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後ろから両手を握り込まれていないと、腰が立たずその場に崩れ落ちそうだ。

「…あ、…んっ、」
「…ふっ」

ふ?
え?笑った?
黒崎が笑ったのか?
いつも無表情な黒崎が?

「お前、そんなに気持ち良いの?」
「あっ、ちがっ、…んんっふぁあっ!」

反論の為に開けた口から、甘い喘ぎ声が漏れてしまった。
それを聞き、黒崎が更に口の端を上げる。
黒崎が貼り付けた笑顔以外で、こんな風に笑う所など見た事がない。

(やばいやばいっ!こんなっ、流石にこれは《普通》からはずれ過ぎだ。感じるな!感じるな…‼︎でも、あぁ、やっ…気持ち良い気持ちよすぎる〜っ!
あぁ、くっそ、気持ちいい…。)

「んぁっ…っ、気持ちよくなんか、ないっ!」
「…へぇ?」
「あぅっ、ふ、もっ…っとっとと、出して終わらせよ!」
「はっ。」

まただ。
黒崎は本田を鼻で笑う。

「ううっ、なんっ…あ」 

そして一際奥に突き入れてきた。

「俺のがお前の中に入ってる。」
「…っ」

ぐっと髪を引かれ、耳元に黒崎の息がかかった。

「なぁ、雌になった感想聞かせろよ。」

なんだよこれ。
怒るべきなのに、拒絶すべきなのに。
押さえつけられた身体、引かれた髪。無理矢理ねじ伏せられて。

(…もっと欲しい…、もっとされたい。いや、でも、だめだめ、もう、辞めないと…ふっ、怒らないと反論しないと……あ゛ー!辞めないと辞めないと辞めないと辞めないと…)

なりふり構わずに溺れたくなる悦楽がチラチラと見えた。

「んっ、…ぁっ!」

一切触れられていないはずの前から、ダラリと白濁が垂れた。

「ははっ、馬鹿にされていったのか?」
「んっ、あぁっちがっ!」

本田の否定の言葉すら笑い、黒崎は腰を動かした。
こんな…っ、戻れなくなるっ。
ぎゅっと閉じた目から涙が落ちた。

「あっ、ふっ、ん…あっ、もっ、だめっ、き、きもち……ぃっ!気持ちいいっ!気持ちぃっ、からっ、…っもぅ…っ、やっ無理ぃ…っ!」

涙と一緒に思わず本音が漏れる。
そんな本田を見て、目を細めた黒崎が口の端を舐める。

「ははっ…」
「…ん、ふっあっっ‼︎」

そして漸く黒崎が出した時には、本田は立っているのがやっとだった。

「で、どうだった??」
「…っ」

ふらふらな本田の肩に顎を乗せ、後ろから顎を掴んだ黒崎が嫌らしく聞いてくる。
酷く耳障りなその言葉から逃げるように、本田は目を閉じた。

———
「黒崎さんは男が好きなんですか?」
「…。」

…う。
会議室に這いつくばり床をウェットティッシュで自分の出したものを拭く本田を、椅子に座りタバコを吸う黒崎は冷たい目で見下ろす。
直球過ぎたか…。つか、一々、怖いんだよ。あと室内禁煙ですよーっ!
長い足を組み、溢れ出る雄気を纏い椅子に座る黒崎。まるで百獣の王だ。そんな奴に鋭い目で見られると、怖いに決まっている。

「お前はよく鳴いてたな。」
「べ、別に…そうでもないです。」

確かに、気持ちいいか、良くないか。その二択だと、答えはハッキリしている。
しかし、断じてそんな事認められない。
雑念を振り払うが如くゴシゴシと床を拭いた。

「つか鳴いてたとか、変態オヤジか。」
「あ゛?」
「…っ、ふ、拭き終えました。」

小声で悪態をつくと、凄い目で睨まれる。慌てて話をそらす。

「気持ち良いと言っていたのは、聞き間違いか。」
「はぁ⁈聞き間違いです。それにさっきの事はこれでチャラに…」

《あっ、ふっ、ん…っ、き、きもち……ぃっ!》

「いや、聞き間違いじゃないな。確かに言っている。」
「…!」

黒崎はスマホ画面も見てニヤリと笑った。対する本田はそんな黒崎を見て顔を青くする。
と、撮られて…た?

