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お粥を食べるこちらをニコニコと見つめる、明るい茶色の双眼。
真っ直ぐと、穴が開くほど見つめてくる。
昔からこいつの目が嫌いだ。
「にこちゃ〜ん、おいしい?」
あとこの猫撫で声も嫌い。
何がにこちゃんだ。
裏表が激しくて、本当はこんな声じゃないってもう知ってる。
無視を決め込んで、ただただ腹を満たした。
(何故こんな事に…)
二子川(にこがわ)は、高校時代の事を思い出していた。

———-
「にこ先輩〜っ!」
「げっ!」
高校の帰り道、後方からキラキラとその整った顔にエフェクトがかかる男に声をかけられた。
対する二子川は、その走り寄ってきた男を見て顔を歪めた。
「もー!うざったい奴だな!」
「え〜いいじゃないですかぁ‼︎にこ先輩〜!」
下校時間、周りにいた生徒たちからクスクスと周りから笑い声が聞こえる。
周りがクスクスと笑うのも、二子川に腕を絡める功(こう)が容姿端麗、文武両道皆の人気者だからだ。それでいて人懐っこい功のこの仕草が、皆微笑ましいとすら思っているのだろう。
「じゃっ、金払え。」
「払ったらいいんですか⁈」
「いいぞ。」
始まりはそんな感じだった。
やがてくっつく、が手を繋ぐになり、手を繋ぐが抱きつくになって…。その度に功に払わせる金額も上乗せした。変だなとは思ったが、実家が貧しかったので正直助かる程度にしか思っていなかった。そもそも功の家は金持ちだ。金に価値なんて感じない奴だから、いいだろ位の軽い気持ち。
しかしそれに暗雲が立ち込めるのにそう時間はかからなかった。
「にこ先輩〜っ!俺っ、そろそろ次に進みたいっす。」
昼休み、功に買ってもらったジュースを飲んでいる時だった。
「いいぞー。じゃぁ、金額アップなー。」
「はーい♡」
二子川は功の方を見もせずに応じた。
しかし抱きつくの「次」ってなんだ?何するんだ?
「なぁーそれって…!」
何?
聞こうとした言葉は、言葉になる前に塞がれた。長いまつ毛を伏せた功の顔のドアップが、目の前にあったからだ。
功はいきなりキスをしてきた。しかも口に。
「っ!」
もがくと手を取られ、ドサリと押し倒された。
二子川が倒れても功は口を離さず、寧ろ角度を変えしつこさを増してきた。目が合うと、その綺麗な目だけでニッと笑いかけてくる。
「…っ‼︎ふざけんなっ!てか何してんの⁈」
ようやく唇が離れた隙に、二子川は喚き散らした。まだ功に両手を押さえ込まれて倒れたままだが、黙ってはいられなかった。
「えー、だってもうそろそろ次の段階行きたいですよ!やらせてくれても良いじゃないですかー!」
「……やっ、……や!?」
なにを?
「手を繋いで、抱きしめて、キスして…って、俺、ちゃんと順番踏んだでしょ?」
功は首をこてんと傾ける。何故か甘い雰囲気を醸し出しているが、見当違いなそれは逆に怖い。
「お、おまっ…」
青筋立てて戸惑う二子川を、功は甘く笑って見下ろした。
「それに今日は…にこ先輩と俺が付き合って半年記念の日です…!」
ぽっ、と音を立てて功は頬を染めた。
対する二子川は、もう何も言えずにぽかんと開いた口が塞がらない。
(つきあ…て、る?え?俺たち付き合ってたの?…え?金払って…?そもそも俺もこいつも男で…えぇ??)
「ふふ、今やっと思い出した!って顔ですか?」
功はまたもや見当違いな事を漏らし、今度は二子川の首筋にキスを落としてくる。
やけに粘着質なそれに、背筋に悪寒が走り肌が栗だつ。
「だからさ、もう…やらせて下さいよ〜セックス…ねぇ、にこ先輩、交尾!しよ♡」
(きもっ!)
