4 ※黒崎視点
本田の事は、実は前から気にはなっていた。
本田の出す凡庸な企画には何故か人一倍腹が立つし、泥臭く頑張る姿には目が釘付けになった。
何故そう感じるのか。
自分の気持ちだが、自分でよく分からなかった。
それが先日の深夜オフィスでの事。
「くっそ…はぁっ、発表してやってんだからっ、…っ、なんか、コメントしろやっ!」
(最悪だ。あの馬鹿。人の椅子で何してやがる!その椅子、同期の総務部の奴にこっそり譲った貰った、役員用のちょっといい椅子だぞ。クソ変態。)
ひどい憤りを感じた。
結局、自分が本田に感じた何かとは、こいつの変態性だったのか。自分までもがくだらない生き物に思え苛立った。
「…忘れ物ですか?」
「ああ。そんなところ。」
(本当、こいつ馬鹿!何?「忘れ物ですか?」だ。お前こそ、脳みそどっかに忘れてた来たかっ!)
とぼける本田に怒りで震える。
本田は自分の下から速やかに外してもらおう。もうこんな馬鹿とは金輪際、関わりたくない。
しかし逆恨みでまたこんな事をされてはたまったのではない。一言、注意はしておくか。
ただ一言注意をして、もうこいつとは関わらない。
そう思っていた。
「あのっ、何でもするので…っ、これは、これは…どうか誰にも言わないで下さい…。」
「…」
涙目で床に這いつくばり懇願する本田。
その姿は悪くなかった。
「本田、後ろ、使った事あるか?」
「…え。」
(あ、不味い。)
何を聞いているんだ。
思わず自分の口をついて出た言葉に、自分で驚いた。
変態で馬鹿な本田ですら、戸惑いの声を出している。
流石に社内の、しかも部下にこんな事。パワハラやら何ハラやら、訴えられたら上司である自分が不利だ。
受けるダメージも大きい。
「…い……」
いや、忘れてくれ。
そう言うつもりが、本田と目が合った瞬間に言葉を飲み込んでしまった。
本田はありありと期待を含んだ眼でこちらを見上げていた。
本田。お前、本当に馬鹿。そして本物の変態。
———
「…んっ、あっ♡、」
(え。本当かよ、こいつ…。凄い感じてるじゃん。やっぱり、初めてじゃないのか。え。)
そう考えると、不思議な事に苛ついた。
「…ぐっ…あ、うわっ…んっ」
「…ふっ」
どうしても気が治らず、少し激しく動くと本田から明らかな喘ぎ声が漏れる。
それがおかしくて笑ってしまった。
ちょっと気分がいい。
「ほら、雌になった感想聞かせろよ。」
「…っ」
興が乗ってしまい、少し追い込む様なことも言ってしまった。我ながら陳腐な言葉攻めだったが、本田は明らかに快感を感じていた。
(こいつ、無自覚でドマゾか)
日頃の無駄にプライドが高い本田とのギャップは凄まじい。
やがて本田は快感に涙を流し始めた。
「あっ、ふっ、ん…っ、やばっ、…あっ、き、きもち……ぃっ!」
本田のその声が愉快で堪らない。
黒崎はキツく、本田を更に追い込む。
同時に、日頃抑え込んでいる衝動がムクムクと湧き上がった。
もっとこいつを支配したい。
まるで見えない首輪をつけている様に。
閉じ込めて、管理して、徹底的に。
飼い慣らして、自分だけのものにしたい。
「ははっ」
愛でたい
「…ん、ふっあっっ」
「っ…はっ、」
本田の漏らした喘ぎに、また無意識のうちに笑いが漏れた。
———-
(あー…やってしまった…。)
「黒崎さんは男が好きなんですか?」
「…。」
さっきまでの可愛さは何処へやら、ブスッとした顔で本田は黒崎へ質問を投げた。
ただでさえ落ち込んでいる時に、どストレートで不躾な物言いだった。
(本気で調教してやろうかこのガキが。)
苛つきを込めて睨むと、本田は慌てて目を逸らす。
(ふん。小者め。…あーあ、しかしこれはまずいな。こんな事、本田が労働組合に駆け込んだら一発アウトだ。)
内心焦っていた。焦りからくる苛立ちで、室内で煙草を吸ってしまう程だ。
(何とか…こいつを言い包めなければ…。)
…。
よし。
騙すか。
明らかにこちらの方が分が悪いが、本田は騙せそうだ。
「宜しくな。恭弥。」
これからの事を匂わす様に、本田がこちらに逆らわない様に脅す意味を込めて言ってみた。
(これで少しは…)
「…。」
(何でだよ!)
