元の世界に帰れない。
愕然とするあいつを見て罪悪感が湧かなかったといえば嘘になる。でもそれを上回る程の歓喜があったのも事実で、本当に汚れたなと自嘲した。
「……そっか。帰れないんだ」
いっそ泣けばいいものを、こいつは頑として泣かない。顔を下に向けて大きく深呼吸をする様子は痛々しく、またオレでは越えることができない"あっちの人間"を想っているのが否が応でも伝わってきて、またぐちゃぐちゃに黒いもので塗りつぶされる。
「帰る場所がないなら、オレんとこに来ればいい」
「……え」
上下していた肩が止まる。恐る恐る上げられた顔は真っ白だった。伸ばしかけた手を制してまぬけな顔を真っ直ぐ見る。
「何だよ。オレじゃ不満か」
「え、いや、そうじゃなくて……え? キルア頭大丈夫?」
「人が気遣ってやってんのに失礼な奴だなお前は!」
本気で心配そうな顔をするバカにそうだこいつは頭はいいけどバカだったと思い出す。それでも吐き出した言葉を訂正する気は更々ない。そんなバカが欲しいと思うから仕方ないだろう。
例え傷心中の心に突きいるようなことでも、それで落ちてくるなら、それでいい。
「そもそもオレんとこって、キルア今家出中じゃん。ここ私の家だよ」
「う、うっせーな! 言葉の綾だよ!」
「それに今の言い方だとプロポーズみたいだけど」
「は!? ばっ…ちげーよ! 調子乗んな!」
噛み付くように言い返すと真っ白だった顔に赤みが戻ってきたことに気付いた。そしてクスクスと笑い出したから何か言ってやろうと口を開きかけて——止めた。あいつの目から次々に涙が出ていたから。
「ふふっ……! おかしいっ……」
「……バカ。泣きたいのか笑いたいのかどっちだよ」
「笑いたいよ……でも涙も出てくる。ふふ、変だね」
ああ、変だよ。そうさせた原因がオレだと思ったら、すげー嬉しく思うんだから。早く早く、堕ちてこないかと初めて思ったんだから。
ありがとうと笑う顔に今度こそ手を伸ばす。触れたところから暖かくなるのが気持ちよくて、両手で頬を包んだ。気を許したように目を瞑るこいつに複雑な想いをしつつ、しばらくそのままでいた。
←→
←←
▲top
ALICE+