深夜三時の万事屋には私と銀時が二人。流れる音はチッチッと鳴る時計と古い冷蔵庫の可動音だけ。神楽ちゃんがいれば小さな寝息も聞こえたのかもしれないけど、今日は志村宅にお泊まりだ。
 だから今万事屋には、来客用の椅子に座る私と、目の前で板張りの床に正座している銀時もといマダオの二人きり。
 デジャヴである。

「で? 言い訳は」
「……いや〜、そのォ〜」
「うん」
「…………俺にも何がなんだか……」
「何がなんだかわからない内に長谷川さんとヤったのね」
「違う!!!!」

 頭突きする勢いで否定してきたマダオに対し、特に動揺することなく足を組み替える。毎度の如くあーだこーだと叫んでいるが、私の口からは「へー」「ふーん」「そうなんだ〜」しか出てこない。あ、人差し指が逆剥けしてる。

「だから!! 俺にはお前だけなんだって!!」
「うん。で、言い訳は?」
「今したんですけど!?」
「銀時が私を好きなのはわかってるよ。お登勢さん達と同棲するときに家までわざわざ理由を話しに来てくれたもんね。そこは疑ってないよ」
「そ、そう! 俺ちゃんと話したよな!? 何もしてない証拠を掴むために——」
「うんうん、ドッキリに加担していたから全部知っていたけどそれは嬉しかった。誠実であろうとしてくれたのよね。色々やらかしたみたいだけど」
「それ俺じゃなくてカラクリ!! てか見てたならわかるだろ!? 俺は無罪だ!!」
「長谷川さんに突っ込んだのに?」
「つっ……こんで……」
「ないと言い切れるの? あれだけ酔って記憶を失くしておいて」
「…………」
「はい、では言い訳をどうぞ?」

 コツコツコツ。木製の腕置きを指で叩きながら、ゆっくりと首を傾げる。表情も作らず、感情も乗せず。電気を点けていない室内は月明かりでぼんやりと照らされており、私からは銀時の髪色が淡く光っているように見える。きれいだ。そう呑気に思っているのは私だけで、銀時はきっと違う。
 怖がりの銀時から見ればこの状況と部屋の暗さが相まって、それはそれはホラーに演出されていることだろう。顔色が真っ青から青白く変化したのがその証拠。そうなるように仕向けたのは私だけど、幽霊のように見られるのは心外だ。

「ま、まだドッキリ中だったりとか」
「しないよ。私達みんな銀時にずっと構ってられるほど暇じゃないの。あとマダオ同士でにおわせても悪臭しか出ないことはしない」
「俺だってそこまで堕ちてねェよ……!!」

 頭を抱え出したマダオに溜息が止まらない。デジャヴ、というよりはただ単によく見る光景なだけか。一度お灸を据えるべきだろうか。穴だけに。笑えないから物理的に突くのもありかもしれない。どこって、ドコを。
 受け答え次第では実行しようと考えていると、何やら感じ取ったらしいマダオが焦ったように手を握り込んできた。言い訳は決まったらしい。私も聞く体勢になる。

「あの、ほら、正月!! 一緒に初詣行こう!! な!!」
「うん、それで?」
「酒もやめる!!」
「うん、それで?」
「そ、それで? えーとえーと、じゃあ大晦日うちに泊まってひめはじ——」
「突っ込まれたいの?」
「——ていうのは冗談で!! とにかく何でもするから許してくれ!!」

 ついには土下座まで披露してくれたマダオにどうしようかなと顎に指を添える。銀時の土下座なんて親の顔より見てきたしこのまま許すつもりは毛頭ないけれど、今回は事が事だ。しかも相手は男、そして小汚いマダオ。私とて不貞をしていないと信じたい。
 つまり銀時が無実な証拠、ついでにお仕置きも兼ねたことができれば御の字。最悪証拠は得られなくても私の気が済むまで虐めればいいし。

「そうね、検査してきてくれる?」
「……は?」
「検査。性病になってたら困るし」
「長谷川さんを性病扱いすんじゃねェよ!! つかヤってねェし!! 銀さんの銀さんは健康そのものだし!!」
「その証拠のための検査でしょ。ちゃんとかぶき町から遠い病院に行って、費用は自分で出すこと。結果もちゃんと見せてね。もし改竄したら一生糖分摂らせないしセックスもしない」
「一生!?」
「一生。絶対。なんなら去勢する」
「ヒッ」
「大丈夫よ。改竄しなかったらいいだけだもの」

 マダオは顔を青ざめさせ内股になったまま動かない。握られた手も暖められるどころか冷たさが私にも伝わってくる。

「か、仮に、仮にだよ? 万が一、いや億が一にもあり得ないんだけど、もしもの話として」
「うん」
「結果がよくなかったらどうなんの……?」
「どうもしない。銀時は長谷川さんと本当にヤったんだなーって思いながらセックスするだけ」

 マダオが震え出した。携帯のマナーモードより小刻みだしうるさい。小さな声でごめんなさいごめんなさいを繰り返し言っていて少しこわいが、情けなさの方が上回る。

「別れないだけいいと思うんだけどなあ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「はいはい。検査行く? 私も一緒に行こうか?」
「ひとりでいきます……」
「明日行ってきてね」
「ハイ」

 本当に情けなくてどうしようもないマダオだ。それをかわいいと思う私もきっと、どうしようもないのだけど。






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