こちらの意に反して、本田はまた期待の篭った目をこちらに向ける。
(…ま、まぁいい。)
もうこれで終わりだ。これ以上本田と関わると碌な事がない。
何故か残念だと思ってしまう自分を戒める様に、黒崎は心の中でそう呟いた。
————-
しかし本田は、言うなれば沼だった。
もう関わるのは辞めよう。もう辞めよう。
そう思うのに、馬鹿みたいな事をしてくる本田が面白くてつい相手をしてしまう。
エレベーターで擦り寄って来たのは可愛かったし、正直勃った。
(あー、手を出したい。ここで今すぐ。…もう一回だけ…。)
「……。」
「……っ、な、なんですか⁈」
「…もう夜中に馬鹿な事するなよ。」
しかしダメ。社内で、しかも部下が相手なんてハイリスク過ぎる。
自分の過ぎる性癖も自覚している。
欲望はコントロールすべきだ。
…本田は、自分と関わるべきじゃない。きっとこいつは平凡に生きるのが好きなんだ。
本田を残しエレベーターを降りた。
———-
なぜ…本田は……こんなにアホなのか。
「おはようございます!」
「…おはよう。」
(なのに、なんでお前はそうなんだ‼︎)
二人で外回りをする日、本田は何故満面の笑顔で出迎えてくれた。
上がりそうになる口角を、眉間に皺を寄せる事で必死に抑える。
(本田は変態だから後先考えずに靡いたのか?)
二人という空間に若干悶々としながらも、車内ではひたすらに事務処理を行い気分を紛らす。
そんな時だった。
「黒崎さん。」
本田が手を重ね、熱っぽい視線を送ってきた。
(…あー、やっぱりな。)
大方、映像を消させる脅しのネタのためこんな愚行に走ったのだろう。本田のポケットでスマホがピコピコと、録音を印して光っていた。
(なんだ…。)
分かっていたはずなのに、がっかりしてしまった。
本田の一挙一動に動く自分の感情を笑った。
「…は、はぁ…ちょっと、暑いですね。」
そうこうしていると、本田が次の手(?)に出らしい。
胸元を大きく開けてパタパタと扇ぎ、流し目でこちらを見た。
本田の色白の肌がチラチラと見え隠れする。
(肌が白いから、赤い首輪が似合いそうだ。)
「黒崎さんは、暑くないですか?」
本田が体を寄せてきた。衝動が湧き上がってくる。
「煽っているのか?」
「…え?別に…煽ってなんか、していません。…えぇ⁈何ですか?それとも黒崎さん、もしかして俺の事、そんな性的な目で見ているんですか⁈」
「……ふーん。」
(ほんとお前は…)
黒崎は本田を半ば呆れながら見つめる。
(……そういえば、キスはしなかったな。)
本田の白い肌に、ぷっくりと赤い唇。釘付けになる。
(遊んでやるか。)
目を開けたまま身体を傾ける。本田の顔を間近でまじまじと見つめた。
「…あっ」
本田はそのままキスをされる思っていたらしい。目をまん丸に見開き、間抜けズラを晒していた。
「『あ』?」
その、本田が目をパチクリする様に、吹き出して笑いそうになりグッと堪えた。口角が上がる。
「そうか。もしかして熱があるのか?大丈夫か?」
そんな本田を見ていると、無性に触りたくなった。無理矢理な理由をつけ、本田の身体に手を伸ばす。
本田の大きく空いたワイシャツの隙間から手を滑り込ませる。
「…っあ、」
首の筋を伝い、手をその下へ滑らせる。
すると本田が小さく喘ぐ。
その声に、黒崎は目をスッと細めた。
(本田は…プライドも高くて強気だから…逃げ道を少しだけ残して、繋ぐのは片手だけにして)
黒崎の手は本田の肩を指先で撫でた。
黒崎の手に合わせて、本田がびくりと体を捩る。
心持ち、本田の頬が赤くなった。
(逃げ惑うのを追い詰めて、屈服させて、虐めるだけ虐めたら最後は泣いて乞わせて)
黒崎の鋭い目線と合うと、本田の目が戸惑いで揺れる。
そんな顔も、晒さずにじっと強い目線で見つめた。
(最後は本田自ら動かせて、可愛い声で喘がせて…死ぬ程気持ち良くしてやりたい…)
ごくりと、本田が黒崎か、どちらが唾を飲む音がした。
『お前、おかしいよ。』
その時、あいつの声が頭の中に響いた。
そうだ。もうこんな事はしないと決めたのだ。
「俺、付き合ってる奴いるから。」
だから自分への戒めも込めて本田にそう言い放った。勿論、付き合っている奴なんていない。しかしそう言えば、本田はもう絡んでこないだろう。
———-
どうでもいいが、最近本田の元気がない。
いつも疲れている。
(風邪か?どうしたんだ?)
