元よりかわいいものは好きだった。自分にはないものだからだろうか? かわいいは正義という言葉があるが、自分に正義などありはしない。だからこそ好きだ。
狂人染みた性格なのは自覚しているが直そうとは思わない。これはこれで気に入っている。しかしこの性格のせいでかわいいものは離れていってしまう。その時だけは自分の性格を恨んだが、すぐに他の子もいると切り替えることができた。
「あれれ〜? どうしてお兄さんの服の袖に血が着いてるんだろう?」
こてん、とあざとく首を傾げながらも、澄んだ海のような瞳は鋭い。殺人事件に立ち会わせてしまった自分がさりげなく逃げようとしたその瞬間、自分の腰ほどの背丈の子供は表向きは不思議そうにそう口にした。きっと言葉裏には逃がすかという思いがこめられているのだろう。
「まるで誰か殺したみたいだね!」
「こっ、こらコナン君!」
当たり。でも自分は事件にされるような下手な殺しはしない。「そうかな?」と曖昧に笑ってみせると眼鏡をかけた子供は大きく頷いた。そして手首をちょいちょいと曲げて同じ目線になるように指示する。大人しく従うと子供は自分の耳に顔を近づけた。……おや、こうして見れば中々好みの顔をしている。
「でもお兄さん、この事件とは無関係だよね」
自分の思いなど露知らずの子供はそんなことを言った。全てお見通しとばかりの目に警戒心と好奇心を灯して。
……ああ、いいな、この子。ゾクゾクする。
「どうしてそう思うのかな?」
「簡単なことだよ。被害者は刺殺。でもお兄さんからは硝煙の臭いがする。つまりこの事件とは関係ないけど、どこかで拳銃を使ったんじゃないかなって」
袖の血はその時に着いたんじゃない? と挑戦的に自分を見る子供。確かにその通り。でも人殺しだと確信してるのにこうやって耳元で小声で話すなんて些か不用心がすぎると思う。好みの子は大事に扱う性格の自分だからよかったものの、同僚の人間だったなら迷わず殺されていただろうに。
「ねぇお兄さん、早く帰りたいんだよね? さっきから携帯をよく見てるし」
「上司と待ち合わせしてるんだ。時間にうるさい人でね」
1分でも遅れようものなら一発撃ってくる程には。まあ避けるけど。
「上司って……もしかしてお兄さん、悪い人?」
瞳から好奇心を退けて警戒心を露にした子供に笑いかける。すると何故か子供は身を一歩引いた。その腕をつかむ。ピクリと反応したそこから伝わるのは少しの怯え。
「ふふ。ナイショ」
硝煙の香りが色濃くするであろう利き手を子供の頭にぽんと乗せる。同時に子供は大袈裟に肩を跳ねさせた。……かわいい。思わず手をとって口付ける。
「!? なにして」
「知りたかったら僕がいなくなった言い訳を警察にしておいて。本当はバレたら消さないといけないんだけど、キミはかわいいから見逃してあげるよ」
また会いに行くねと耳元で囁けば子供は耳を抑えて勢いよく自分から離れた。先程まで利発そうな子供の顔だったのに、今は顔を真っ赤にして目を白黒させている。
ああもう、かわいい。もしかしたら自分はすごい子と出会ってしまったのかもしれない。
うっとりと目を細めると子供はひっと小さく声をあげた。まだこの子供と話していたいけど仕方ない。そろそろ待ち合わせに行かないと、本当に撃たれてしまう。
「ばいばい」
——自分の性格が狂人染みていることは知っている。そのせいでかわいいものが離れていこうとも、今までは大して気にしなかった。
しかし、しかしだ。自分は出会ってしまったのだ。自分の本質を見抜いてなお、関わってきた子供。それどころか自首を勧めてきた。そんなこと、自分がするはずないのに。なんとも正義感の溢れた愚かで可愛らしい子供だ。
「コナン君、ね」
少し調べてみようか。あのかわいい顔の裏で何を思っているのか。それを暴いてあの子に会いに行けば、また新たな表情が見られるかもしれない。
あの子はきっと、くせになる子だと思うから。
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