静かな夜。船の近くにある家の前で一人、月明かりを頼りに本を読んでいた私は小さな足音と微かな気配に顔をあげた。

「悪い、待たせた」
「いえ。大丈夫です」

 本を閉じてお疲れさまです、と頭を下げる私に伸びてくる手を一歩下がることで避ける。相手が苦笑する気配がしたが無視して船へと歩き出した。

「麦わらのルフィに会えたらしいですね」
「ああ。ユキも会えばよかったのに」
「彼と私は接点がありませんから。それに折角の兄弟の再会を邪魔したくないです」

 サクサクと歩く私に合わせているんだろう。参謀長の足音はゆっくりしたものだ。足の長さが違うから仕方ないけど少しムカつく。

「別に邪魔じゃない。ルフィはそんなこと気にする奴じゃねぇよ」
「私の気持ちの問題です。それに麦わらと会ったら余計なこと言われそうですし」

 主におれの恋人だ、とか。
 そう言うと参謀長はうっ、と言葉に詰まるのだからいただけない。やっぱ着いてかなくてよかった。それ以前にドフラミンゴに関わりたくないというのもあったけど。

「参謀長は"あの日"から遠慮がなくなりましたからね。油断も隙もあったもんじゃないです」
「おれから言わせればユキはいつでも隙だらけだけどな」
「何開き直ってるんですか。そもそも私に何かする度胸なんてないくせに」
「……それはわかんねぇぞ?」
「へ……、わっ」

 ぐいっと腕を掴まれ、無理矢理体を反転させられる。そのまま背中に壁があたり、目の前には参謀長の顔。横には体を支えるようにして肘がついてある。

「……壁ドンにしてはやるのが少し遅いですね。流行は波に乗っている時にやらないと気分が萎えますよ」
「お前は本当に空気読まねえな……わざとか?」
「思ったことを言っただけです。この際言わせてもらいますが、参謀長のその気持ちは勘違いですよ。幼い頃は親しかった友人が仕事で疎遠になったことで寂しくなり、それを恋心と勘違いした。それだけです」

 ていうかそれ以外考えられない。万が一勘違いじゃなかったとしても一時的なものだろう。参謀長だって色んなお姉様方とそれなりに付き合ってきたんだし。
 私なんてそこら辺にいる女より少し付き合いが長いだけ。仕事だと言われれば友人関係もきっぱり切れるような人間だ。我ながら冷たい奴だと思う。

「というわけで離してください。コアラ達が待ってます」

 やんわりと参謀長の胸板を押すも、参謀長は離れない。訝しげに見上げると参謀長は泣きそうな顔をしていた。

「え」

 え、待って、ええ!? 何で泣きそうなの!? 私のせい!? そりゃあ離れてとは言ったけど普通こんな状況なら仕事関係はおろか友達でも嫌だよ! いやイケメンに壁ドンしてもらえてラッキーとは思ったけども。

「さ、参謀長?」
「……何で信じてくんねーんだよ」
「は?」
「おれはユキが好きだ。ずっと、出会った時から」
「……」

 それはもしや一目惚れというやつですか参謀長。いやいやでも、なら今まで付き合っていたお姉様方は何なんだ。ずっと好きなら何で付き合ってんだって話だよ。

「なのにユキはおれを友達としか思ってねぇし……いつの間にか名前じゃなくて参謀長って呼んでるし……恋人作っても全然興味なさそうだし……」
「え、あ……なんかゴメンナサイ」

 そ、そうだったのか。今までの不可解な行動はすべて私の気を引こうとしていたのか。わかりにくいな参謀長。そしてかわいいな。じゃあ直接言えやって感じだけど。

「終いにはおれの気持ちを勘違いって言いやがるし……」
「う……」

 だって、ねえ? 参謀長ほどの有料物件に恋されるなんて誰が思うよ。これが物語なら面白いけど、実際言われると信じれるか。私は全くあなたには釣り合いません。ついでに言えば性格も悪いからね私。

「でも好きなんだよなぁ……」
「っ」

 こつん、と私の肩に頭を乗せる参謀長に一瞬どきりとする。思わず体が硬直して、いやいやコイツは天然タラシだと自分に言い聞かせた。
 じゃないとこんな、切なそうな声で言われたら——

「……船に戻りましょう。皆待ってます」
「ユキ、」
「ダメです。……これ以上世迷い言を言うなら本当に嫌いになるから、やめて」

 最後の方の言葉は震えていたけど、バレなかっただろうか。
 そっと離れた参謀長に小さくお礼を言い、黙って歩き出した。






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