黒崎は仕事中、こっそりと本田を盗み見た。顔は心なしか赤く、ぼんやりとしている。
「……」
からまわっていても、仕事に対するやる気だけは異常にあったのに。
最近では仕事もおざなりだ。
(どうしたんだ…。)
黒崎はため息をつく。
自分もおかしい。
(…はぁ…今迄、自分は自分でコントロール出来たのに…)
本田が気になって仕方がない。
結局仕事が手につかず、午前を浪費してしまった。
そんな気分を変えるため、昼休みには人気のあまり無い研究棟で過ごすことにした。
このフロアの会議室は空いていることが多く、一人になるにはうってつけだった。
「ふー」
誰もいない会議室の椅子に座り、コツンとスマホを叩く。
そういえば、本田は自分があの時の映像を持っていると騒いでいた。
勿論すぐに消しているが…。残しておいても良かったな…。
「……はー、俺も大概だな…」
そんなこんなでダラダラとしていると、あっという間に午後の就業開始時間が迫る。
「トイレで顔でも洗って帰るか…」
悶々とした気持ちにここまで引きずられるのは始めてだ。
何故か分からない。
何故こんなにも本田の事が気になるのか。
カチャ…
「…」
暗いと思ったトイレ内には電気が付いていた。一番奥の個室を見ると、戸が閉まっている。やはり誰かいるらしい。
(人がいたか。)
ならば出ていこう。そう思った時だった。
「ぅぁっ…んっ、やめっ」
「…」
声が聞こえた。
しかも知った声だ。
(…本田)
足が動かず聞き耳を立ててしまう。
「なっ…うっ…もっ、無理だって…っ!」
「なんで?ギリギリで我慢するの好きじゃん?」
「んん…っ‼︎」
「ほら、だらしない顔ー!」
「そんな…っ!次、会議あ…っ!」
くちゅりとキスをする音と本田の喘ぎ声。
「はっ、ほらキス、ちゃんと出来たら、今夜あたり外してやっていいけど?」
「!…っふっ、」
(深谷…)
本田の相手は深谷の様だ。
あまり仲のいいイメージのない組み合わせだが。
「んっ、…ふっふふ、がっつくなよ、本田。」
「ふぅ、ふぅっ…っ」
本田の苦しそうな息遣いと、深谷の笑い声。
(しかし俺は…変態ホイホイか!俺の部下には変態しかいない…)
胸糞悪い。
(というか、合意の上なのか?)
本田がどのつくMといえど、本気で嫌がっていそうな声だ。
性癖が強いので読むのは難しいが、そもそも本田と深谷は仲が悪かった。
そんな二人が?