「そ、それ、消しますよね?言わないって、約束ですよね⁈」
「ああ。自慰は言わない。」
「え?ちょ、ちょっと…」
「そう言うことだから。」
「あっ」

黒崎が徐に立ち上がり、本田の前に立つ。急に近づいた黒崎の圧に押され、本田は思わずぺたり尻餅をついてしまった。そんな本田の肩を黒崎が叩いく。

「これから宜しくな。恭弥。」
「!」

なにを…?っていうか、名前…。
その場にへたり込んで動けない本田を残し黒崎は会議室を出て行ってしまった。
宜しくって…。嘘だろ…。
真っ暗な会議室で一人、本田は絶望した。

————

朝日が眩しい広々としたオフィスのエントランス。その中のエレベーター待ちの群衆の中で、本田は難しい顔をしていた。
昨晩みたいな事をまたされるのだろうか?
事態は当初恐れていた方向から、更に悪い方向に陥ってしまった。
嫌だ。男相手にあんな風に組み敷かれるなんて。そもそも普通じゃない。理想との乖離が広がることが怖い。
自分がおかしくなる。

「乗りますか?」
「っあ、はい。すみません。ボーッとしていて……。」

いつの間にかエレベーターが来ていた。エレベーター内から顔を覗かせた女性に声をかけられて、本田は我に返り慌てて乗り込んだ。

「っ!」
「…。」

そしてエレベーター内の先客を見て、思わず悲鳴をあげそうになる。
顔を上げたそのすぐ先に黒崎が居た。
しかし及び腰な本田も、朝の忙しい時間帯、後ろから続々と乗り込んでくる人々に押されてぎゅうぎゅうのエレベータの奥に追いやられる。必然的に黒川のすぐ前に、背を向け乗る形で押し込まれてしまう。

「すみません。」
「あ、」

とんっ、と押されて、またよろよろと一歩後ろに下がる。
コツンッと、身体が黒崎に触れた。

「っ」

その瞬間、昨日の快感がフラッシュバックしてくる。
硬く引き締まった身体に、丁度そう。
昨日もこんな風に後ろから…。
はぁっと、口から熱い息すら漏れた。
後ろの黒崎はどんなをしているんだろう。
次に我に帰った時には、エレベーターには本田と黒崎だけだった。

「本田」
「…く、黒崎さん」

呼ばれて振り向く。
どくんっと心音が響き、体の奥がギュッと握り潰された様な妙な感覚に襲われる。

「階ボタン押せよ。淫乱。」
「え。」

しかし対する黒崎はいつと変わらない冷めた目で本田を見て、本田の後ろからあっさり抜け出ると自分達の階ボタンを押した。

「…はぁ⁈てか、なんですか!淫乱って!あんたが無理矢理したんだろ。」
「はっ。勝手に人の身体に擦り寄って…。悦に入っているのバレバレなんだけど。」
「別にっっ!そんな事してない!」

黒崎は本田の言葉を鼻で笑うと振り返った。思わず後退る本田を、無言で壁際まで追い詰めると見下ろす。

「そうそう。もう夜中に馬鹿な事するなよ。」

黒崎がそう言い放つと、丁度エレベーターが階に付きチンッと軽快な音を立てた。

「…まぁ…昨日の会議中は済まなかった。指摘は纏めてメールで送っておいた。お前の案でも改善すれば良くなる。諦めずに続けろ。」

降りる間際、黒崎は僅か考えるような素振りを見せた後、ぽつりと溢すようにそう話した。

「…へ?…あ」

あ、謝った?
確かにそれまでは怒りや羞恥が自分の中を決める感情だったのに…。黒崎の意外な謝罪に感情が迷子になる。

「頑張ったら、またご褒美してやっても良いぞ。」
「っ、そ、そんなの要らないです!」

しかしこちらの戸惑いも知らない黒崎は、また意地悪に笑うとその場をさっさと去っていく。

「本当にもう…、何なんだよ…。」

後に残された廊下で呟いた。


———
「くそっ!」

その日の夜、本田は一人部屋で枕を殴り悪態をついていた。

「なんなんだ、黒崎っ!」

頭をガリガリとかきむしる。

「昨日の今日で…っ!態度はコロコロ…てか普通、今日は無理矢理でも俺に迫るだろだよ!」

…いやいやいや!何を言っているんだ。口から言葉が出た直ぐ後、本田は自分に自分で驚く。これでは寧ろそうして欲しいみたいだ。
して欲しくはない!絶対ない!

「くっそ!あ゛ー、溜まってんのかなぁ…。遅いけど今からマッサージ行こかな…。ぐぁー、でも、明日、朝から取引先行かないとか…。」

ぼすりと乱暴にベッドへ寝転ぶ。

「はぁー、もう玩具買っちゃおうかな。…いや、でも流石にそれは…アウトだよな…。一線を超えるよな。俺は…普通なんだから…。」

家に専門の玩具は置いていない。置いてしまうとズルズルと普通から逸れる気がするからだ。
自分のアブノーマル好きは自覚しているが、それをやすやすと容認する事は出来ない。