興奮気味な調子で、功が耳元で囁いた。
足に当たる功のものもその気らしく、硬く芯を持っている。
嫌悪感から全身が総毛立つ。ゾッとした。
功は人とは思考回路がずれている奴だ。多分、サイコパスとかそっち系。
上っ面はいいが、こちらは功の冷徹な冷めた面も知っている。
それになにより体格差がある。
こちらは170pの平均身長、功はがっしりとした188p。
ぶっ飛んだこいつに正面切って話しても、聞き入れるどころかもっと恐ろしい事になりそうだ。
「い、一日一キス!ニ万!」
「…」
「その先は…その後!せめてっ、高校…卒業してから!」
そう考えた二子川は、功を押し留めて苦し紛れに声を上げた。
それから丁度1ヶ月後が高校の卒業式だったこともあり、その間に金をもらうだけ貰うと、二子川は功から全力で逃げた。

—————
それが、高校時代の話。
男の後輩相手に半ば売春の様な事をしていたなんて黒歴史、思い出したくもない。
「ほら〜ニコちゃん。ご飯食べなよ。遠慮しなくていいよ〜!」
(それなのに…)
ニコニコとこちらへ犬の餌を差し出す一生を、犬になった二子川は苦々しく睨んだ。
因みに別にそういういかがわしい遊びじゃない。
不思議な事に、二子川は本当に犬になってしまったのだ。芝犬。の雑種。耳が垂れている。
そして不幸な事に、功に拾われた。どうやら犬の自分が怪我をして倒れているところを、功が拾って獣医に見せ飼う事にしたらしい。
高校卒業以来、十数年会っていなかった功は立派な男前に育っていた。
堀が深い顔立ちに、クリッとした二重。髪の色は高校の時と違い黒い。真面目に何処かで働いているようだ。
「まだ食べれないかな?んー…ちょっと待ってね。お粥作ってあげる!」
それから暫くして、功は鰹節をかけたお粥を出してれた。
ドッグフードは流石に無理だがお粥ならいける。
「…。」
「…。」
「…どうしたの?」
「…。」
ベタつく視線を感じお粥から顔を上げると、案の定功がじっとこちらを見ていた。
嫌な感じがする。
そもそも功は、瀕死の犬が目の前にいたとしても可哀想なんて思わない人種だ。子供っぽい言動の裏では達観し、人を駒の様に扱う。
(何故、助けた?…まさか)
犬の姿の二子川はじっと自分のお粥を見つめた。これには毒が入っているかもしれない。
「大丈夫だよ。ちゃんと天然だしで作ったお粥だよ。犬の身体にも害はないよ。」
「…。」
ちょっとずれてるけど、無害らしい。ホッとしてまたお粥を食べ始めた。
功の意図は全く読めないが、空腹には逆らえず、二子川は気づけばお粥を完食していた。
やたらとこちらをニマニマと見つめる功には、最後まで不信感が拭えなかった。

———-
「…い。……ぐす…。」
その日の夜、リビングの一角に作られた自分のスペースで寝ていると、グスグスと誰かが泣く音がして目が覚めた。
最初は空耳だと思ったが確かに聞こえる。
「…」
無視して寝ようと思うのに、一度気になると中々寝れない。
二子川はその音に誘われる様に、ふらふらとリビングを出た。
功の現在の住まいはマンションにしては想像以上に広く、廊下もそこそこ長い。その廊下の突き当たりの部屋のドアが少し開いており、光が漏れ出ていた。泣き声もそこからする。
「…ぐすっ、にこ先輩……ずずっ、」
「…」
部屋に入って目に入った光景に我が目を疑う。部屋の入り口に背を向けて座った功が、パソコンの画面をみて泣いていた。パソコン画面は、犬の高さでは見えない。
「…あ、にこちゃん…」
「くぅぅぅん…」
とりあえず、鼻を鳴らす。
すると功が鼻を啜りながらこちらに手を伸ばしてきた。
何故か昔からこいつに手を伸ばされると、反射的に体が逃げを打つ。
それに今は特別嫌な予感がした。
(でも、見たい…)
功は二子川を膝の上に乗せた。
「…!」
そしてパソコン画面をみて驚愕した。
「ほら、俺の大切な人。」