カチャリ
「あ」
「…っ」
思案していると、個室のドアが開いた。
最初に深谷が黒崎を見つけて声を上げる。
本田はその後ろで声にならない悲鳴をあげ、縮こまる。
人に見られたくないようだ。それもそうか。
「黒崎さんー、お疲れっす!」
深谷はやけにスッキリした様子だ。
差し詰め、自分はスッキリして本田には我慢させているのか。
いい趣味だ。
「こんな所で、珍しいですね!」
「開発チームに相談を受けてな。じゃ、俺は先に」
「はは、ちょっと。そんなに足早に帰らなくて良いですよ。」
人に気づかれたくなさそうな本田に気を遣い、さっさと帰ろうとするのに深谷は話を続ける。
「見て下さいよ!」
「ひっ、」
深谷が本田の手を引く。
「可愛いでしょ。俺の。発情中の本田!」
「…」
深谷は満面の笑顔で、本田の体をこちらに見せびらかす様に押し出した。
本田の顔は明らかに引き攣って青くなっている。
(………いや…発情中って……。こいつも知能指数の低い変態だな…)
無表情だが、黒崎は心の中で深谷の発言に不快感を感じていた。
「……そうか。じゃ」
「待て待てって!」
(……タメ口…)
「なんだ?」
コイツに上司を敬う気持ちがない事は初めから知っていたが、ここまであからさまなのは初めてだ。
それにしつこい。何が言いたい。
「だから!黒崎さん、」
深谷はぐいっと本田を引き寄せた。
「今後、本田に手を出したらダメですよ?」
そしてこちらを見て挑戦的に笑う。
「……それは、合意の上の行為か?」
「はは、そうですよ?本田は超ドマゾで可愛いんです!今日で寸止め我慢、2週間ちょいかな?」
「ね?」と深谷が本田の耳に口を寄せる。
それだけで本田は熱い息を吐き、ぎゅっと目を瞑り震える。
相当辛そうだ。
「毎晩毎晩、いく寸前で止めて、時々さっきみたいに日中も我慢させてるんです!すると、キスしてもご褒美貰おうと必死ですし、フェラも必死で、ちょー可愛くなりました!」
聞いてもないのに深谷は饒舌に、やけに目をキラキラとさせて捲し立てる。
正直、気持ち悪い。お前が1番気持ち悪いぞ、深谷。仕事だけしてろよ。
「勿論ご褒美ってのは…」
深谷はチュっと本田の頬にキスを落とした。
本田が小さく「あ」と漏らす。
そんな本田の体を、深谷は撫でた。
「…」
「……ふ、ぁっ、」
深谷の手に合わせて、本田がふるふると震える。
「本田のしゃせー、堰き止めてる玩具を外して、思いっっきり後に入れてやって、激しく、本田が訳分からなくまで後を虐めて、」
深谷の手が本田の尻を触る。
流石にと本田が抵抗するが、深谷はそれを諌めて続けた。
「本田はせーしが、うっっすく、水みたいになるまて、思いっっきり好きに出せるやーつ。」
「ふっ…ぁっ、う…〜っ」
かくりと本田が前屈みになる。
顔は真っ赤で息が荒い。
「ね?♡」
「…いっっ!」
おそらく貞操帯あたりをつけられているのだろう。
深谷が意地悪でふっと息を本田の耳にふく。
すると本田は「痛い」と涙目で震え、深谷の腕に縋る。
「………」
(俺は、何を見せられているのだ…。…羨ましい。)
いや、そうじゃない。
「まー、仕事だけしてくれれば何でもいい。業務に支障が出ない程度にしておけよ。」
「ふふ、はーい。本田にはよく言い聞かせときまーす!」
「…」
(なんか〜、すっごく、腹立つな…。)
しかし自分にはどうする事も出来ない。
本田と自分は何かできる関係性ではない。
本田がどんな顔をしていたのか、意図的に見ずに黒崎はその場を後にした。
そんな職場に似つかわしくない会話が交わされた後、本田と深谷は遅れて自分たちのフロアに戻ってきた。
本田は相変わらず辛そうに目を瞬かせたり、ソワソワと落ち着きがない。
(結局、業務に支障をきたしてるだろが、馬鹿!)
