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深夜の会議室に、黒崎と本田の荒い息が響いた。黒崎は後ろから本田を壁に押しつけて、烈々と動く。
もうやめて欲しいが、そうと言えるはずもない。

「…っ…はっ、」

黒崎が動きを止め、後ろで息を詰まらせる気配がする。
その後、黒崎は満足気な息を吐くと肩に顎を乗せてきて、うなだれていた本田の顎を掴み上げるとその耳朶に口を寄せたる。

「で、どうだった?本田?」
「…っ」

小馬鹿にした様に囁く。
胸が喘ぎ、立っているのが辛い。
汗がこめかみを伝う。
なんで…こんな事に…。悪夢だ。
朦朧とする頭で、本田は記憶を辿った。


————
普通がいい。
この拘りが形成され始めたのは、小学生の時。
本田の家はボロいアパートだった。
家に着くと、慣れた調子でポケットから出した鍵でアパートに入る。

「ただいまー」

10月の夕暮れ、自分の声が響く室内。声に返事はなかった。
見渡すとテーブルにはコンビニのおにぎりが置かれていた。
とぼとぼとテーブルに近づき、椅子によじ登ると、置かれたおにぎりに手を伸ばしてかぶりついた。

「…」

音がない。
ふとそんな事を考え、テーブルの上にあるリモコンのボタンを押す。
ドラマのワンシーン、テレビに暖かい家庭の一家団欒映し出される。
暖かそうな家族の集いを、隙間風もある寒い室内でじっと見入ってしまう。

「…ふんっ」

本田は鼻を鳴らしてチャンネルを変えた。
これが子供時代の思い出。
《普通》
それを嫌がる奴もいるが、本田には欲しくて欲しくて堪らないものだった。
大人になったら、それなりの会社へ勤めて《普通》に稼いで、《普通》に結婚して、《普通》に子供を作って、《普通》に暖かい家で一家団欒する。
なんの心配もせずに、ただただぬくぬくとした心地よさを甘受する。
それが欲しい。そう強く思った。

———
「…というコンセプトです。」
「…。」

話終わると、こちらに集まっていた視線がプレゼント相手の上司、黒崎に向く。しかし黒崎は自分のノートパソコンに目を落としたまま、何も言わなかった。
会議室に気まずい沈黙が流れる。

「は、はい!では次、深谷のピッチ!続けて!」

何だよ。コメントなしかよ。
平静を装うが、内心イラつきながら席に座る。
こっそりと黒崎を睨んだ。
仕事は出来て顔も整っているから、社内では人気だ。しかしいつも目は冷たく据わっており無表情。
憧れを抱く奴もいるが本田は嫌いだった。

「あっれー、本田また残業?」
「ああ。もう少しこのスキームはブラッシュアップして精度を上げたいから。」

昼の怒りを糧に定時後も仕事をしていると、営業部ライバルの深谷に話しかけられる。

「はは、ご苦労様だな。そんなだから、彼女にもすぐ振られんたんじゃね?」
「煩いな。無駄に絡むなよ!とっとと帰れよ!」

シッシッと深谷を追い返す。
深谷もきっと本田同様、こちらの事を敵視してよく思ってないのだろう。それなのにこうしてよく絡んでくる。訳の分からない男だ。
本田に追い出されると、深谷は笑いながら帰って行った。

「…はぁ…」

こんなのに構ってはいられない。
《普通》は簡単そうに見えて、中々手に入らないのだ。
だから、その為にはどんな苦労でもすべきなのだ。

「もうこんな時間か。」

暫くしてふと時計を見ると、もう深夜の11時近くだ。オフィスの照明はほぼ消えて、自分の席の上しか光は灯っておらず薄暗い。
そろそろ帰るか…。
その前に…
ひと伸びして席から立ち上り、黒崎の席へ向かう。
カチャリ…
そしてその椅子に足を置き、スラックスから自身を取り出した。

「…うっ…っ」

椅子に片足を乗せ、自慰を始める。

「はぁっ」

こんな事やめないと…。倫理的にも、《普通》という観点からもよろしくない。
そう思うのに。
自分でも謎だが、性癖なんて得手してそんなものだろ。
あと、普通に黒崎がムカつく。こうやって汚すと気休めになる。

