ぴこぴことゲームコントローラーを操るキルアのお忙しい事情などは、お構いなしに突撃する。有無を言わさぬ口調でチョコレートがコーティングされた細長いクッキー生地のお菓子を一本突きつけた私には、当然の如くその権利があった。
 何を隠そう、先日の某ポッキーゲーム事件の首謀者であるキルアとの、一騎討ちだ。あの日の屈辱、今晴らさずしていつ晴らす。

 冷静に分析した結果。正直に言おう、あの先制攻撃は有効である、と。

 身を以て体感した恐怖と羞恥――が邪魔をして冷静になるのに時間を要し、実行がなんらポッキーゲームとは関係のない次の日になってしまったが――をこの首謀者に味合わせなければ、最近失われつつある年上の威厳がさっぱり消えてしまうのだ。
 それは困る。男の子は成長が早いというが、まだまだ可愛い盛りの少年達。頭をなでなでして拒絶されるのも時間の問題で、それを少しでも引き延ばす為には、小生意気なイタズラに惑わされ、いちいちドギマギして彼らを調子に乗せてはいけないのだ。
 あと単純にムカつくのでやり返したい。

 実行者のゴンにこの手のイタズラ……もとい仕返しには全く有効打が無いので、その辺はキルアに全てふっかけることにした。可愛い反応のひとつでも見れれば満足である。

 文句の一言でも飛んできたなら、拒否権など無い!とポッキーを突っ込んでやろうと思っていたのだが。肝心のキルアと言えば、こちらを一度フイと見上げるとコントローラーを側に置き、その手で床を押して体ごと私に向き直した。

「……キルア?」
「何だよ、勝負すんだろ?」

 いや、そうだけど、そうだけども。先に言うことあるよね?ポッキーの日は昨日だとか、今ゲームで忙しいとか。いつも一言目には嫌味か反抗なのに、何でこんな時ばっかり素直ないい子ちゃんなのだ。これではイタズラを仕掛けるこちらが悪いみたいでは無いか。もしかしてそういう作戦か。

 やれやれ仕様が無いから一緒に遊んでやるよとでも言いたげな態度でもって出鼻を挫かれ、しかし此処で引き下がれる筈もなく、警戒態勢でキルアの隣にそろりと腰を下ろす。私の手からポッキーをすいと取った(気付かなかった)キルアが、持ち手の方を咥え、そしてほらと目線を合わせたことに衝撃を受けた。

 あ、あのキルアがチョコの少ない方をとった……だと!? 大金をお菓子に費やすキルアが……そ、そうか、そうやってハンデを与えて私を挑発しているのか、相変わらす恐ろしい子だ……。

 その思考を余す所なく顔と態度に表し、既に始まっている勝負に連敗しているが、そんなのは小さな事。目的は試合に勝つ事だと、おののいた体を戻してキルアの咥えるポッキーの前で床に両手を着いた。

「……私が、食べたら、スタートね」
「んん」

 何だ、何なのだこの落ち着きようは。まるで子供のお遊びに付き合うかのような態度は。だ、だがそんな余裕は今の内だ!いざ、尋常に勝負!

 でやー!とゴンからの頭突きを一瞬覚悟した程の突撃食べ進め戦法。

 結果、見事に大敗した。


 ぜんぜん、まったく、動揺してくれなかったのである。な、なぜだ、分かっててもこれは結構ビビるのでは!?

 勿論ゴンの作戦丸パクリでは無い。一口を少し大きめにして、速度を上げたのだ。まあ、その結果、全く動じなかったキルアの平然とした丸い目に耐えられず開始一秒で顔を振り払って倒れ込んでしまった訳だが。正しく秒殺であった。

 しかし八割というほぼほぼを食べた私、良くやったと自分を褒めていた横で、「オレの勝ち」と平然と言ったキルアに聞き捨てならないと体を起こして反論したところ。

「ポッキーゲームはチキンレース。何で多く食べたほうが勝ちなんだよ。先に折って口を離した方が負けに決まってるだろ」

 と、唯のうっかり食いしん坊宣言をされ、勝負に大敗しても試合に勝てばそれでいいとプライドもかなぐり捨てて挑んだこの大一番。全てにおいての負け。大負け、大敗である。

 そしてこの悔しさ故の反応は、もはや止めようが無い事だ。顔が熱いのも視界が若干滲んでいるのも指先に力が入らないのも、この悔しさ故である。絶対に。断じて。

 芋虫よろしく転がっていた私には、再びゲームに向き合ったキルアが時間差で平静を欠いていたことなど知るはずもなく。ちらりとでもそのさまを見れていたならば一矢報いたところだが、非常に残念ながら、今回の戦いは一部も隙もなく私の負けに終わったのだった。






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