怒りで語彙力が死ぬ。仕事も手に付かず、生産性も最低だ。
他人なんてどうでも良い。
そのはずだったのに、不思議とこれは怒りで震えた。
(これは、何かフォローしなければ。)
あくまで、仕事のためだ。
決算期も近いというのに、こんな事ではいけない。
黒崎は本田の住所をこっそり調べた。
深谷に聞いてもらちがあかない。
本田に直接確認するつもりだった。
本田の出す凡庸な企画には何故か人一倍腹が立つし、泥臭く頑張る姿には目が釘付けになった。
何故そう感じるのか。
自分の気持ちだが、自分でよく分からなかった。
それが先日の深夜オフィスでの事。
「くっそ…はぁっ、発表してやってんだからっ、…っ、なんか、コメントしろやっ!」
(最悪だ。あの馬鹿。人の椅子で何してやがる!その椅子、同期の総務部の奴にこっそり譲った貰った、役員用のちょっといい椅子だぞ。クソ変態。)
ひどい憤りを感じた。
結局、自分が本田に感じた何かとは、こいつの変態性だったのか。自分までもがくだらない生き物に思え苛立った。
「…忘れ物ですか?」
「ああ。そんなところ。」
(本当、こいつ馬鹿!何?「忘れ物ですか?」だ。お前こそ、脳みそどっかに忘れてた来たかっ!)
とぼける本田に怒りで震える。
本田は自分の下から速やかに外してもらおう。もうこんな馬鹿とは金輪際、関わりたくない。
しかし逆恨みでまたこんな事をされてはたまったのではない。一言、注意はしておくか。
ただ一言注意をして、もうこいつとは関わらない。
そう思っていた。
「あのっ、何でもするので…っ、これは、これは…どうか誰にも言わないで下さい…。」
「…」
涙目で床に這いつくばり懇願する本田。
その姿は悪くなかった。
「本田、後ろ、使った事あるか?」
「…え。」
(あ、不味い。)
何を聞いているんだ。
思わず自分の口をついて出た言葉に、自分で驚いた。
変態で馬鹿な本田ですら、戸惑いの声を出している。
流石に社内の、しかも部下にこんな事。パワハラやら何ハラやら、訴えられたら上司である自分が不利だ。
受けるダメージも大きい。
「…い……」
いや、忘れてくれ。
そう言うつもりが、本田と目が合った瞬間に言葉を飲み込んでしまった。
本田はありありと期待を含んだ眼でこちらを見上げていた。
本田。お前、本当に馬鹿。そして本物の変態。
———
「…んっ、あっ♡、」
(え。本当かよ、こいつ…。凄い感じてるじゃん。やっぱり、初めてじゃないのか。え。)
そう考えると、不思議な事に苛ついた。
「…ぐっ…あ、うわっ…んっ」
「…ふっ」
どうしても気が治らず、少し激しく動くと本田から明らかな喘ぎ声が漏れる。
それがおかしくて笑ってしまった。
ちょっと気分がいい。
「ほら、雌になった感想聞かせろよ。」
「…っ」
興が乗ってしまい、少し追い込む様なことも言ってしまった。我ながら陳腐な言葉攻めだったが、本田は明らかに快感を感じていた。
(こいつ、無自覚でドマゾか)
日頃の無駄にプライドが高い本田とのギャップは凄まじい。
やがて本田は快感に涙を流し始めた。
「あっ、ふっ、ん…っ、やばっ、…あっ、き、きもち……ぃっ!」
本田のその声が愉快で堪らない。
黒崎はキツく、本田を更に追い込む。
同時に、日頃抑え込んでいる衝動がムクムクと湧き上がった。
もっとこいつを支配したい。
まるで見えない首輪をつけている様に。
閉じ込めて、管理して、徹底的に。
飼い慣らして、自分だけのものにしたい。
「ははっ」
愛でたい
「…ん、ふっあっっ」
「っ…はっ、」
本田の漏らした喘ぎに、また無意識のうちに笑いが漏れた。
———-
(あー…やってしまった…。)
「黒崎さんは男が好きなんですか?」
「…。」
さっきまでの可愛さは何処へやら、ブスッとした顔で本田は黒崎へ質問を投げた。
ただでさえ落ち込んでいる時に、どストレートで不躾な物言いだった。
(本気で調教してやろうかこのガキが。)
苛つきを込めて睨むと、本田は慌てて目を逸らす。
(ふん。小者め。…あーあ、しかしこれはまずいな。こんな事、本田が労働組合に駆け込んだら一発アウトだ。)
内心焦っていた。焦りからくる苛立ちで、室内で煙草を吸ってしまう程だ。
(何とか…こいつを言い包めなければ…。)
…。
よし。
騙すか。
明らかにこちらの方が分が悪いが、本田は騙せそうだ。
「宜しくな。恭弥。」
これからの事を匂わす様に、本田がこちらに逆らわない様に脅す意味を込めて言ってみた。
(これで少しは…)
「…。」
(何でだよ!)