画面には病院と思しき部屋で寝る二子川が映し出されていた。目を瞑った二子川はチューブで繋がれており、顔や体にはガーゼや包帯が巻かれていた。重症の意識不明患者という有様だ。
「事故に遭って…意識が戻らないんだ。俺の恋人。」
(恋人ではない。しかしこれは…)
二子川も何も考えられず、ただただ呆然と画面を覗き込んだ。
(そう言えば犬になる前…俺は何をしていたっけ…?思い出せない…。)
「…にこちゃん…。」
功が膝に乗せた犬の二子川の頭に、自分の顔を埋めた。
「この人とは、付き合って半年ちょっとで離れ離れになっちゃったんだけど、ずっと前から好きだったんだ。にこ先輩は、あった瞬間から他の人とは違った。」
「…。」
功がパソコン画面の中の二子川を撫でる。
「二つ上の先輩なんだけど、ちょっとお金に困ってるみたいだから、何かしてあげたいと思って、一番稼げる親の会社で働いたりさ…」
「…。」
「親とは、先輩と同じ高校に行きたくて進路で揉めてからはほぼ勘当状態だったんだけど、なんとか頭下げて…」
「…。」
「面倒なことや辛いこともあったけど
、先輩の笑顔が、見れるだけで幸せだった。」
(…ちょっ、ちょちょちょ!聞いてない!聞いてないよそんな事!俺の為にわざわざそんな事してたの?俺めっちゃダメな先輩じゃん!)
てっきり、親にたんまりお小遣いを貰っていると思っていた二子川にとって、功の告白は意外だった。
「先輩…笑って…先輩……」
そしてまた功は、画面の中の二子川を見てぽろぽろと涙を流した。
「俺は…どんな事でも、先輩の笑顔が見れればやって行けたのに…大学で先輩と別れて辛かった時も、就職直後に辛かった時も、仕事が辛い時も…」
(…ん?)
「先輩はジュース好きで、よく買ってあげたんだ。りんごのパックジュース。美味しそうに、ほっぺたをふくらまして飲んでた。」
功がくりくりと犬二子川の垂れた耳を触る。
(こんな時に悪いけど…手つきも気持ち悪いんだよなこいつ…)
押し倒されてされま交尾発言は、軽くトラウマだった。
二子川は身を揺すって功の手から逃げた。しかしまた直ぐに捕まり、耳を触られる。
「ふふっ、飲み終わった先輩のジュースのパックは捨てるふりして、毎回俺が回収してたんだ。間接キス…興奮したなぁ…。」
(は?)
「でも一番は、にこ先輩が水泳の授業中に、先輩のパンツを盗めた時だったなぁ。すげー興奮した!手に入れたパンツもだけど、ノーパンで一日中ソワソワしている先輩がちょー可愛かった!」
「…。」
「その時はそこで直ぐにでも押し倒したかったなぁ〜!俺も本当に良く我慢したよな…。俺はにこ先輩がノーパンなのは一応知らない体から、ふざけてお尻触ったりしてさ、にこ先輩の顔が真っ赤になって…」
先程までのしんみりは何処へやら、功は息を乱して怒涛の勢いで喋る。
ペラペラ喋りやがる。
(やっぱ…気持ち悪いなこいつ…。)
二子川はじとりと功を睨んだ。
大体、何故病院の一室をモニターできるのか。
それに先程の話ぶりも気になった。功が大学に入って、その後の就職してからも、まるでずっと二子川を見ていたような口ぶりだった。
「あ〜…にこ先輩…早く目を覚まして…」
チャリ…
「?」
「絶対死なせない…絶対逃がさないんだから…」
ブツブツ言いながら、功が徐に犬二子川の首に首輪を付ける。
突然の事に、二子川もされるがままだ。
そして二子川を床に座らせると、ぎゅっと首輪に付いているリードと机の脚を結ぶ。
机と首輪の距離は20センチ程度。
身動きが取れない。不安でソワソワと耳をパタつかせた。
「…」
チラリと功を仰ぎ見るとぺろりと舌舐めずりされ、嫌な予感倍増だ。

「何でかな…。にこちゃんに会った時、先輩に最初に会った時と同じ感覚を覚えた。にこちゃんは…先輩と同じ匂いがしたんだ。」
後ろから功がのし掛かり、何やらカチャカチャ始める。
「ただ一人、俺を興奮させる匂い。」
「!」
(こ、こいつ!本当最低だ!)