「くっそ…はぁっ、発表してやってんだからっ、…っ、なんか、コメントしろやっ!」

抜きながら、積もり積もった黒崎への不満を述べる。

「っ!…っう」

程なくして本田は極め、黒崎の椅子に吐精した。

「…はぁっ、はぁっ、ふー…あーくそっ、手汚れたし…」

手を拭こうと振り返った格好で本田は固まった。
目線の先には、いつもの如く鋭い視線をこちらへ向けた黒崎がいた。暗がりの中、据わった目がこちらを見据える

い、いつからいたんだ⁈
ぶわりと冷や汗が溢れる。

ドッドっドっ

心臓が騒ぎ手が震える。

「く、黒崎さん…。」

本田はなんとか震えを押し留め、黒崎に隠れてズボンの前を閉めた。

「…忘れ物ですか?」
「ああ。そんなところ。」

黒崎は気付いていなようだ。
いつもと特に変わりなく、無表情、端的、無愛想にこちらへ近づいてきた。

「そうですか。すみません。俺、ホッチキスの芯取りにこっちへ来てて…て、俺がこんな所にいたら邪魔ですよね。退けますね。」

今いる辺りは薄暗いし、広さもあるので匂いもこもっていない。ただ、本田がここにいる事は不自然だ。
本田は作り笑いをうかべ、コロコロと椅子を押してその場から動いた。
丁度、黒崎の机の後ろが備品棚で良かった。
何事も無かったように、自分のデスクを漁る黒崎を見て胸を撫で下ろした。

「それで本田。」

声をかけられて振り返る。

「はい?」
「楽しそうな事してるな?」
「…あっ!」

黒崎が椅子を蹴った。
ガシャンッと音を立てて椅子が倒れ、どろりと本田の精子が椅子の座面を伝った。

「…す、すみませんでした!」

もう謝るしかない。
咄嗟に手をつき謝った。

「あのっ、何でもするので…っ、これは、こ、れは…どうか誰にも言わないで下さい…。」
「…。」

黒崎は何も言わなかった。
沈黙に耐えきれず恐る恐ると視線を上げると、本田を見下ろす冷たい目と目が合う。

———
「力抜けよ。」
「…うっ、うう…。」

あの後、黒崎はあろう事か、本田の自慰を黙っている代わりに行為を強要してきた。
嫌だが歯向かいようがない。
結局、壁に手をつき、先程自分で解かした尻を後ろにいる黒崎に差し出す事になった。
黒崎の手が腰を掴んできて、ヌルヌルとそれを擦り付けてくる。
だ、大丈夫だ、いける…はず…。
不幸中の幸いとでも言うのか、アブノーマルな事は大体やっている。前立腺マッサージも、店のポイントカードのポイントが貯まるくらいはやった。
あ、そうそく。カードの期限が切れる前に行かない、

ずっ

「ぐっ…」

とか考えを紛らわせている隙に、黒崎のものが内壁を押し除け入ってくる。
…あ、あぁ…
思わず口がはくりとあく。

「ふっ、く…っ、は、入りました?終わり?」

膝がカクカクと笑う。

「…。」

黒崎は会議中と同様、無言だった。
あぁ、これ、まずい。
色々な意味で汗が出てくる。
すると、ようやく黒崎が口を開いた。

「未だだ。思ったよりキツいな。お前、自分の前を自分で抜け。」
「はぁっ⁈ふざけ…っふぎゅっ‼︎」

もう下手に出る余裕もなく、振り返り文句を言おうとした瞬間、黒崎の物が全て本田の中に埋まった。

「入った。」

狙ったように力が抜けた隙をつかれたので、馬鹿みたいな変な声がでてしまった。

「あっ、い…」

最悪だ。最悪中の最悪だ。
それなのに、ドクドクと触られてもいない前が脈打つ。入れられたばかりなのに、たらりと先走りが垂れた。
…おかしい!なのになんで…。
わりかし痛いし、合意なんてあってない様なものだ。これは本当に最悪な状況だ。
それなのに…この最悪が凄くいい。
こんなの変だ。

「…んっ、あ、」

食いしばらないと、喘ぎ声が漏れそうだ。
何故こんな気持ちいいのかという戸惑いと、それを上回る強い快感で頭が混乱する。
幸い黒崎は気付いていないのか、お得意の無言で腰を動かすだけだ。
にしても、仕事同様容赦がない。ドスドス音がしそうな強さでつかれる。

「んっ、」

(ふぁっ…♡ぁ、きもちっ…っ、あ、きもちぃぃいい!)

噛み締めた口から涎が垂れそうで、慌ててごくりと飲み込んだ。
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GARDEN/U N I O N/溺愛/至上主義