こちらの意に反して、本田はまた期待の篭った目をこちらに向ける。
(…ま、まぁいい。)
もうこれで終わりだ。これ以上本田と関わると碌な事がない。
何故か残念だと思ってしまう自分を戒める様に、黒崎は心の中でそう呟いた。
————-
しかし本田は、言うなれば沼だった。
もう関わるのは辞めよう。もう辞めよう。
そう思うのに、馬鹿みたいな事をしてくる本田が面白くてつい相手をしてしまう。
エレベーターで擦り寄って来たのは可愛かったし、正直勃った。
(あー、手を出したい。ここで今すぐ。…もう一回だけ…。)
「……。」
「……っ、な、なんですか⁈」
「…もう夜中に馬鹿な事するなよ。」
しかしダメ。社内で、しかも部下が相手なんてハイリスク過ぎる。
自分の過ぎる性癖も自覚している。
欲望はコントロールすべきだ。
…本田は、自分と関わるべきじゃない。きっとこいつは平凡に生きるのが好きなんだ。
本田を残しエレベーターを降りた。
———-
なぜ…本田は……こんなにアホなのか。
「おはようございます!」
「…おはよう。」
(なのに、なんでお前はそうなんだ‼︎)
二人で外回りをする日、本田は何故満面の笑顔で出迎えてくれた。
上がりそうになる口角を、眉間に皺を寄せる事で必死に抑える。
(本田は変態だから後先考えずに靡いたのか?)
二人という空間に若干悶々としながらも、車内ではひたすらに事務処理を行い気分を紛らす。
そんな時だった。
「黒崎さん。」
本田が手を重ね、熱っぽい視線を送ってきた。
(…あー、やっぱりな。)
大方、映像を消させる脅しのネタのためこんな愚行に走ったのだろう。本田のポケットでスマホがピコピコと、録音を印して光っていた。
(なんだ…。)
分かっていたはずなのに、がっかりしてしまった。
本田の一挙一動に動く自分の感情を笑った。
「…は、はぁ…ちょっと、暑いですね。」
そうこうしていると、本田が次の手(?)に出らしい。
胸元を大きく開けてパタパタと扇ぎ、流し目でこちらを見た。
本田の色白の肌がチラチラと見え隠れする。
(肌が白いから、赤い首輪が似合いそうだ。)
「黒崎さんは、暑くないですか?」
本田が体を寄せてきた。衝動が湧き上がってくる。
「煽っているのか?」
「…え?別に…煽ってなんか、していません。…えぇ⁈何ですか?それとも黒崎さん、もしかして俺の事、そんな性的な目で見ているんですか⁈」
「……ふーん。」
(ほんとお前は…)
黒崎は本田を半ば呆れながら見つめる。
(……そういえば、キスはしなかったな。)
本田の白い肌に、ぷっくりと赤い唇。釘付けになる。
(遊んでやるか。)
目を開けたまま身体を傾ける。本田の顔を間近でまじまじと見つめた。
「…あっ」
本田はそのままキスをされる思っていたらしい。目をまん丸に見開き、間抜けズラを晒していた。
「『あ』?」
その、本田が目をパチクリする様に、吹き出して笑いそうになりグッと堪えた。口角が上がる。
「そうか。もしかして熱があるのか?大丈夫か?」
そんな本田を見ていると、無性に触りたくなった。無理矢理な理由をつけ、本田の身体に手を伸ばす。
本田の大きく空いたワイシャツの隙間から手を滑り込ませる。
「…っあ、」
首の筋を伝い、手をその下へ滑らせる。
すると本田が小さく喘ぐ。
その声に、黒崎は目をスッと細めた。
(本田は…プライドも高くて強気だから…逃げ道を少しだけ残して、繋ぐのは片手だけにして)
黒崎の手は本田の肩を指先で撫でた。
黒崎の手に合わせて、本田がびくりと体を捩る。
心持ち、本田の頬が赤くなった。
(逃げ惑うのを追い詰めて、屈服させて、虐めるだけ虐めたら最後は泣いて乞わせて)
黒崎の鋭い目線と合うと、本田の目が戸惑いで揺れる。
そんな顔も、晒さずにじっと強い目線で見つめた。
(最後は本田自ら動かせて、可愛い声で喘がせて…死ぬ程気持ち良くしてやりたい…)
ごくりと、本田が黒崎か、どちらが唾を飲む音がした。
『お前、おかしいよ。』
その時、あいつの声が頭の中に響いた。
そうだ。もうこんな事はしないと決めたのだ。
「俺、付き合ってる奴いるから。」
だから自分への戒めも込めて本田にそう言い放った。勿論、付き合っている奴なんていない。しかしそう言えば、本田はもう絡んでこないだろう。
———-
どうでもいいが、最近本田の元気がない。
いつも疲れている。
(風邪か?どうしたんだ?)