功は自身を取り出すと、犬の二子川の足に擦り付ける。
「ハァハァっ、あぁ、にこ先輩…にこ先輩ぃ…っ!」
(犬に何しやがる!動物虐待‼︎)
「ぎゃんっ!ぎゃんっ‼︎」
吠えて暴れるが、机の脚に繋がれているので限界がある。それでも可能な限りで何とか抵抗する。
「良いよぉー、はっ、にこちゃん…抵抗して!嫌がって!ほら〜、にこ先輩、入れちゃうよ?にこ先輩、もっと頑張って〜。もっと抵抗しないと入っちゃうよ?」
「きゃんっ!」
ガタガタと机が揺れる。
功は犬より犬のように息を乱して、ぐりぐりと自身を二子川の足の間に擦り付けてくる。
(に、にこ先輩って呼んでるしっ!胸糞悪いっ)
やはり、功は犬の二子川に二子川本人を重ね合わせているらしい。
「あははは!やっぱりにこちゃんは正解だったな!はぁー…、無理矢理、にこ先輩を襲ってるみたいで…はぁっ、すっごい、興奮する…っ!はぁっ‼︎」
二子川はめちゃくちゃに暴れた。
そんな攻防をする事数分、のしかかる功が息をつめた。二子川がギクリと身体を硬らせる。
(…さっ!)
足に生暖かいものがかかる。
その瞬間、ゾッと悪寒が背筋を走り抜ける。二子川は驚きと不快感で飛び上がった。
「っ‼︎」
その衝撃でパソコンのモニターが倒れ落ち、功の頭に落ちる。直撃だ。
功はうめき、どさりと倒れる。
(し、死んだ?……………やった‼︎……あ、思わず殺して喜んでしまった。)
正直、功が死んでくれるのは嬉しい。
しかし二子川は未だ犬のままだ。カリカリと首輪を引っ掻くが取れそうにない。
(…)
チラリと後ろを見ると、ずらしたボトムスから自身を覗かせた功が、二子川の腰に抱きついて倒れていた。
(こんな動物虐待サイコにくっつかれて、餓死とか…なんとしても回避したい!)
四苦八苦する事数分後、身体にズキズキとした痛みが走る。
(…っ)
その痛みに目をギュッと閉じると、意識が僅かにとんだ。そして次に目を開けた時、妙な感覚がした。
目を擦ろうとして、
(あぁ、犬の姿でそれは無理か…)
と思ったはずが、5本指の手が目に入った。
「おお!戻った!」
規則性が分からないが、どうやら人に戻れた様だ。
「…まっぱかよ…。」
しかし二子川は全裸で首輪、しかもテーブルに繋がれた何とも危うい姿だった。
ただ、幸いにこれで首輪は取れる。
「…うっ」
「っ!」
そう息をついた時だった。功が小さく呻く。
(生きてやがった!くそが死んどけよ!)
「ぐっ!」
思わずもう一発、二子川はグーで功の頭を殴った。
(本当、胸糞悪い…!)
