綺麗なものを汚すのは簡単だと知ったのはいつだったろう。
埃ひとつない絨毯にジュースをぶちまけた時か、訓練で殺されかけた時か、初めて人を殺した時か。同年代の奴らよりはそれを知るのが早かったと思う。友達がいないから確かなことはわからないけど。
そんなオレが初めて汚したくないと思ったのが、土と血で汚れた女だった。
「キルアの髪は銀色なんだねぇ」
自称"世界から追い出された可哀想な女"は、そう言う割にいつもヘラヘラ笑っている。そしてバカだ。頭はいいが言動がバカだ。"その時"も水と酒を間違えたというバカな理由で酔っ払っていたから。
「私おじいちゃんみたいに白い髪なのかと思ってたよ〜」
「オレは10歳だ! ほら、水持ってきたから飲め!」
「あひゃひゃひゃ! キルアがたくさんいる〜! ウケる〜」
「ウケんな!!」
怒鳴る勢いのままペットボトルを無理矢理口に突っ込む。うぐ、と苦しげな声を出しながらも素直に喉を上下させる様子は何故か見てはいけないようなものの気がして目をそらした。
「……落ち着いたか?」
「んー……眠い」
ペットボトルが空になったところで回収する。漸く静かにはなったが今度は眠そうに目を擦っている。目が赤くなるからとその手を掴もうとすると、逆に手を掴まれた。じわじわと触れているそこが熱くなってくる。
「お、おい離せよ」
「……とうに、」
「は?」
「本当に、アメストリスじゃないんだね」
まるで今すぐここから消えそうな声だった。
冷水をぶっかけられたような、というのは今のオレみたいな状態のことを言うんだろう。熱かった全身が急に冷たくなった。
固まるオレに気付かない酔っ払いは追い討ちをかけるように、更に冷水を浴びせてくる。
「きれいな金色が見たいなぁ」
「ふふ、青い背中でもいいけど」
やめろ。汚すな。"これ"だけは汚したくないのに。
「寂しいなぁ。……かえりたいなぁ」
大切に。
大切に、したかったのに。綺麗で真っ白なままでいてほしかったのに。
お前がそれを、汚すなよ。
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