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 水面下で動いていた黒ずくめの組織との戦いは、とあることを切っ掛けに活発化した。初手の動きは奴らの方が早く苦戦を強いられたが、世界各地の警察組織の連携が機能してくれば数の勝る方が優勢になるのは当然で。
 まだ正体がバレるわけにはいかないオレと灰原は表立っての行動はできなかったものの、主にFBIや公安と密接に連絡を取り合って彼らの手伝いをした。現代戦において何より大事なのは情報だ。頭を使うのは得意だからと、使える伝手を惜しみなく使い、入手した資料を手にあれやこれやと伝える日々。とてもじゃないが毛利探偵事務所に帰る時間はなくて、灰原も一緒に風邪を引いたことにして身を潜める意味も含めて阿笠邸に居着いた。まあ、何度か我慢できずに現場へ飛び出したことはあったけれど。
 それは最終決戦、コードネーム持ちの幹部が集まっていると思われる施設に奇襲を仕掛けたときも。
 作戦は上手くいっていた。順調に、円滑に——本当にあの黒ずくめの組織を相手にしているのか疑わしいほどに。目に見えない不気味さを割り出して紐解き突き止められたのは、たぶんオレだけだった。
 オレが、APTX4869という劇薬を正しく知っていたから。

「っくそ!」

 止める周囲の声を振り切ってスケボーを全速力で飛ばす。間に合うかわからないし、向かう場所も絶対にそこだという自信はない。でもとにかく頭の中はどうにかしないとと色んな想定をすることでフル回転していて、逆にクリアだった。欲を言えば何人か手助けは欲しかったが誰しもが何かの作戦に携わっている。穴を開けるわけにはいかなかった。
 そして着いた建物の前、スケボーを脇に抱えて中へ乗り込もうとしたときだ。

 ガスの匂いがした。

 一瞬意識が飛んで、気が付いたときには既に建物は黒煙と赤い炎に纏われていた。
 慌てて飛び退いて口をハンカチで塞ぎ、頭から被れる量の水がないか探す。せめて目的の部屋がどこかわかればと建物を見上げたところで、ポケットにある携帯が着信を知らせた。

「もしも——」
『江戸川くんあなた何してるの!?』
「ああ灰原か。悪い、今手が離せなくて、何かあったのか?」
『何かじゃないわよ! さっきからビルや施設が燃えてるって各所から連絡がきてるしテレビで速報もやってる!』

 ほとんど悲鳴のような灰原からの報せに、すぐ新一の携帯でネットニュースを開く。それをざっと読み、次にSNSで場所の確認をしようとしたが想像より多いことに舌を打ち、灰原に「全部地図に出して送っといてくれ」と頼んだ。彼女のことだから言われずとも地図に出すまではしているだろうが。

『……わかってたの? こうなること』
「さっきな。恐らく狙いは例の薬だ。奴らは薬に関わった全てを消そうとしてる」

 通話口から息を呑む音が漏れる。微かに聞こえた「どうして」は、オレが推理した組織の思惑を尋ねると同時に灰原が抱える歯痒さもきっとあった。オレも同じ気持ちだからわかる。でもそういうのは全部後だ。
 新一の携帯に頼んだ地図が転送されたのを確認し、頭に叩き込んだ組織の資料と照らし合わせながらスケボーのエンジンを入れる。

「まだだ、灰原。まだ何も終わってない」
『……』
「あともう少しなんだ。やるぞ」
『……ええ、わかってる』

 気を付けて、の一言を残して通話が切れた。コナンの携帯をポケットにしまい、新一の携帯は地図を表示したまま利き手に持ち直してスケボーを発進する。消防への通報は近所の目撃者がするだろうから、オレはとにかくAPTX4869の手掛かりを灰にしないことを優先することにした。画面を確認しつつ、車道を走る車の間を縫って少々乱暴なショートカットをする。間に合うかは正直わからない。でもやらないと。
 元の姿に戻ることもそうだが、あの薬は黒ずくめの組織の存在を更に追求できる材料になる。何としても手に入れたい。
 そう、あともう少しで片が付くんだ。
 ここまで来て諦めてたまるか。



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