功はまた唸って、黙った。でも多分死んでないだろう。
二子川的に、功には死んで欲しい。しかし流石に殺す勇気はない。
慌てて功の下から這いずり出る。そもそも犬に自分を重ねて興奮する功だ。こんな姿(全裸)で、功の家を彷徨いる事がバレたら速攻で襲われる。
何とかこのまま、功にバレずにこの家を脱出しないと。
「なんて家だよ…」
功の家はまるで迷路の様に広く、何故か一階の全ての窓には鉄格子がハマっている。
「とりあえず…服だな。」
べちゃ…
「……いや、まずは…足を洗うか…」
功の精液が足を伝う。不快感が半端ない。もう数発、殴れば良かった。
そう考えながら扉を開けると、たまたま風呂場の扉を引き当てた。
入ると、それは広い屋敷に見合った大きな風呂場だった。浴槽も大きい。
(功は確かに金持ちだったけど…いちいち違和感を感じる家だな。)
一人暮らしでこの広い家に住んでいるのか。
もし同居人がいるなら、そちらにも気をつけないといけない。
二子川は神経が刻一刻とすり減るのを感じながら、手早く足を水で流した。
「よし、次こそ服…」
「にこちゃーん?」
(功⁈)
蛇口を止めたところで、功の声がした。
こちらを呼んでいる。
「ごめんねーにこちゃ〜ん!びっくりしちゃったかな…」
(びっくりどころじゃない!クソ野郎!)
二子川はギリギリと奥歯を噛み締める。もう何発かぶん殴りたいが、このままでまずい。
浴室の窓を覗くが、ここもやっぱり鉄格子付きだ。本当に変な家だ。
「にこちゃーん、仲直りしよ〜よ」
どんどん功の声が近づいてくる。
「にこちゃ〜ん?ふふ、にこちゃん、俺の精子垂らしながら歩いてるの?かっわいい〜!」
どうやら功のものが垂れていたらしい。
功は迷いなくこちらへ向かう。
(…や、やるか!)
二子川は脱衣所に出ると、功を迎え撃つべく風呂場にあったブラシ片手に構えた。
「…っ!」
その時、また身体にズキズキとした痛みが走る。
段々と痛みは強くなり、立っていられなくなる。堪らずどさりとその場に倒れ、意識が遠のいで行った。

———
また犬に戻っている。
規則性が分からない。

「にこちゃん、目が覚めた?」
気がつくと、功の膝の上に頭を乗せて寝ていた。
功に犬の姿をしているが二子川本人だとバレなくて良かったという気持ちと、また戻ってしまったという残念な気持ちが半々でしょんぼりだ。
そんな中、功がまた耳を触ってくるのが不快で身を竦めると首元に違和感があった。
「…」
また首輪が付けられている。
ため息をついて再び項垂れた。
「ふふふ、にこちゃん疲れちゃったかな?」
(お前のせいでな。)
くすくすと笑いながら、功は二子川の頭を撫でる。
撫で方がやけに粘っこくて気持ち悪い。
愛しい恋人への劣情を抱いて、堪らず触れる様な。
何となく功の自身、二子川の頭を置いている所が硬いようで気になる。
いやただ、ファスナー箇所だから硬いだけかも知れない。先程の事があるから過敏になってしまう。
「……にこちゃん、どうやって首輪外したの?」
頭を撫でていた功がポツリともらした。
「シャワーも浴びて…」
「…」
するすると功の手が首輪にかかる。
「まるで本当の人間みたいだね?」
急に首輪を引かれ、無理矢理に目線を合わせられる。
見上げた先の功はもう笑っていなかった。探る様に目を細めて、こちらをじっと見ている。
二子川の瞳孔が開き、動揺を隠したいのに瞳が揺れてしまう。
「…にこ先輩なの?」
「…」
こちらの一挙一動をも見逃さない様になのか、功は能面の様に無表情のまま続けた。
「にこ先輩、本当に先輩なら、『わん』って鳴いて。」
「…」
(…鳴いた方が…良いのか?)
病院をモニターしていたりと、今の功は何かしらの権力なり財力なり持っていそうだ。
(力には…なってくれるかも知れない。)
正直、心が揺らいだ。
「にこ先輩?」
(…でもダメだ。功の求める関係に…俺はなれないよ。)
二子川はふっと、功から目線を外した。
「……ふーん。」
そんな二子川を見て、功は口角を上げる。
(…な、何が?どういう「ふーん」?バレたのか?)
落ち込むかと思ったのに。二子川の予想に反して功は不敵に笑っていた。
肉球が汗でじっとりとする。
「分かった♡」
「…」
クスクスと不気味に笑い、功は犬二子川の鼻先にキスを落とした。
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