これの別ルート

***

 ゴンの言葉が、暗く沈澱した頭の中を反芻する。
――とも、だち。キレイじゃ、ない。
 否定の言葉が、心臓に浸透せんとする、その言葉を跳ねつける。そんなこと、ない。そんなことは絶対にないんだ、ゴン。

「……うそ。だってゴンはこんなに、こんなに眩しくて明るくて、こんな、こんな私にだって優しくて、こんなふうにしてくれるのだって――世界中どこに行ったって……っ!」
「うそじゃない!オレは自分勝手だし、オレが優しくするのはユキが大切な友達だから……っ」
「――やめてっ!!」

 咄嗟に身を守った拒絶は、ゴンの言葉を打ち消した。
 優しく触れてくれた手のひらを力任せに鷲掴み、ひたいに押しつけると、両手が小刻みに震えている事に気付いた。

 ほら、だって、こんなにも違う。この死体のように、冷えて感覚の鈍くなる手に掴まれていても、ゴンの手はずっと暖かくて、ずっと力強くて、私とは違う。全くのベツモノだ。
 そしてそれが、それだけが、私の救いなのだ。

 お願いだから、否定しないで。私のゴンを、私の唯一の光を、私の――カミサマを、取り上げないで。

 神に祈るように縋るユキは、ゴンがどんな表情で、どんな気持ちで自分を見ているかなど、微塵も頭になかった。その否定がゴン自身を否定しているものだという事も、分かり合えない友に縋られるゴンが、歯痒く虚しい想いをしているのだという事も。

 まるで盲信だと……ゴンは手の力を抜いた。

***

梅さん「ここで力を抜かなかったらゴンのハイパー力技自論にて夢主がはいというまで徹底口論がはじまる」


梅さん「はじめてみた」

***

 ゴンは腕に力を込めた。

「……ナニソレ。そんなの、オレじゃないよ」

 縋るこの手を傷つけないように、されどユキに負けぬ拒絶を持ってして、ゆっくりと手を引き抜く。震える声でオレの名前を呼ぶユキは、引き止めようとガチガチに固まった両手に無理矢理力を入れ、それがうまくいかずいっそう血の気を失っていた。
 待って、と繰り返すユキは取り返しのつかない過ちを犯したとでも言いたげな絶望を内から持ち出し、そんなユキにオレは苛立ちを募らせた。

「オレはユキの言うような人間なんかじゃない。人を傷つけた事もあるし、たまにはズルい事だってする。ガンコだし、でも譲れない。オレはそういう人間だし、カミサマなんかじゃない」
「で、でも……」
「ちゃんと聞いて」

 戸惑いを見せるユキの、力の入っていない両手から少しずつ指を引き剥がす。
 オレが怒ってるから、びっくりして隙ができたんだ。今なら、もしかして今なら届くかもしれない。

「ちゃんと、オレの事見たことある? オレが今なんで怒ってるか分かってる? 分かんないよね。ユキがすっごいムカつくこと言うんだもん。オレがカミサマだからユキに優しくするの? 一緒にいるの? あのね、ぜーんぜん違うから!オレが一緒にいたいから、優しくしたいからするんだよ。勝手に決めつけられるのも、オレのそーいうのがぜーんぜん届いてなかったのも、ムカつく」
「む、ムカつく……」

 呆然とするユキは、オレの言葉を繰り返す。ふい、と逃げる視線を顔ごと掴まえる。まんまるに開かれた両目は、もう二度と逃したくない。思い知らせたい。焦がれさせたい。ちゃんと、オレをみて。じゃないとなんにも意味がない。

「オレは、ユキのカミサマになんかなりたくない。そんなのじゃなくて、ちゃんとオレを見てよ。カミサマなんかより、ずっとそばにいるよ」

 約束、と強引に小指を絡める。目をぱちくりさせ、ほうけるユキをいいことに、どんどんと約束ごとを一方的に追加していく。カミサマなんて屁理屈でオレを見ないのはダメ、言いたいことがあればちゃんと言う、勝手に人を決めつけない、勝手に離れない、えーとそれから、と後半はただのワガママも思いつく限り連ねて、はい、と親指を立てる。どんなに無理矢理でも、最後はユキがしなければ意味を成さず、なおかつ一番重要なことがあるのだ。

 そして変わらず呆け顔のユキは、次第に強張った口元を緩め、視線を約束の指へと落とした。そのまま数秒考える間を持って――再び視線がオレへと戻ってきた時には、光に揺らめく両目の下を紅く染めて、笑った。

「……なにそれ、ワガママ」

 少し前のめりな親指に、小さな親指がちょこんと重なって、オレたちは誓いのキスをした。






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