「もー!お前のせいで俺の人生プランが壊れるんだよ!黒崎ぃっ!」

本田は一人布団の上でごろごろと悶える。
まずはあの動画を消させるんだ。そしてまた、《普通》にやり直せば良い。

「…」

しかし、策なんてそうそう簡単に出てこない。
ため息をつき、ゴロンと寝返りを打つ。
…弱み…。

「………そうだ!」

本田はベッドの上にガバリと起き上がり、ニヤリと笑った。
黒崎を陥れて、自分が被害者と立証できる証拠を得るのだ。
それをネタに、逆に強請ってやる。

「ふふふ、黒崎…お前を俺の体で陥れてやる…」

———
「おはようございます!」
「…おはよう。」

会社の地下駐車場。本田は後から来た黒崎に笑顔で挨拶をする。
今日は朝から黒崎と取引先への挨拶回り。計画実行には好都合だ。
本田の満面の笑みに、黒崎は一瞬不審そうに眉を潜める。
しかしそんな事もどこ吹く風、挨拶回りも順調に進み会社に戻る頃、本田は本格的に動いた。
徐に路地裏に車を停める。こっそりとポケットに手を伸ばし、スマホの音声録音ボタンを押した。
ここで黒崎が、本田へ行為を強要する証拠音声をとる計策だ。

「黒崎さん。」

準備を終えると、隣でパソコンを弄っていた黒崎の手に自分の手を重ねた。

「…。」

上目遣いで媚びるような視線を黒崎にむける。
最初は不審気だった黒崎だったが、直ぐに本田の意図するものに気づいたようだ。パソコンを閉じると、こちらに向き合ってきた。

「なんだ?」

そして不敵に笑う。
その微笑みの黒さに、思わず顔が引きつる。

「…く、黒崎さん…。」
「だから、何?」

出来れば音声データを聞いた時に、自分が誘っている雰囲気を残したくない。
しかし黒崎は、中々決定的な言葉を言わない。
…仕方ない。

「…は、はぁ…ちょっと、暑いですね。」
「…。」

本田はわざとらしく手で煽ぎ、ネクタイを緩めると胸元のボタンを外した。
シャツを持ちパタパタと煽る。
黒崎の視線を感じる。

「黒崎さんは、暑くないですか?」

意識して熱い視点を黒崎に投げ、黒崎の肩に控えめにすり寄った。

「煽っているのか?」
「…え?別に…煽ってなんか、していません。…えぇ⁈何ですか?それとも黒崎さん、もしかして俺の事、そんな性的な目で見ているんですか⁈」
「……ふーん。」

少々小芝居じみてしまった…。
不味いかなと思ったが、黒崎は何やら考える素振りをみせた。
そんな姿に少し焦ったが、特に気にしていないようだ。
不意に黒崎の目線が本田の唇に落ちた。
く、くるか…!
息を呑み目をギュッと瞑り、キスを待ち受けた。

「……?」

あれ。…何もない。
数十秒も経つと、流石に事のおかしさに気づいた。
本田は薄ら目を開けた。

「…あっ」

目を開けた先には、近距離、本田と唇が触れる寸のところで口の端を上げた黒崎がいた。

「『あ』?」

おもわず間抜けな声を漏らした本田を、黒崎が笑う。

「…⁈なっ、なんっ…⁈」

黒崎には全部お見通しだったようだ。
そう認識すると、途端に羞恥心がこみ上げ、どうすることも出来ずにただただ口をパクパクさせてしまった。

「11月12日、16時半、今日の気温は15度だ。」
「…は?」

一人おたおたしていると、黒崎が冷静な声で急に今日の気温を述べる。

「秋口にしては暖かいな。しかしそんな中、本田は自ら第3ボタンまで開けて煽でいるが、そんなに暑いのか?」
「え?…あ、暑いです…?」
「そうか。もしかして熱があるのか?大丈夫か?」

そう言うと、黒崎は本田の体に手を滑らせ首元を触った。

「…っあ、」

冷たい黒崎の手に、身体がビクつく。
最初は栗立っていた肌に、次第にもやもやとしたものが湧き上がる。

「ん?なんだ?変な声をだして。本当に大丈夫か。」
「だ、だだ大丈夫ですっ…」
「ふーん」

首から肩、そして胸。

「…んっ!…あっ、なん…」

急に黒崎の手が引かれ、思わず切ない声を出してしまった。

「本田、お前なんで勃起してんだ。」
「…っ!」

黒崎は口の端を上げ、意地悪く笑っていた。

「仕事中に何をしてる。もしやこれは、上司へのセクハラではないか?」
「は⁈ちが…っ違いますっ!」

あーも!
内心頭を掻き毟る。
何で毎度寸止めなんだよ‼︎早く襲えよっ!
いや、なんか本来の目的から逸脱してきている気もするけど。
もはや自分が自分でどうしたいのかがよくわからない。

「…本田、」
「な、何ですか?」
「俺、付き合ってる奴いるから。」
「…え?」

それだけ言うと、黒崎はあっさりと本田から身を離した。

「あとこれ気付いてる。」

そして放心している本田のポケットからスマホを取り出すと、録音のスイッチを切った。
…え。
……えーーー‼︎
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