この言葉には

※人身売買パロ「その言葉には」の続き


蒼い瞳の彼は、僕の希望通り毎日「好きだ」と言ってくれた。
毎日毎日飽きもせず、繰り返し言い続けてくれている。
ある日僕が「抱き締めて欲しい」とお願いすると、それも快く受け入れてもらえた。
人に触れるというのは、どんな感じなのだろう……ただの好奇心だったんだ。
以前僕が居た場所では、誰とも触れ合った事が無かったから。

その頃の僕はとても小さかったから、彼の腕にすっぽりと納まってしまう。そこは、とても温かかった。
抱き締められるというのは、こんなにも気持ちの良いものなのかと感動したのを覚えている。

彼との生活はとても穏やかなものだった。

そんな日々を送る中、いつしか僕は彼の身長を追い越していたようだ。
見上げてばかりいた彼の瞳を、初めて見下ろした時、僕は彼の名前を呼びたくなった。

「ねぇ、何て呼べばいい?」

今迄彼の方は僕を総司と呼んでいたけれど、僕は何と呼べば良いか分からなくて、呼んだ事が無かったんだ。

「俺は、斎藤一だ」
「斎藤さん……?」

僕がそう呼ぶと、彼は微笑んだ。あぁやっぱり花が綻ぶようだと、何と美しいのだろうかと目を奪われる。

「これだけ長く一緒に居るのに、その呼び方では余りにも他人行儀ではないか?」
「たにんぎょうぎって、何?」
「他人のようで、打ち解けていないという事だ」
「……僕は、他人じゃないの?」

僕の質問に彼は答えてくれなくて、呼び方をまた考えることになった。

「じゃあ、一さんならいい?」

そう訊くと、彼は微笑んで「さんは要らない」と言う。

「はじめ……?」

呼んでみたけれど、今度は僕がしっくりこない。
何だかぎこちない気がしたんだ。

「あ、"はじめくん"は? うん、一君がいいな」
「総司が呼びたいなら、それでいい」
「じゃあ一君ね! ねぇ、一君」

言いながら、僕の方から初めて彼を抱き締めた。

「好きだよ」

それから、ずっと言ってもらってばかりだった言葉も初めて口にする。
腕の中の一君を確認すると、彼は涙を浮かべていた。

あぁやっぱり、この言葉には呪(まじな)いが掛かっているんだと僕は思った。
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