冷たく、上司にはおべっか。そういういけ好かない奴だ。
後田にも結構強めに当たっていたから、きっと清々しているだろう。
しかし俺の問いかけに、後田はきょとんとしていた。

「あははは!お前、山田先輩嫌いなの?俺は割と好きだったよ!」
「えーっ!なんで?」
「んー、地雷原をノーガードで走る感じっていうか…?」
「なんだそりゃ。」

後田は何かを思い出すようにニヤニヤ笑っていた。
山田さんはどちらかと言うと要領が良くて、失敗しろっ!って思われていても、毎度上手くやるタイプだったけどな…。

「山田先輩、今は恋人と楽しくやっているみたいだよ。」
「え!なに⁈連絡とってんの?」
「うん。山田先輩の恋人と。」
「へ?恋人って…さやかさんだろ?」
「違うよ。新しい人が出来たんだって。」
「??」

何だ何だ?
意味が分からない。
しかし、結局山田さんは楽しくやっているようだ。
ちぇっ。
また上手くやっているんだな。
つまんない。

「はぁー、俺は山田さん嫌いだし、やめて嬉しかった。でも結局楽しくやっているんだな。なんだか残念。」
「楽しく…ね。」

含みのある言い方だ。
まー、嫌いな人の話はやめよう。

「兎に角、プレゼンの準備しようぜ。」
「そうだな。」

———-
そうやって、小一時間経った頃だった。

「なんか…しょっぱい物食べたいな。」
「俺は甘いものがいい。」
「よし、買ってくる。」
「まじで?行ってくれんの?」
「そのかわり、このスライド完成さててな!」
「えー」

後田が食べ物が欲しいと言い出して、買い出しに出てしまった。
シンッと部屋が静まり返る。
靴箱に南京城かける男が、不用心だな。

…コンッ

「…」

コンッ…コンッコンッ

「?」

なんか、音がする?
俺はパソコンから顔を上げてあたりを見渡した。
見える範囲に人はいないが、人の気配がする。

「隣の部屋?」

確か、この部屋の隣も部屋があった。

「もしかして、やっぱり彼女がいるのか?」

俺はニヤリと笑って席を立った。
廊下に出て、右手の部屋。
丁度さっきいたリビングの隣の部屋に向かう。

「…」

しかし一瞬、胸騒ぎがする。
俺はドアノブに手を伸ばしかけたところで固まった。
昔から勘だけは妙にいいと自負している。
何か…見てはいけないものがこの部屋にあるような…

「て、んなわけー」
「何してんの?」
「うぉっ‼︎」

気がつけば玄関が開いており、後田がコンビニ袋を片手に帰宅していた。

「びっくりしたー」
「…その部屋、どうかした?」

後田はクスクスと笑って首を傾げた。
また、あの感覚だ。
おどけているのに、後田のまとう空気感が違う。

「いやー、なんか部屋から音がきた気がして。」
「え?マジで?」
「この部屋に彼女とかいるのか?」
「さぁ?」
「さぁって…」
「見てみれば?」
「…」

気になる言い方だな。
しかし家主がいいと言うならいいだろう。
俺はその部屋のドアを開けた。

「…っ!」

そして絶句した。

「………、クローゼットにも鍵かけてんだな…」
「あははは!」
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