黒崎は仕事中、こっそりと本田を盗み見た。顔は心なしか赤く、ぼんやりとしている。
「……」
からまわっていても、仕事に対するやる気だけは異常にあったのに。
最近では仕事もおざなりだ。
(どうしたんだ…。)
黒崎はため息をつく。
自分もおかしい。
(…はぁ…今迄、自分は自分でコントロール出来たのに…)
本田が気になって仕方がない。
結局仕事が手につかず、午前を浪費してしまった。
そんな気分を変えるため、昼休みには人気のあまり無い研究棟で過ごすことにした。
このフロアの会議室は空いていることが多く、一人になるにはうってつけだった。
「ふー」
誰もいない会議室の椅子に座り、コツンとスマホを叩く。
そういえば、本田は自分があの時の映像を持っていると騒いでいた。
勿論すぐに消しているが…。残しておいても良かったな…。
「……はー、俺も大概だな…」
そんなこんなでダラダラとしていると、あっという間に午後の就業開始時間が迫る。
「トイレで顔でも洗って帰るか…」
悶々とした気持ちにここまで引きずられるのは始めてだ。
何故か分からない。
何故こんなにも本田の事が気になるのか。
カチャ…
「…」
暗いと思ったトイレ内には電気が付いていた。一番奥の個室を見ると、戸が閉まっている。やはり誰かいるらしい。
(人がいたか。)
ならば出ていこう。そう思った時だった。
「ぅぁっ…んっ、やめっ」
「…」
声が聞こえた。
しかも知った声だ。
(…本田)
足が動かず聞き耳を立ててしまう。
「なっ…うっ…もっ、無理だって…っ!」
「なんで?ギリギリで我慢するの好きじゃん?」
「んん…っ‼︎」
「ほら、だらしない顔ー!」
「そんな…っ!次、会議あ…っ!」
くちゅりとキスをする音と本田の喘ぎ声。
「はっ、ほらキス、ちゃんと出来たら、今夜あたり外してやっていいけど?」
「!…っふっ、」
(深谷…)
本田の相手は深谷の様だ。
あまり仲のいいイメージのない組み合わせだが。
「んっ、…ふっふふ、がっつくなよ、本田。」
「ふぅ、ふぅっ…っ」
本田の苦しそうな息遣いと、深谷の笑い声。
(しかし俺は…変態ホイホイか!俺の部下には変態しかいない…)
胸糞悪い。
(というか、合意の上なのか?)
本田がどのつくMといえど、本気で嫌がっていそうな声だ。
性癖が強いので読むのは難しいが、そもそも本田と深谷は仲が悪かった。
そんな二人が?
