コンコン、とノック音が部屋に響く。執務室で書類整理をしていたジョットは肩を跳ねさせ、その扉を見た。
「……入ってくれ」
そうすると開く扉。立派な机に積み重なった書類を端に一纏めにし、ジョットは相手に気付かれないように息を吐く。
「こんにちは、お兄さん」
「ああ。いい天気だね、ユキ」
ジョットができるだけにこやかにそう返事を返すと、ユキもまたにっこり笑って部屋に入る。音をなく扉を閉めるところは流石令嬢か、という思いだ。
「お兄さん、書類は順調ですか?」
「ああ。さっきまで庭を散歩していたんだがGに見つかってな。あと2時間あれば一段落つきそうだ」
「2時間……長いですね」
「はは、もう慣れたさ」
「でしょうね。お兄さんはいつも逃げては赤髪のお兄さんに捕まって溜めた書類を片付けてそうです」
「は、はは……」
当たってるだけに言い返せない。
頬を引きつらせるジョットを他所にユキは肩から掛けていたバッグから本を取り出す。そして来客用のソファに座るとそれを読み出した。
「では私は読書して待ってますね」
「え? ……待つなら誰か呼ぶか? 一人で読書というのも退屈だろう」
「いえ、お気になさらず」
ジョットの言葉をやんわりと拒絶するが、ジョットは気になるらしい。内線を使ってどこかへ連絡しようとしたのだろうが、ユキがお兄さん、と呼ぶとその手を止めた。
「お気遣い結構ですよ、お兄さん」
「しかし女性を一人待たせるというのも……」
「生粋のイタリア人ですねぇお兄さん。でも本当に大丈夫です」
読んでいたページを指で挟み顔をあげる。困った顔をするジョットににこりと笑いかけ、お兄さん、と今度は甘さを含んだ声で呼んだ。ジョットの肩が揺れる。
「私は待つなんて苦じゃないです。お兄さんと二人きりというのが何より嬉しいんですよ」
そんなドロドロに甘い台詞を甘い笑顔で言われたら人を呼ぶに呼べない。己の顔が赤いのがわかるから余計にだ。本当にこの娘には敵う気がしない。
「そんなわけで早く終わらせてくださいね、お兄さん?」
「……ああ、少し待たせる」
「はい」
嬉しそうに笑う少女にまた胸が高鳴り、しかしそんな気持ちを消すようにジョットは再び書類に向き直った。
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