どんな小エビも愛くるしい

「小エビちゃんっ…!」
 ユウが保健室で泣いていると聞いたフロイドは、その長い脚で校舎を駆け抜け、保健室へ飛び込んだ。ベッドを囲うカーテンがジャッと鋭い音を鳴らす。
「フロイド先輩…」
「ユウを守れなくてすみません。」
 ベットに腰掛けて泣いてるユウの髪は乱雑に切られている。髪を伸ばすのが好きなんです…ユウの言葉と笑顔がフロイドの脳裏に過った。
「カニちゃん、サバちゃん、何があったの?」
 ユウに直接話させるのは酷だろうと思ったフロイドは、後輩を怖がらせないようできるだけ感情を抑えて2人に問う。アズールやジェイドが見たら驚く光景だろう。
「実践魔法の授業中、クラスのヤツの魔法が暴走して…」
 説明する2人の顔も辛そうだった。2人もまた知っていたから。ラウンジのポイントカードを一生懸命貯めて、特典で髪を伸ばして…それから、ジェイドのアシストでフロイドと付き合うことになったことを。全部全部マブ達は隣で見ていた。
「オレ、ちょっとそいつ絞めてくる。加減できねーかもだけど。小エビちゃんのこと頼むよ。」
 魔法を暴走させた生徒は前々から魔法の使えないユウに悪意を持っていたことを知っている2人はフロイドを止めない。自分達の手でその生徒にやり返したい気持ちさえあった。
「やっ…行かないで…。」
 風が吹けば消えてしまいそうなか細い声がフロイドを引き止める。彼の制服の裾をその小さな手で握りしめて。
「小エビちゃん…オレ、そのお願い聞いてあげれな…」
「そばにいて欲しい…。1人はイヤ…。」
 フロイドの言葉を遮り、弱くもはっきりと意志を持った言葉に、フロイドは向きを変えて屈み込み、そっとユウの頬を撫でた。
「小エビちゃん…悲しいね。辛かったよね。痛いとこない?」
 壊れかけた心に届くようにゆっくりと問いかけるフロイドに彼女は怪我はないと首を縦に振った。物理的に怪我はないだろう。だか、心の傷は深く、両膝の上の握り拳は硬く、爪が肌に食い込んでいる。
「小エビちゃんのちっちゃい綺麗な手にキズがついちゃうよ。」
 硬く握りしめられた2つの拳に手を触れて、そっと指を這わせて解かせる。
「髪…、ボロボロになっちゃって…私、伸ばすの好きで…」
「うん、アズールとポイントカードで契約して、ジェイドに魔法薬貰ったもんね。」
 ぽつりぽつりと聞こえる言葉を掬い上げるように相槌を打つ。
「フロイド先輩がっ…可愛いって…褒めてくれたのにっ…それなのにっ…うぅっく…」
 一層激しく泣きじゃくるユウの両頬をフロイドの手があたたかく包み込んだ。
「小エビちゃん、小エビちゃんはね、可愛いよ。髪が長くても短くても、すっげー可愛い。だって小エビちゃんだもん。」
「…ほんとう…?」
「オレ飽きっぽいのに小エビちゃんには飽きねぇんだよ?それは、小エビちゃんがぜーんぶ可愛くて大事なオレの番だからなの。」
 こつんとフロイドの額がユウの額にくっつく。
「だから、泣かないでよ小エビちゃん。髪伸ばす魔法薬ならいくらでも作るから、どうする?今度はどんな髪型にしよっか。オレはどんな小エビちゃんでも可愛いと思うんだよね。どうせならベタちゃん先輩に聞いてみる?」
 ベッドの周りからそっと離れていたマブ2人は、いくらか和らいだ雰囲気をカーテンの向こうから感じ、静かに保健室を後にした。

END

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