カチャリ
「あ」
「…っ」
思案していると、個室のドアが開いた。
最初に深谷が黒崎を見つけて声を上げる。
本田はその後ろで声にならない悲鳴をあげ、縮こまる。
人に見られたくないようだ。それもそうか。
「黒崎さんー、お疲れっす!」
深谷はやけにスッキリした様子だ。
差し詰め、自分はスッキリして本田には我慢させているのか。
いい趣味だ。
「こんな所で、珍しいですね!」
「開発チームに相談を受けてな。じゃ、俺は先に」
「はは、ちょっと。そんなに足早に帰らなくて良いですよ。」
人に気づかれたくなさそうな本田に気を遣い、さっさと帰ろうとするのに深谷は話を続ける。
「見て下さいよ!」
「ひっ、」
深谷が本田の手を引く。
「可愛いでしょ。俺の。発情中の本田!」
「…」
深谷は満面の笑顔で、本田の体をこちらに見せびらかす様に押し出した。
本田の顔は明らかに引き攣って青くなっている。
(………いや…発情中って……。こいつも知能指数の低い変態だな…)
無表情だが、黒崎は心の中で深谷の発言に不快感を感じていた。
「……そうか。じゃ」
「待て待てって!」
(……タメ口…)
「なんだ?」
コイツに上司を敬う気持ちがない事は初めから知っていたが、ここまであからさまなのは初めてだ。
それにしつこい。何が言いたい。
「だから!黒崎さん、」
深谷はぐいっと本田を引き寄せた。
「今後、本田に手を出したらダメですよ?」
そしてこちらを見て挑戦的に笑う。
「……それは、合意の上の行為か?」
「はは、そうですよ?本田は超ドマゾで可愛いんです!今日で寸止め我慢、2週間ちょいかな?」
「ね?」と深谷が本田の耳に口を寄せる。
それだけで本田は熱い息を吐き、ぎゅっと目を瞑り震える。
相当辛そうだ。
「毎晩毎晩、いく寸前で止めて、時々さっきみたいに日中も我慢させてるんです!すると、キスしてもご褒美貰おうと必死ですし、フェラも必死で、ちょー可愛くなりました!」
聞いてもないのに深谷は饒舌に、やけに目をキラキラとさせて捲し立てる。
正直、気持ち悪い。お前が1番気持ち悪いぞ、深谷。仕事だけしてろよ。
「勿論ご褒美ってのは…」
深谷はチュっと本田の頬にキスを落とした。
本田が小さく「あ」と漏らす。
そんな本田の体を、深谷は撫でた。
「…」
「……ふ、ぁっ、」
深谷の手に合わせて、本田がふるふると震える。
「本田のしゃせー、堰き止めてる玩具を外して、思いっっきり後に入れてやって、激しく、本田が訳分からなくまで後を虐めて、」
深谷の手が本田の尻を触る。
流石にと本田が抵抗するが、深谷はそれを諌めて続けた。
「本田はせーしが、うっっすく、水みたいになるまて、思いっっきり好きに出せるやーつ。」
「ふっ…ぁっ、う…〜っ」
かくりと本田が前屈みになる。
顔は真っ赤で息が荒い。
「ね?♡」
「…いっっ!」
おそらく貞操帯あたりをつけられているのだろう。
深谷が意地悪でふっと息を本田の耳にふく。
すると本田は「痛い」と涙目で震え、深谷の腕に縋る。
「………」
(俺は、何を見せられているのだ…。…羨ましい。)
いや、そうじゃない。
「まー、仕事だけしてくれれば何でもいい。業務に支障が出ない程度にしておけよ。」
「ふふ、はーい。本田にはよく言い聞かせときまーす!」
「…」
(なんか〜、すっごく、腹立つな…。)
しかし自分にはどうする事も出来ない。
本田と自分は何かできる関係性ではない。
本田がどんな顔をしていたのか、意図的に見ずに黒崎はその場を後にした。
そんな職場に似つかわしくない会話が交わされた後、本田と深谷は遅れて自分たちのフロアに戻ってきた。
本田は相変わらず辛そうに目を瞬かせたり、ソワソワと落ち着きがない。
(結局、業務に支障をきたしてるだろが、馬鹿!)
怒りで語彙力が死ぬ。仕事も手に付かず、生産性も最低だ。
他人なんてどうでも良い。
そのはずだったのに、不思議とこれは怒りで震えた。
(これは、何かフォローしなければ。)
あくまで、仕事のためだ。
決算期も近いというのに、こんな事ではいけない。
黒崎は本田の住所をこっそり調べた。
深谷に聞いてもらちがあかない。
本田に直接確認するつもりだった。